更なる指導と新たな目覚め?
「どうだ? 従魔達からの愛のスキンシップの凄さは」
またしても色々と残念な見かけになったマールを助け起こしてやりながらそう聞いてやると、マールも、それから自力で起き上がったリンピオも、揃って恥ずかしそうにしつつも笑顔で何度も頷いてくれた。
「あの、本当にその……色々と失礼しました。それなのに、こんなに当たり前のように優しく接してくださって、その……」
また俯いたマールが、小さな声で、それでもしっかりとそう言うのを聞いて、俺はもうこれ以上ないくらいの笑顔になった。
「気にしなくていいって。まあ、初対面はあんなだったけど、ちゃんと反省して、暴力が駄目なんだって事は……もう分かってくれたよな?」
「はい、もうしません」
うんうんと頷く二人を見て、俺は心の底から安堵のため息を吐いた。
初めて会った時の印象はもう最悪だったけど、こうしてちゃんと改めて正面から接して話をしてみれば、自分の間違いを認めて正せる素直な良い子達だよ。しかもまだ十代!
ううん、なんだか自分がすっごいおっさんになった気分になって、割と本気で遠い目になった俺だったよ。
「じゃあ、もう一つ最高な事を教えるからな」
深呼吸をして二人を振り返った俺は、俺の横で並んでドヤ顔になっているマックスとニニを見た。
「俺が普段、どうやって寝ているか見せるからな」
その言葉に、俺の従魔達がそりゃあもう嬉々として集まってきたよ。
そして、俺の横には即座に巨大なスライムベッドが出来上がる。
「まず、俺のベッド役はこのリンクスのニニ」
俺の声と同時にスライムベッドに寝転がるニニ。笑った俺は、そう言いながらもふもふな腹毛の海にいそいそと潜り込んで横向きになって寝転がった。
「足元には、ハウンドのマックスとリンクスのカッツェ」
俺の言葉にワンと吠えたマックスが、いつものように俺を挟んで横になる。そして俺の足元に二匹にくっつくみたいにしてカッツェが横になる。
「背中側には、ウサギトリオがくっつくよ」
それを聞いて、中型犬サイズになったウサギトリオが一瞬で飛び跳ねて来て、俺の背中にピッタリとくっついた。
「今日の抱き枕役は誰かな?」
笑った俺の声に、慌てたようにマニと猫サイズのタロンが並んで潜り込んでくる。
「うわあ、なんだよあれ。最高のもふもふだ」
リンピオの感動したような呟きが聞こえて、思わず吹き出す俺。
「いいだろう? もう最高だぞ」
ちょっとドヤ顔で言ってから、俺の周りを取り囲んでいる他の子達を見る。
「あとは好きにどうぞ!」
笑ってそう言うと、まず猫族軍団の子達が猫サイズのままで飛びかかってきて俺の顔の横やマニとタロンを抱きしめている腕の隙間。それから足の横などに好き勝手にくっつく。
大型犬サイズのセーブルがニニの横にくっつき、オオカミ達とビアンカがマックスの横にピッタリとくっつく。
お空部隊の子達はさすがに一緒には寝られないので、すぐ側に置いたソファーの背もたれに並んでぎゅうぎゅう詰めになって留まっている。
それを見たムジカ君の口からちょっと変な声が出ていたけど、全員スルーしていたよ。
イグアナコンビやモモンガのアヴィは、マックスの頭の上や首元など、俺が寝返りを打っても大丈夫な位置で収まった。
俺の従魔だけど残念ながら一緒には寝られないハリネズミのエリーは、ソファーに置かれた俺の鞄の外ポケットに収まっているよ。
「うわあ、すっげえ……」
マールの感動したような呟きを聞いて、もう一度ドヤ顔になった俺だったけど、もふもふに埋もれてそのまま気持ちよく眠りの海へ落っこちていったよ。ドボン!
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
しょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるって……」
いつものモーニングコールに起こされた俺は、妙な違和感を覚えつつそう呟いた。
「な、言ったとおりだろう?」
何故かすぐそばで笑ったハスフェルの声が聞こえる。
「え? どうしてハスフェルがいるんだ……?」
眠すぎて開かない目をなんとか開けようと苦労しつつ、そう呟いて起きあがろうとした瞬間、大爆笑になった。
ハスフェル達やリナさん達だけでなく、マールやリンピオも一緒になって笑っているよ。
「へ? あ、そうか!」
ようやく状況が分かって、俺も思わず吹き出す。
「相変わらずだなあ。いくら寝心地がいいからって、普通この状況で寝るか?」
笑ったハスフェルに頭を突っつかれて、もう一回吹き出した俺はやっと開いた目で天井を見上げてからため息を吐いた。
「な? もう抵抗のしようがないくらいに最高の寝心地なんだよ。君達も、もっと従魔を増やして最高の寝心地を手に入れてくれよな。言っておくけど、郊外でテントを張るなら従魔達が一緒に入れる一番大きいテントは必須だぞ。それから、スライム達は絶対に役立たずでも連れていて恥ずかしいなんて事も無いぞ。スライム達は最高に役に立ってくれる従魔達なんだからな!」
起き上がった俺の言葉に、神妙な顔をした二人がうんうんと頷く。
「あの、それで、ちょっとお願いがあるんですが……」
「おう、何だよ、改まって?」
慌ててマールに向き合うようにして立つと、彼は俺を見てから、まだそのままスライムベッドの上にいるもふもふ従魔達を見た。
「もしかして、やってみたい?」
もうそれだけで彼が言いたい事を理解した俺は、小さく吹き出してからニニを手を伸ばしてそっと撫でてやった。
「もふもふの中で寝てみたいんだってさ。ちょっとだけ良いか?」
俺の言葉にわざとらしくちらっと二人を見たニニは、俺を見てから目を細めて声のないにゃーをした。
「まあちょっとくらいなら良いわよ。私のもふもふなお腹は、そりゃあ魅力的でしょうからね」
ドヤ顔のニニの答えに、俺はもう一回吹き出したよ。
もちろんマックス達もOKらしく、尻尾が扇風機状態になっている。
「いいってさ。ほら行ってこい!」
笑ってマールの背中を押してやる。それからついでにそばにいたリンピオも引っ張って押し倒してやった。
悲鳴をあげた二人がニニのところへ倒れ込むと、待ち構えていた猫族の子達が二人に飛びかかってマックスとニニ、カッツェとビアンカの間に押し込んだ。そしてそのまま当然のように腕の中へ潜り込む子。背中や足、腕にくっつく子などもう好き放題。完全に二人とももふもふの海に沈んでいる。
出遅れたマニは慌てたように飛びつこうとしたが、もう入れる隙間がどこにもない。
だけどしょんぼりしたのは一瞬で、何故かセーブルと並んで寝ている彼らの上に勢いよく飛びかかっていった。
マニに腹を踏まれたマールの悲鳴と、顔面に飛びかかられたリンピオの喜ぶ声が上がり、見ていた俺達は揃って吹き出しもう一回大爆笑になったのだった。
うん、どうやら彼らももふもふの魅力を思い知ってくれたみたいだ。よし!