さあやるぞ!
「おお、大きな建物ですね。確かにここなら、マックスやニニ達が全員一緒でも大丈夫ですね」
案内されたその建物を見て、俺は思わずそう言ってスタッフさんを振り返った。
「はい、ここなら従魔達も大丈夫かと思いご用意させていただきました。一応、木の床は蹄のある子や犬科の子達は滑るかと思い、運動用のマットを敷かせていただいておりますので、どうぞそちらをお使いください。念の為、絨毯も敷いてありますのでそちらもお好きにお使いください」
にっこり笑ったスタッフさんが、笑顔でそう言って大きな鉄の扉を開けてくれた。
案内されたそこは、俺達が泊まっている本館と呼ばれる大きな建物の中ではなく、その裏庭にあった別の建物の方だった。
そもそもここにこんな建物があったのも初めて知ったし、わざわざ別館を開けてくれたのかと思って恐縮したんだけど、中に入って納得したよ。
どうやらここは、体育館みたいなものなのだろうと思われた。
中は建物が丸ごと一つの部屋になっていて、大きくドーム型になった天井は高く、広い内部には柱が一切無い。
床は平らで、フローリングみたいに艶のある木の板が端から端まで敷き詰められているんだけど、その中央部分にはさっきスタッフさんが言っていた分厚い運動用のマットみたいなのがぎっしりと並べられているし、その反対側には、これまた分厚くて大きなペルシャ絨毯みたいなのが何枚も並べて敷かれている。
確かに犬科の子達は、フローリングの床は爪が当たって滑るから、マットを敷いてくれてあるのは本当に有り難いと思う。
ここのスタッフさん達が、どれだけ動物の知識があるのか。そして従魔達の事を考えてくれているかを思い知って、ちょっと嬉しくて涙目になった俺だったよ。
「うん、いいですね。ここなら思いっきり大きくなった従魔達がはしゃいでも大丈夫そうだ」
広い中を見渡して感心したようにそう呟くと、案内してくれたスタッフさんは満面の笑みになった。
「どうぞご自由にお使いください。実を申し上げますと、あのお二方がお連れになっていた従魔達については、我らも色々と思うところがございました。出来る限りのお世話は致しましたが、とにかく人を見て怯える様子は変わらず、なんとか出来ないかと皆心配しておりました。あの二人を改心してくださったとは、さすがは最強と名高いケン様ですね。従魔達に代わり感謝申し上げます」
深々と礼をされて、こっちが慌てたよ。
「いやいや、俺は何もしていませんって。ですが、従魔達をお世話して、ましてや心配までしてくださってありがとうございます。マックス達もいつもピカピカにしてくれていますもんね。こちらこそ感謝していますよ」
「おお、そう言っていただけると、お世話を頑張っている甲斐があります」
顔を見合わせて笑顔で頷き合う。
「それでは失礼いたします」
ちらっとマール達を見たスタッフさんだったけど、特に何も言わずにもう一度深々と礼をしてから下がっていった。
「じゃあ、こっちへ来て座ってくれるか」
戸惑うように入ったところで立ち尽くしていたマールとリンピオを手招きして呼んでやる。
もちろん、マックス達と一緒に真っ黒な子達もいるよ。
鹿のアントラをはじめ彼らの従魔達は、ゆっくりと近づいてくるそれぞれのご主人を見つめたままじっとしている。
オオカミのタバサの尻尾が遠慮がちにパタパタと左右に振られるのを見て、俺はたまらない気持ちになった。
うん、あの馬鹿どもには従魔達の愛を思い知ってもらわないとな。
一つため息を吐いてマックスをそっと撫でた俺は、少し離れたところで立ち止まった二人を見て座るように促した。
その際に、俺はアクアに椅子になってもらって座り、ハスフェル達やリナさん達、ランドルさん達もそれぞれのスライムに椅子になってもらって当たり前のように座った。
それを見て、黙ってそのままマットの上に座りかけた二人だったけど、黙って進み出たレニスさんが、三人並んで座れるサイズの椅子をスライム達に命じて作って、彼らと並んで座った。
「じゃあ、さっきの話の続きからな」
一つ深呼吸をしてそう言った俺は、俺の背中側に留まっていたネージュを一旦俺の腕に留まらせてから膝の上に改めて留らせてやった。
「この子はネージュ。ご覧の通り、白いフクロウのジェムモンスターだよ」
「綺麗ですね。真っ白だ」
リンピオが感心したようにそう言い、マールもうんうんと頷いた後に急に真顔になった。
「え……?」
何か言いたげにネージュを見て、それから俺を見てもう一回ネージュを見る。
「え……でも、まさかそんな……」
「どうかしたか?」
大混乱しているマールを見て、俺は平然とそう聞いてやる。
もし、ネージュの色が変わった事に見ただけで気がついたのなら、それはちゃんと自分の従魔の顔を見ていたって意味になるから、ちょっとマールを見直したよ。
だって、もともと焦茶色だった羽色は真っ白に変わったけど、実を言うとセルパンの時のように大きくクラスチェンジしたわけでは無いので、ネージュ自身の顔や姿形は全く同じなんだよ。
鳥の顔なんてどれも同じだと知らない人は思うだろうけど、実を言うと割と個性的でちゃんと表情もあるし、同じ種類の個体なら、明らかに顔は違うんだよな。
もちろん、色が変わる事による印象の違いはあるだろうけど、間近でちゃんと見ていればネージュの変わった部分と変わらない部分は分かるんだよ。
「何か言いたいなら、遠慮なくどうぞ」
もう一度そう言ってやると、真顔のマールは俺に向き直った。
「あの、間違っていたら申し訳ないんですが……その白いフクロウって、もしかして、俺があの時放逐した、焦茶色のフクロウの……アル?」
「ああ、あの時のフクロウってアルって名前だったんだ。でもこの子は羽色が違うよ?」
「いや、そうなんですけど、その……どう見ても、アルの顔をしている気がして……」
そう言ってもう一度ネージュを見たマールは、大きなため息を吐いて首を振った。
「あの時、ちょっと色々あってイラついていて八つ当たりしたんです。俺、つい感情的になって後先のこと考えずにやっちゃうんです。後で死ぬほど後悔したんだけど、もう今更取り返しがつかないし、ギルドからは厳重注意と罰金を言い渡されて、また落ち込んでいたんです。だけど、もしもあの子がそうなんだったら、ケンさんに助けてもらえて、その……良かったです」
オドオドしつつもそう言って俯くマールを見て、俺はいろんな気持ちのこもったため息を吐いた。
まあ、自分がやらかした事に対して反省はしているみたいだ。
改めて見て、悪い奴じゃあないのは分かった。
だけどこのモヤっと感をどう表現したらいいのか分からず、もう一回大きなため息を吐いてマックスに抱きついた俺だったよ。
はあ、マックスのむくむく……癒されるよ〜〜。