祭りの始まり!
「うおお、もうこの歓声を聞いただけでテントに戻りたいよ〜〜〜」
俺達がテントから出た途端、地鳴りのような大歓声が響いて全員揃って飛び上がった。
いや、マジで街の皆さんも観光客の皆さんもテンション上げすぎだって。
「ほら、行くよ」
笑ったエルさんの先導で、それぞれの騎獣の手綱を引いてゆっくりと進んでいく。
連れて行かれたのは会場正面の舞台横。
華やかな飾り付けがされた広くて大きな舞台から一段下がったところに用意された場所で、まあいわゆる舞台袖部分だ。
いつもよりも舞台袖の場所が広いのは、従魔達の数と大きさを考えてくれたからだろう。
舞台前には、少し離れた所に立ち入りを制限するロープが端から端まで張られていて舞台前には広く場所が空いている。いつも、犬の飼い主大集合の参加者達が勝手に表彰式を行なっている場所だよ。
だけど、その向こうはすでにこの広い広場を埋め尽くす勢いで集まった大勢の人達がいて、当然全員がこっちを見ている。冗談抜きで、街中の人が来ているんじゃあないかと思いたくなるくらいの人の多さだ。
あまりの人の多さと注目っぷりに、俺はそっちを直視出来なくて小さなため息を吐いて舞台袖側を見る。
「あ、ウッディさん達だ」
ちょうど俺達がいる舞台袖の奥側に、馬の手綱を手に立っている大学教授コンビのウッディさんとフェルトさんに気がついて手を振ると、二人も笑顔で手を振り返してくれた。
それ以外にも、見覚えのある三周戦の参加者の人達が並んでいてこっちに笑顔で手を振ってくれた。
「ああ、やっと来られました! 間に合わないかと思いましたよ〜〜」
その時、イグアノドンのチョコの手綱を引いたクーヘンが俺達のところへ駆け寄ってきた。
今回、クーヘンはもちろん五周戦にチョコと一緒に参加なんだけど、早駆け祭りの運営役員もしていたらしく、俺達と一緒にホテルに泊まっていなかったんだよな。
なので、彼と会うのはレニスさんを講習会場に連れてきてくれた時以来だ。
「役員お疲れ様〜〜〜! ホテルに来なくて大丈夫だったのか?」
クーヘンだって街の人達にかなり人気があるんだから、祭り前に迂闊に人前に出ると大変だったのではなかろうか?
若干心配になってそう尋ねると、ちょっと遠い目になったクーヘンは俺を見て笑って首を振った。
「チョコは、早めにホテルのスタッフさんに預けていましたし、他の従魔達は、ドロップ以外は店に置いてきました。兄さん達が面倒を見てくれています。私はずっと裏方担当で関係者以外の人の前に出ることはほぼ無いままでしたから、大丈夫でしたよ。でもまあ、関係者だけとはいえ会う人会う人全員から応援されて、冗談抜きで恥ずかしさに倒れそうでしたよ」
苦笑いするクーヘンの言葉に、もう乾いた笑いしか出ない俺達だったよ。
「それでは皆様! お待たせ致しました! ただいまより早駆け祭りを開催いたします! まずは、今回の主催の船舶ギルドのギルドマスターからご挨拶をさせていただきます!」
聞こえてきた大きな声に慌てて舞台を見ると、いつもの司会者さんともう一人、背の高い男前の人が進み出てきた。あまり俺は直接の関わりはないけど、あの人がハンプールの船舶ギルドのギルドマスターであるシルトさんだ。
司会者さんからマイクを受け取ったシルトさんは、にっこりと笑って会場の人達をゆっくりと見回した。
「皆様お待ちかねの早駆け祭りの始まりです。今回は皆様ご存知の通り、新しく魔獣使い達による五周戦が新たに追加されました。それに伴い、レースの開始時間が今までとは違っております。賭け券の購入は各レースの直前までとなっておりますので、お買い逃しのないようにお気をつけください! それでは、どうぞ皆様、春の早駆け祭りを大いに楽しんでください!」
最後は大きな声でそう言って拳を振り上げる。その瞬間、爆発したみたいな大歓声と沸き起こる拍手。
笑顔のシルトさんが舞台から下がるのと交代で、返してもらったマイクを持った司会者さんが進み出てきた。
「それでは、早駆けレースの参加者の皆様を順番に紹介させていただきます!」
またしても一気に会場が沸き上がり、最初の未成年の子達から紹介が始まった。
いつものあの猫を連れた女の子もいて、会場は大いに沸いていたよ。
俺達も、子供達が笑顔で進み出る度に舞台袖から力一杯拍手をしてあげていたのだった。
次は中高生くらいの子達の紹介。あの、お菓子を孤児院の友達にあげた子もいて会場から大歓声を受けていた。
恥ずかしそうにしつつも嬉しそうなその笑顔に、なんだか俺も嬉しくなって思いっきり拍手を送ったよ。
俺のお気に入りの犬の飼い主大集合みたいなレースの参加者達の時には、あちこちから笑い声が聞こえて、俺も一緒になって笑っていたのだった。
いやあ、楽しいねえ。そうそう、やっぱり祭りはこうじゃあないとな!