じゃあ行こうか!
「はあ、到着〜〜〜冗談抜きで、もう今直ぐ倒れそうだ〜〜〜!」
情けない俺の声に、ハスフェル達も苦笑いしつつ頷いている。
「予想の百倍とんでもなかったな」
「だな、私は冗談抜きでもう今すぐホテルに帰りたくなってるよ」
疲れ切った様子のアーケル君の呟きに、リナさんが全力で同意するかのように首がもげそうな勢いで頷いていたよ。
祭り会場に到着した俺達は、護衛の冒険者達に取り囲まれたまま一旦控室である大きなテントに連れて行かれた。
そうそう。大型テントを密着していくつも並べて立てて、間の垂れ幕を全部巻き上げてくれてあるから中はすっごく広くなっているんだよな。
前回と同じく、奥には大きな水桶が用意されていて、従魔達が好きに水を飲んでもらえるようになっている。
「とにかく座ろう。このままいたら冗談抜きで倒れそうだ」
大きなため息と共にそう言った俺は、近くにあった椅子にとりあえず座り少し考えてコーヒーやジュース、それから簡単につまめそうな焼き菓子やクッキーなんかを適当に取り出して並べた。
「疲れた時には甘いものがいいよな。ほら、座って座って」
笑った俺の言葉にあちこちからお礼の言葉が返り、それぞれ好きな椅子に座る。
一応、置いてくれてあるのは折りたたみ式の椅子と机なんだけど、椅子はかなりいいものみたいで、かなり大きいから大柄なハスフェル達でもゆったり座れる。それにこの背もたれや手すりもついた一人用の椅子は、驚くくらいにめっちゃ座り心地が良い。体全体を受け止めてくれる感じが良い。
「ううん。これは良い椅子だ。これってどこかで売っているのかな? マジで欲しいぞ」
背もたれに体重を預けて手すりを撫でながら、思わずそう呟く。
俺が普段郊外に出た時なんかに使っているのは、旅に出て最初の頃に適当に買った折りたたみ式の椅子とテーブルだ。
パーティーメンバーが大人数になった今では、後から追加で買ったテーブルも使っているけど、椅子はずっと同じのを使っている。一応座面は四角だけど、背もたれのない簡単なものだ。ハスフェル達が使っている折りたたみ式の椅子も、脚は太めのしっかりしている物だが同じような背もたれも手すりもないタイプだ。
「確かに、これは座り心地がいいな。後でエルに聞いて購入してもいいくらいだな」
ギイの呟きに聞いていた全員が真顔で頷き、これを後で全員購入するのが決定したよ。
その後、とりあえずそれぞれ好きに飲み物とお菓子を取って休憩していると、笑顔のエルさんが声をかけてテントに入ってきた。
「もう間も無く参加者紹介が始まるので、行こうか。おや、お茶の時間だったかい?」
テーブルに並ぶお菓子の山とドリンクのピッチャーを見たエルさんが苦笑いしている。
「いやあ、甘い物でも食べないとやってられませんって。ホテルからここへ来るだけで、もう俺達の気力も体力も限界っす」
「あはは、早駆け祭り二連覇の勝者が何を言っているんだい。お寛ぎのところ申し訳ないんだけど、そろそろ時間だよ」
笑って俺の腕を叩いたエルさんが、そう言って皆を見る。
「レースに参加する騎獣以外の従魔達は、そのままここに残しておいてくれていいよ。テントの周りには護衛の冒険者達を配置しているから、留守の間の安全は冒険者ギルドが保証するよ」
笑顔のエルさんの言葉に、初めての早駆け祭りの時にレースを終えて戻ってきた時の事を思い出してマジで遠い目になった俺だったよ。
「まあ、今回は初めて心置きなく走れそうですよ。だけどあの、参加者紹介は冗談抜きでなんとかして欲しいよなあ」
大きなため息を吐いてそう呟いた俺だったけど、初めての時に比べれば大幅に増えた仲間達を見た。
「そっか、初参加の人達があれだけいるんだから、参加者紹介も初めてだよな。うん、これはちょっと楽しみかも」
一度目と二度目は、それほど違いがなかった気がするので俺やハスフェル達の紹介は今回もそれほどの大きな変化はないだろう。となると、リナさん一家の五人にボルヴィスさん、アルクスさんにシェルタン君とムジカ君、レニスさんにマールとリンピオ。十二人も増えているんだから、種族も人間だけじゃあなくて珍しい草原エルフが五人もいるんだし、上位冒険者から新人冒険者まで、かなりのバリエーションだ。となると、こっちの紹介はかなり色々ありそうだ。
新たな楽しみを思いついてにんまり笑った俺は、一口残っていたコーヒーを飲み干してから立ち上がった。
皆も、残っていたドリンクやお菓子を慌てたように平らげてから立ち上がる。
スライム達が、すぐに散らかった残りのお菓子とドリンク、使ったお皿やカップを片付けてくれたので、鞄に入ってくれたサクラに丸っと全部収納してもらった。
「お待たせしました。じゃあ行くとするか!」
諦めのため息を吐いた俺の言葉にあちこちから笑い声があがる。
それから、頷き合った俺達は、それぞれの騎獣の手綱を引いてエルさんの先導でテントから出て行ったのだった。
だけど外に出た途端に沸き上がったものすごい大歓声と拍手に、冗談抜きでいますぐ帰りたくなった俺だったよ。