特別観覧席へ!
「はあ、もうこれだけで思いっきり疲れたよ〜〜〜」
小っ恥ずかしい選手紹介がようやく全部終わり、大歓声に送られて舞台を後にした俺達は、とりあえず従魔達を連れて一旦テントに戻った。
「じゃあ、俺達はレースを見てくるから、お前らはここでゆっくりしていてくれよな。外には護衛の人達がいてくれるから、テントの外には出ちゃあ駄目だぞ」
マックスの首に抱きついてそう言うと、尻尾扇風機状態のマックスがご機嫌な声でワンと吠えた。
その瞬間、おそらくその声が聞こえたのであろう外からものすごい大歓声が聞こえてきて、俺とマックスは揃って飛び上がったのだった。
「はあ、分かりました。では、我らはここでのんびり休ませてもらいますので、ご主人はレースを見て来てくださいね」
まるで人間みたいなため息を吐いたマックスの言葉に、思わず吹き出してしまった俺だったよ。
って事で、それぞれの従魔達をテントに置いて、俺達は来てくれたエルさんの案内で特別観覧席へ向かった。
その際に、俺達はエルさんに言われてバラバラに四つの組に別れて、それぞれ護衛の人達に囲まれてテントから出て行ったんだよ。
例えば俺は、普段なら大抵はハスフェル達と一緒にいるんだけど、今回は新人コンビとランドルさんが一緒だった。ハスフェルとギイとオンハルトの爺さんもそれぞれ別の数名ずつに分かれて、時間差でテントから出て特別観覧席に向かったのだった。
だけど従魔達を連れていない上にこの少人数だと意外にテントのすぐそばにいる人達以外は気がつかないらしく、それなりの歓声はもらったものの、案外静かで拍子抜けしたのは内緒だ。
しかし、逆に人ごみの中に埋没出来る俺達と違い、明らかに人混みから頭一つ以上飛び出している高身長なハスフェルとギイのおかげでここに俺達がいるのがバレたらしく、しばらくすると明らかに黄色い歓声や俺達の名前を呼ぶ声が高くなっていき、割と本気で身の危険を感じた俺達は、守ってくれている護衛の冒険者達と一緒に慌てて早足になり、急いで進んで行ったのだった。
「はあ、ようやくの到着〜〜」
集まってきた人達に揉みくちゃにされそうになりつつ、なんとか無事に特別観覧席に到着した俺達は、有料観覧席の範囲に入ったところでそう言って大きなため息を吐いた。
一応、ここはチケットを持っている人しか入れないエリアで、その中でも俺達が座る場所はいわゆる関係者席なので、例え有料観覧席のチケットを持っていても一般の人達はここには入ってこられないようになっているんだって。ありがたやありがたや。
「はあ、なんと言うか……色々と予想以上で、もう始まる前から疲れ切ってるよ」
普段よりもかなり元気のないアーケル君が大きなため息を吐いてそう言うと、リナさん達や新人さん達も揃って苦笑いしつつ大きく頷いていた。
「お疲れ様。だから言っただろう。早駆け祭り舐めるんじゃあないって」
思わずそう言って笑うと、俺を見た初参加者達が全員揃って乾いた笑いをこぼしていたよ。
「ですね。俺達、何度か観客としてなら早駆け祭りに来た事があったんですが、観るのと出るのは、何と言うか……色々と桁が違いますね」
オリゴー君の言葉に、隣ではカルン君も疲れ切った表情で何度も頷いていた。
「でもまあ、ここにいれば安全だよ。あ、そろそろ準備が始まっているから、早く座ろう。急がないと始まっちゃうぞ」
会場を見れば、一番小さな子供達のレースの準備が始まっているみたいで、スタートラインの近くにいつもの如く大型犬や小型犬、小型のポニーを連れた子供達が集まりはじめている。
それに混じって、あの猫を連れた女の子の姿も見えて、思わず笑顔になった。
彼女は今年十歳だから、今年の早駆け祭りが、このクラスに参加するのは最後になるって言っていたもんな。
将来のテイマー候補でもある猫を連れた彼女の参加するこのレース、実は結構楽しみにしているんだよな。あの何者にも動じない猫が可愛くて仕方がないんだよ。
用意されていた席は三列あったので、一番前側には小柄なクーヘンと草原エルフ一家に座ってもらい、俺や新人コンビとレニスさん、それからマールとリンピオがその後ろに並び、大柄なハスフェル達とボルヴィスさんとランドルさん、それからアルクスさんが後列に並んだ。
アルクスさんは小柄だから大丈夫かと思ったんだけど、何と彼は大きな分厚いクッションをベルトの小物入れから取り出してその上に座っていた。ううん、準備万端だね。
「おお、魔獣使いの皆さんもお越しでしたか」
座って一息ついたところで聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、ウッディさんとフェルトさんをはじめとした三周戦の参加者の皆さんが笑顔で手を振っていて、さっきの参加者紹介の時にはゆっくり挨拶も出来なかったので俺達も笑顔で皆と挨拶を交わして、冬の間の街での色々について教えてもらったりしていたのだった。
「お待たせしました! 間も無く最初の未成年の子供達による最初のレースが始まりますよ〜〜! 皆様、どうぞこちらにご注目くださ〜〜い!」
その時、ご機嫌な司会者の声が会場内に大きく響き渡り、のんびり話をしながら寛いでいた俺達は、慌てて揃って座り直したのだった。