お祭り前夜
「はあ、いよいよ明日は早駆け祭りだな!」
その日、デリバリーで豪華な朝食を食べた俺は、そう言いながらハスフェル達を振り返った。
「おう、いよいよだな」
「今回は俺が勝たせてもらうぞ」
「何を言うか。勝つのは俺とランドルだよ」
ハスフェルとギイ、そしてオンハルトの爺さんの言葉に俺も笑って胸を張って見せた。
「じゃあ、誰でもいいから俺の三連覇を阻んでみせてくれよな」
そこまで言ってふと考える。
「あれ? レースの種類が変わったんだから、俺が勝っても三連覇にはならないんじゃあないのか?」
「ああ、確かにそうだな」
俺の呟きに、苦笑いしたハスフェルもそう言って頷いている。
「でも、あちこちから三連覇を期待してるって言われているから、勝てば三連覇でいいのかな?」
「いいんじゃあないか。まあ俺が阻むけどな」
「「何を言うか。阻むのは俺だぞ」」
笑ったハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんが即座に突っ込み、顔を見合わせた俺達は揃って吹き出したのだった。
ちなみに、最近では朝食はリナさん達やランドルさん達もそれぞれの部屋で食べていて、昼食と夕食は一番広い俺達の部屋で全員一緒に食べているよ。
もちろんボルヴィスさんやアルクスさん、新人コンビやレニスさん、それからマールとリンピオも同じで、朝食は各自で昼食と夕食は一緒に食べている。
祭りの前に郊外から街へ戻り、早駆け祭りが始まるまでこのホテルに泊まっていた俺達は、同じくここに泊まっていた暴力野郎の二人とも和解して、ようやく平穏な日々を過ごしていた。
だけど、とにかく祭りが始まるまでは、参加者達の安全確保の意味もあって俺達全員ホテルに缶詰状態なので、勝手な外出は出来ない。
特に、初参加組の新人コンビやボルヴィスさん達と違い、俺やハスフェル達は完全に面が割れているからお忍びでこっそり出かける事も不可能。
まあ、何か欲しい物があれば執事さんに言えばなんでもすぐに届けてくれるし、日替わりのメニューが満載のホテル自慢の料理のデリバリーも最高に美味しいから、別に不自由があるわけじゃあないんだけど、でも正直言ってめっちゃ退屈。
マジで食べて飲むくらいしかする事が無い。あとはボードゲームくらい。
ちなみに新人コンビとレニスさんはボードゲーム自体初体験だったらしく、ゲーム好きなハスフェルとギイが張り切って遊び方を一から教えていたよ。
とは言えダラダラ飲んで食べるだけだと体がマジで鈍るので、執事さんにお願いしてホテルの中にあるトレーニングルームを開放してもらって、皆で一緒にトレーニングしたりもした。
オンハルトの爺さん主催の対人戦の講習会や、時には従魔達にも参加してもらってのジェムモンスターとの効率的な戦い方や防御の仕方なんかの講習会は大好評で、俺も一緒に参加して、まだまだ知らなかった事を色々と教わったりもして過ごした。
それから俺は、ホテルの部屋に備え付けのキッチンで時間のかかる煮込み料理なんかを作ったりもしたよ。
そして、いよいよ明日から早駆け祭りが始まる。
今回は、いつもの十歳以下の子供達のレースに始まり、楽しい混合戦と呼ばれる半周戦までのそれぞれのレースと表彰式を初日の午前中に、午後からは賭け券の対象になる馬に乗った人達による一周戦と二周戦とそれぞれの表彰式を行い、翌日の午前中に馬に乗った人達による三周戦と表彰式、そして午後から魔獣使い達による五周戦と表彰式を行う日程になっているんだって。うん、なかなかにハードな日程だね。
今後は、この五周戦が祭りのメインレースになるみたいだ。
それでも以前の俺達が参加していた三周戦も、聞くところによると賭け券の売り上げは相当らしい。
どうやら俺達魔獣使い達が全員いなくなった事により、ほぼ実力の拮抗している参加者達がひしめき合う状態になった三周戦は、逆に誰が勝つかで大いに盛り上がっているらしい。
個人的には、大学教授コンビのチームマエストロ、ウッディさんとフェルトさんに頑張って欲しいところだ。学生さん達も喜ぶだろうからな。
「あ、そう言えば自分の賭け券、買っていないぞ」
不意に気がついて慌てる。
「ああ、それなら部屋付きの執事に頼めば買ってきてくれるぞ。じゃあまとめて頼むか」
笑ったギイがそう言ってメモを取り出す。
顔を寄せて相談して、俺は自分の単勝の賭け券と、少し考えて三周戦のウッディさんとフェルトさんの単勝の賭け券も買う事にした。
「他の奴らにも声をかけておくか」
笑ったハスフェルが立ち上がって部屋を出て行き、しばらくしてメモの束を持って戻ってきた。
それから、部屋付きの執事さんにメモの束と金貨の入った袋を預けて全員分の賭け券を買ってきてもらった。
俺の部屋に全員集合してそれぞれの賭け券を渡して、それぞれの代金を支払う。
それが終わればもう本当にする事もないので、なんとなくダラダラ飲んで過ごし、夕食はまたデリバリーを大量に頼んで皆で大いに飲んで食べた。
もちろん、祭り当日に二日酔いなんかになったら大変だから、一応自重して飲んだよ。
「明日の、子供達のレースや、半周戦も楽しみだよ」
冷えた白ビールを飲んだ俺の呟きにハスフェルとギイも笑って頷く。
「ああ、確かに本格的なレースも面白いが、あの子供達の大騒ぎっぷりや、半周の混合戦も見ていて楽しいからなあ」
「俺は、あの混合戦後半の、犬の飼い主大集合みたいなノリの良さが好きだよ」
笑った俺がそう言うと、あちこちから笑い声と共に同意の声が上がった。
「じゃあ、皆の活躍と、五周戦では誰が勝っても恨みっこなしって事で、祭りの成功を願って、カンパ〜〜イ!」
俺がそう言って白ビールを追加で注いだグラスを高々と掲げる。
「皆の活躍と、五周戦では誰が勝っても恨みっこなしって事で、祭りの成功を願って、カンパ〜〜イ!」
笑顔の全員からの返事が返り、俺も笑ってハスフェルのグラスにマイグラスを軽くぶつけたのだった。