従魔達からのスキンシップ
「じゃあ、次はマールだな」
まだ、アクアの上で仰向けになったままタバサに舐め回されているリンピオを見た俺は、笑ってマールを振り返った。
「えっと、あの……」
戸惑うみたいにあたふたしているだけの彼を見て、にんまりと笑った俺は彼の従魔達を見た。
「やり方って聞いたか?」
小さな声でそう言ってやると、真っ黒な鹿のアントラが嬉しそうに目を細めてうんうんと頷いた。
振り返ってそばでもふ塊になってる従魔達を見ると、全員揃ってドヤ顔になっていた。うん、ご苦労さん。
「じゃあ、お前らも大きくなっていてくれよな」
ライオンのメインやクロヒョウのパオ達も撫でてやり、俺は振り返ってマールを手招きした。
素直にこっちへ来る彼が俺のすぐ側まで来るのを待ってから、俺はにんまりと笑って彼を思いっきり突き飛ばしてやった。
当然、不意打ちを喰らって抵抗する間もなく仰向けに倒れるマール。
「危ないよ〜〜」
側にいたアルファが、のんびりした声でそう言って一気に大きくなって倒れてきたマールをしっかりと受け止めてくれる。
「ほら行け。まずは思いっきり舐め回したり甘えたりして来い!」
次に側にいたアントラをはじめとする彼の従魔達を、そう言いながら次々に彼の方へ押しやってやった。
一瞬だけためらうように踏ん張ったアントラだったけど、笑った俺がアントラの体をごく軽く叩いてもう一回力を込めて押してやると、そのまま勢いよく彼のところへ飛び込んでいった。
今のアントラは中型犬くらいの大きさになっているから、飛びついても大丈夫だ。と言っても蹄のあるアントラは、猫族や犬族の子達みたいにもふもふってわけではないし、甘えるのに細くて長い脚を使うのも苦手そうだ。
どうするのかと思って見ていると、体の横面で全身を使って彼にくっついたアントラは、角を彼に向けないようにしながら濡れた鼻先を彼の頬や首筋に押し付けては悲鳴を上げさせたり、自分の太い首を彼の体に擦り付けるみたいにしてもう文字通り全身を使って甘えていた。
もちろん、猫族のメインやパオは巨大化してそんなアントラごと抱きつくみたいにして、こちらも全身でくっついて嬉々として甘え倒していたし、イグアナのクロは、そんな仲間達を見て慌てたみたいに手のひらサイズにまで小さくなって、彼の首元に潜り込んでいって収まっていた。
従魔達の、文字通りの全身攻撃に最初こそ悲鳴をあげたマールだったけど、途中からは悲鳴は歓喜の笑い声に変わり、メインやパオのざらざらの舌で舐められては悲鳴をあげて転がっていたよ。
「ほら、こうやって抱きしめ返してあげるんだよ。最高のもふもふだぞ」
無抵抗な彼を見て、笑って側にいたマックスに両手で抱きついて見せてやると、一瞬だけ従魔達の甘え攻撃が止んだマールが驚いたように顔を上げて俺を見て、それから自分を見つめている従魔達を見た。
しばしの沈黙。
どうなる事かと思ってそのまま黙って見ていると、両手を広げたマールがアントラの太い首元に抱きついた。
嬉しそうに目を細めたアントラがゆっくりと脚を踏ん張って首を引き上げ、抱きついた彼ごと起き上がる。
それに気づいたアルファが、さりげなくそれにタイミングを合わせてググって感じに膨らんで彼が立ち上がるのを助けたのはさすがだったね。
とりあえず立ち上がった彼を従魔達が取り囲み、嬉々としてまた彼を揃って押し倒す。
もちろん倒れたのはアルファの上だよ。今度はメインとパオがそのまま彼の上に飛びかかり全身で押さえ込むみたいにしてくっついた。
「ほら、こんな風にして撫でたり揉んだりしてあげるんだよ」
マックスと交代して横に来てくれたニニの顔を、俺が見本を見せるみたいにして両手で揉んだり撫で回したりしてやる。
また一瞬だけ止まった甘え攻撃の合間にこっちを見たマールは、最初は戸惑うみたいにメインの顔を抱きしめ、次にパオの顔も抱きしめて、もうこれ以上ないくらいの笑顔になった。
そこからはもう、交互に甘えてくる従魔達を撫でたり抱きしめたりしているマールを、俺達はいろんな思いを込めて黙って見つめていたのだった。
かなりの時間が経ってから、ようやく甘え攻撃から解放されたマールがアルファの上から降りてくる。
彼の装備こそそのままだったけど、腕の籠手はなんだか向きが変になっていたし、髪の毛はもうぐっちゃぐちゃ。
胸当ても若干向きが変わって中に着ていた服がはみ出しているし、剣帯はもう完全に前後が入れ替わって体に巻き付くみたいになっている。
立ち上がって自分の状態に気がついた彼は、苦笑いしながら若干苦労して剣帯を外し、そのまま胸当てなどの装備も全部外してから服を整えて改めて装備を直した。
それから、側で整列していた自分の従魔達を見て、ゆっくりと何度も撫でていた。
「今までごめんよ。その、いろいろ覚えるから、もうちょっと待ってくれよな」
ごく小さな声で謝る彼の言葉に、もうこれ以上ないくらいに嬉しそうな声を上げた彼の従魔達は、もう一回今度は全員で飛びつき、またしても彼をアルファの上に吹っ飛ばしたのだった。
歓喜の悲鳴と共に改めて従魔達に揉みくちゃにされる彼を見て、俺は心の底から安堵のため息を吐いたのだった。