レッツふれあいタイム!
「おや、皆様お揃いでどちらかへお出掛けですか?」
俺達が全員揃って従魔達まで引き連れて来たのに気がついた厩舎のスタッフさんが、慌てたようにそう言って駆け寄ってきてくれた。
「お忙しいところを申し訳ありません。ええと、ちょっと彼らの従魔達やマックス達を連れて部屋に戻りたいんですが、駄目でしょうか?」
大きな魔獣は部屋に連れて行くのは駄目だって言われていた事を思い出して慌てていると、スタッフさんの一人が、マールとリンピオが俺達と一緒にいるのに気がついて分かりやすく驚いた顔になった。
「あの、その、彼らは……」
何か言いかけて、グッて感じに我慢するスタッフさんを見て、ここのスタッフさん達も彼らの暴力を知っているのだろうと、俺も気がついた。
「どうやら改心してくれたみたいなので、ちょっと従魔達との触れ合い方を一から教えてあげようと思いましてね」
小さな声でそう答えると、また驚いた顔になったスタッフさんが俺を見たので笑顔で頷いてやると、しばし無言になった後に満面の笑みになった。
「かしこまりました! では、お泊りのお部屋へ全員連れて行くのはちょっと無理なので、魔獣達でも入れるお部屋を至急用意します。しばらくお待ちください! それまで厩舎の中へ入っていただいても大丈夫です。あの、よければお連れになっておられる子達もブラッシングいたしますので、どうぞこちらへ! おおい、皆! 集合〜〜!」
どうやらこの人は責任者の人だったらしく、彼の大声にあちこちにいたスタッフさん達が一斉に返事と共に集まってくる。ううん、凄い。十人以上いるぞ。
「うわあ、なんかまたすっごく増えてる!」
「あれってハクトウワシだよな! しかも複数いる!」
「待って! サーバルだけでも何頭いるんですか! 凄すぎる〜〜〜!」
俺達の連れた従魔達を見て、何故か大興奮しているスタッフの皆様。
「ああそうか。ここに到着した時ってもう疲れ切っていたから、マックスやニニ達魔獣だけをホテルの入り口にいた受付のスタッフさんに預けて、支配人さんの案内でそのまま部屋に直行したからな。だからここの厩舎のスタッフさん達は、前回以上に増えた俺達の従魔を見ていなかったのか」
納得してそう呟いた俺は、にんまりと笑って俺の新しく増えた従魔だけでなく、全員が引き連れている従魔達を順番にスタッフさん達に紹介してあげた。
歓喜の声を上げて、紹介するたびに大喜びで従魔に向かって人にするみたいに挨拶をしてから、ブラッシングをしたり拭いたりしてくれるスタッフさん達。
従魔達も、嬉しそうに撫でられたり拭かれたりしている。
マールとリンピオは、そんなスタッフさん達を無言で見つめているだけで動こうとしない。
俺は、そんな彼らを置いてマックス達のところへ行って、大喜びで尻尾扇風機状態になっているマックスを何度も撫でてやった。
ニニやカッツェ、マニ達も、俺を見て大喜びで突撃してきてもう揉みくちゃにされた俺は、歓喜の悲鳴を上げてもふもふの海に沈んでいったのだった。
当然、厩舎に魔獣を預けているハスフェル達を始め、リナさん達やランドルさんも俺と似たような有様で、それぞれの従魔達に揉みくちゃにされていたのだった。
マール達を放置してしばしのスキンシップを楽しんだ俺達が顔を上げて立ち上がったところで、タイミングよくさっきのスタッフさんが走って戻ってきた。
「大変お待たせいたしました! 魔獣達も入れるお部屋をご用意しましたので、どうぞこちらへ!」
満面の笑みのそのスタッフさんに言われて、マックスにもたれて脱力していた俺は慌てて立ち上がった。
「おや、我らも部屋に行って良いのですか?」
ホテルにいる間はここにいてくれと言い聞かせてあったので、逆に建物に入っていいと言われて驚くマックス。
ニニ達も、俺の周りで不安そうにしている。
「あのな、例の暴力野郎達が改心してくれたみたいなんだ。それで、従魔達との触れ合い方を知らないっていうから、一から教えてやろうと思ってさ。あいつらの従魔も一緒に連れて行くから、教えてやってくれるか?」
小さな声でそう言ってやると、マックスやニニ達だけでなく、シリウスやデネブ達まで何故か大張り切りしている。
「分かりました。もちろん喜んでなんでも教えて上げますよ。実を言うと、彼らとはここにいる間にちょっとだけですが話をしたんです。殴られて悲しい事もあるけど、ご主人は自分達を可愛がっていてくれると、そう言っていましたが、でも、とてもそうは見えませんでしたよ。あの子達の体にいくつもアザや腫れがあって、お世話をしてくださるここのスタッフさん達もとても心配していました。一応、昨日ですが先生って呼ばれる人が来て彼らの様子を見てくれていました。一応大丈夫だとは言われていましたが、ジェムモンスターの従魔にアザが残るって相当だってスタッフの皆さんは、ずっと怒っておられましたよ」
マックスの教えてくれる厩舎での様子に、大きなため息を吐いた俺だった。
ううん、確かにすぐに回復するはずのジェムモンスターの従魔にアザや腫れが残るって……それって、最初の頃のレニスさんの従魔達みたいに、ジェム自体が相当弱ってるって事だよな。
自分のご主人が来ているのに気がついているだろうに、厩舎の一角を占める動こうとしない黒い従魔達を見て、それから振り返ってまだ厩舎の入り口付近に呆然と立ち尽くしているマールとリンピオを見て、俺はもう一回大きなため息を吐いたのだった。
一応改心したとは言っても、まだまだ色々と教えなければならない事が大量にありそうだね。これは……。