スライム達の事
「はあ、呑んだ翌朝に当たり前のように、これを出してくださるケンさんを尊敬します〜〜」
「だよな。しかもどれも本当に美味いんだよな」
鶏雑炊を食べているアーケル君の呟きに、こちらは卵雑炊を食べているオリゴー君とカルン君が揃って何度も頷く。
「確かに、本当にどれも美味しいですね」
「ううん、最強の魔獣使いが料理上手って、どれだけ有能なんですか」
マールとリンピオは、嬉しそうに揃って岩豚味噌汁にご飯を入れて朝からガッツリ食べている。ううん、さすがに胃袋も若いんだねえ。
密かに感心しつつ、笑った俺は高級梅干しで白粥を食べているよ。
はあ、梅干し美味しい……。
「ごちそうさまでした。はあ、お腹いっぱいだ」
俺の言葉にあちこちからもご馳走様の声が聞こえて来たので、俺は笑って立ち上がり全員に緑茶を入れてやった。しっかり水分補給もしておかないとな。
「それにしても、スライム達にあんな事が出来るなんて本当に驚きです」
「だよなあ。誰だよスライムが役立たずだなんて言ったのは」
お茶を飲みながら、マールとリンピオが足元に転がるスライム達を見ながら小さな声で話をしている。
「なあ、一つ質問なんだけど、そのスライムが役立たずだってのはどこからの情報なんだ?」
その会話を聞いていてふと思いついた俺は、二人を見ながらそう尋ねた。単なる思い込みだったりすると、マジで激おこ案件だぞ。
すると、二人は無言で顔を見合わせてから揃って俺を見た。
「その、俺が子供の頃に読んだテイマーを主人公にした本に書いてあったんです。例のテイムの仕方を書いてあった本なんですが、そこに、スライムなんて役立たずを旅に連れていく必要はないって、そんなセリフがあったんです」
困ったようにマールがそう言い、リンピオも同じように困った顔で頷いている。
「ええと、それってもしかして、子供向けの絵本?」
「いえ、もう少し上の年齢の子供が読む物語で、いわゆる魔王討伐の冒険譚です。主人公のテイマーだった少年が、旅をしながら強い魔獣やジェムモンスターと戦って従えていき、最後は魔王を倒すお話です」
おう、こっちの世界でもそういう冒険譚って子供には人気なんだ。
「へえ、じゃあその物語の主人公のテイマーはスライムを連れていなかったんだ」
「いえ、それを言ったのは主人公の仲間になった幼馴染の少年の方で、主人公がスライムを練習で最初にテイムした時にそう言って馬鹿にしたんです」
「ええ、それはちょっと酷いなあ」
俺の言葉に、二人はまた困ったように顔を見合わせている。
「じゃあ、そのお話にはスライムはもう出てこなかった?」
「ええと、一応せっかくテイムしたんだしって言って、主人公はスライムも連れて旅に出て行きます。でも、ほとんどスライムの描写はなかったですね。戦いの場で、たまに悲鳴を上げて主人公の後ろに隠れて逃げ回っていたくらいです」
「へえ、そうなんだ。って事は、その作者は間違いなく、スライムの事だけじゃあなくテイマーや魔獣使いの事も知らないな」
断言する俺の言葉に、二人が揃って驚いたように俺を見る。
「だって、スライムは戦いの場では盾になって主人を守ってくれるぞ。もちろん、とんでもなく強い相手なんかだと敵わない事もあるけど、序盤の弱いジェムモンスターなんかだと間違いなく死角からの攻撃なんかからは確実に守ってくれるぞ。なあ!」
俺の言葉に、シェルタン君がすごい勢いで何度も頷く。黙って話を聞いていたボルヴィスさん達も、真顔で何度も頷いている。
「そ、そうなんだ……」
「それに、スライム達の確保してくれる力はすごくしっかりしているから、空を飛ぶ時に落ちないように守ってくれたりもするぞ」
「空を飛ぶ時、ですか?」
「ええ、無茶言わないでください。どうやって人間が空を飛ぶんですか?」
驚く二人の言葉を聞いて、レニスさんから聞いた通りで彼らは鳥に乗れる事を知らないのが分かって思わず吹き出した。
「魔獣使いになって、せっかくフクロウをテイムしていたのに、もしかして乗った事なかったんだ」
呆れたようにそう言ってやると、これまた揃って驚いた顔で俺を見る二人。
「ええ、いくらなんでも人はフクロウには乗れませんよ」
リンピオの言葉に、しかしマールは急に無言になって考え込んだ。
「もしかして、巨大化した鳥の背中になら人が乗れるんですか? スライム達に落ちないように確保させて?」
苦笑いしながら頷いてやると、二人揃って驚きの声を上げる。
「せっかくフクロウがいたのに、もったいない事をしたな。まあ、機会があればまた鳥をテイムしてみるといい。空からの眺めは最高だぞ」
笑った俺の言葉に、もう一回揃って驚きの声を上げる二人だった。
まあ、心を入れ変えたとはいえ、まだまだ魔獣使いとして教える事はありそうだね。