お茶会への招待?
「驚いた。貴方達、ちゃんとそれを理解出来ていたの?」
本気で驚くレニスさんの言葉に、揃ってため息を吐く二人。
「そりゃあ俺達だって冒険者として登録したのは最近だけど、それなりに色々経験しているからなあ」
もう一回大きなため息を吐いて、そう言いながら顔を覆うリンピオ。
「実を言うとさ。俺、あの後宿泊所に戻ってからしばらく震えが止まらなかったんだよ。あの従魔達が本気になれば、あいつが一言命じさえすれば、間違いなく俺達なんて一撃で即死だったんだぞ」
恥ずかしそうに俯いたマールが、そう言って右手で猫パンチっぽい振りをする。
「大丈夫よ。貴方達がケンさんと仲良くしたいと思うのなら、素直にそう言えばいい。あの時はすみませんでした。俺達にも色々な事を教えてくださいってね」
「あれだけの事をこっちから一方的にしておいて、そんなの恥ずかしくて言えるかよ」
俯いてこちらも顔を覆ったマールの言葉に、レニスさんが笑う。
「大丈夫。絶対に受け入れてくれるから、恥ずかしいとか思わずに素直になって。ケンさんも、それから仲間の皆さんもとても良い人達よ。だから、間違いなく貴方達がそう言えば受け入れてくれるから」
無言で困ったように顔を見合わせつつも小さく頷くマールとリンピオを見て、俺達も顔を見合わせて笑顔で頷き合っていたのだった。
どうやら毎回トラブル続きだった二度の早駆け祭りと違い、今回は開始までに良い感じに問題が無くなって、気分良く早駆け祭りを迎えられそうで密かに安堵の息を吐いた俺だったよ。
「本当に、許してくれるか?」
大きなため息を吐いたマールの呟きに、リンピオも戸惑いつつ頷いている。
「絶対に大丈夫よ。あ、それなら今から行く? ケンさん達も、全員ここのホテルに昨日から泊まっているから。他の参加者の方達も沢山おられるから、私がお会いした方達ならちゃんと紹介するわよ」
突然のレニスさんの言葉に、驚いた二人が揃って顔をあげて彼女を見る。
「いや、さすがに今からは、ちょっと……」
「だから大丈夫だって。こういう事は、後にすればする程やりにくくなるんだから!」
にんまりと笑ったレニスさんは、そう言ってガシッと二人の腕を掴んだ。
「じゃあ、行きましょう! 絶対歓迎してくれるから!」
「いや、ちょっと待てって!」
「だから引っ張るなってば!」
グイグイと腕を引かれた二人は困ったようにそう言って抵抗しているが、よく見るとそれほど嫌がっている風ではない。
開いたままだった部屋の扉の前までレニスさんが来たところで、お皿から顔を上げた俺は笑いながら皆を見回した。
「なあ、これどうすべきだと思う?」
お皿を指差してそう尋ねると、あちこちから笑う声が返ってきた。
「そりゃあ、改心するというなら歓迎してあげるべきでしょうね。じゃあ、従魔達を勢揃いさせて……俺達はお茶会でも開きますか?」
完全に面白がっている口調のランドルさんの言葉に、またあちこちから笑う声が聞こえる。
「よし、彼女は俺達が覗いているのは分かっているんだもんな。じゃあ、歓迎の準備をしようじゃあないか!」
笑った俺の宣言に拍手が起こり、オンハルトの爺さんは一旦お皿をテーブルの上に置き、皆で大急ぎでお茶会の準備を始めたのだった。
とりあえず、俺がメインでまずは焼き菓子や果物をいろいろ取り出し、ハスフェルとギイが、部屋に備え付けられていた豪華なティーカップやケーキ用の小皿を大量に取り出しテーブルに並べ始めた。
それを見て立ち上がったリナさん達が、適当に俺が出したお菓子や果物を手早く並べて綺麗に盛り付けてくれた。
頷いた俺は、大急ぎで部屋に備え付けられたキッチンでお湯を沸かし始めたのだった。
「なあ、先に俺達がお茶会を楽しんでいるところに彼らが来る方が、自然にお茶に誘えるよな」
お茶会の用意が準備万端整ったところで、ふと思いついてそう呟く。
テーブルの端に置かれたままのお皿から見える光景は、まだ部屋を出たところの廊下らしく、早く行こう、いやちょっと待ってくれ。心の準備が〜〜。などと腕を引っ張り合いながら言い合っている会話が聞こえてきている。
「確かにそうだな。じゃあ、全員分のお茶を頼めるか」
笑ったハスフェルの言葉に頷き、まずは沸いていたお湯で手早く人数分のお茶を入れてやった。今回はもちろん紅茶だよ。
「じゃあ、お菓子も楽しんでおかないとね!」
満面の笑みでそう言ったアーケル君が、目の前に並べられた焼き菓子を小皿に取り分け始めた。
「じゃあ、このホールケーキは適当に切っておくから欲しい人が取ればいいな」
バイゼンの甘味通りで大量購入したホールケーキがいろいろあったのを思い出して、生クリームのとタルトっぽいのを中心にいくつか取り出して並べておく。
ケーキ用の長いナイフを取り出し、お湯の残りでナイフを温めながらそれぞれ八等分しておく。
「ううん、ちょっと大きいな。これ、あと半分にしてもいいかな? 元のケーキの大きさがかなりデカかったから、八等分だとこれ一つ食べたらもう他が食べられないぞ」
「ああ、確かにいろいろ食べるなら、その半分くらいでも充分ですね。切ってもらえますか」
苦笑いしたアーケル君の言葉に俺も苦笑いしつつ頷き、手早くさらに半分に切り分けていった。
十六等分なら俺でも一つくらい食べられそうだ。まあ、シャムエル様なら全種類制覇するだろうけどね。
それぞれ好きなケーキやお菓子、果物を取ってのんびりと食べ始めてしばらくすると、ノックの音が聞こえて全員の手が止まる。
「おかえり、早かったね」
立ち上がった俺が早足で扉の前まで行き、全員が笑顔でこっちを見ているのを確認してから平然とそう言って扉を全開にした。
だけど、何故か扉の前にいたのは苦笑いしているレニスさんだけだ。
「はい、ただいま戻りました。あら、おやつの時間だったんですね。美味しそう」
部屋を見て、笑ってそう言ったレニスさんは、部屋には入らずにチラリと自分の横を見てから困ったように俺を見た。
「あの、実は彼らを連れてきたんです。よければ彼らと話をしてやってもらえますか?」
もう一回自分の横をチラッと見たレニスさんの言葉に、俺はもう笑いそうになるのを必死で堪えた。
「ああ、もちろん歓迎するよ。ほら入って。ちょうどお茶を飲んでお菓子を食べていたところなんだ。よかったら一緒にどうぞ」
平然とそう言って廊下に一歩踏み出すと、扉横の壁に隠れていた彼らと当然目が合う。
無言で慌てている彼らを見て、とうとう我慢出来なくなって吹き出した俺だったよ。
うん。なんの根拠もないけどこれは大丈夫だって、慌てる彼らの顔を見た瞬間にそう思えたんだよな。
よし、ここはちゃんと彼らと話しをして、暴力が駄目だって事をきっちりと理解してもらおうじゃあないか!