寝過ごした朝と彼女の決意
「いやあ、それにしても本当に見事な従魔達だねえ。最強の魔獣使いとその弟子達って感じかな」
からかうようなエルさんの言葉に俺は慌てて首を振ったんだけど、俺以外の全員が揃って何度も頷いていた。
まあ、俺と同じ肉球マークの紋章を持った魔獣使いがこれだけ大勢いれば、観客の人達からすれば俺の一族って感じに見えるのかもしれない。
「ケンさんは、我々の恩人ですよ。でも、レースでは遠慮しませんからね!」
笑ったボルヴィスさんの言葉に、肉球マークの紋章を持った全員が同時に吹き出してそうだそうだと言って頷き合っていた。
「あはは、俺の三連覇のハードルがどんどん高くなっている気がするんだけど……マジで大丈夫かねえ」
苦笑いする俺の言葉に、俺達は顔を見合わせて全員揃ってもう一回吹き出したのだった。
ギルドに戻るエルさんとスタッフさん達を見送った後は、もうそれぞれの部屋に戻ってその日はゆっくりと休んだ。
ちなみに、大きな体のマックスやニニ達のような魔獣達は、部屋には連れて行けないのでホテルの厩舎に預けてあるんだけど、小さくなれる子達や鳥達は基本的に部屋に連れて行ってもいい事になっているので、ジェムモンスターの従魔達は全員部屋に連れて行っている。
ホテルの部屋にいる間は、俺の枕役のセーブルを始めとして従魔達と一緒に寝るよ。
その日の夕食もやっぱり俺の部屋に集合となり、またしても部屋に豪華デリバリーを大量に頼んで大宴会になったのだった。
そして、ビールを頼んだら例の俺達のラベルのビールが大量に届き、またしても大爆笑になったのだった。
マジでこれ、見る度に俺のHPをすり減らしてくれるので勘弁して欲しいんですけど……。
翌朝、珍しく起こされる前に目を覚ました俺は、しかし突然襲ってきた酷い頭痛に呻き声を上げただけで全然起きられなかった。
「頭痛い……美味しい水……」
セーブルの体に手をついてなんとかそう言った俺は、大きなため息を吐いて目の前に差し出された水筒を受け取った。
いつもながらの気配りでキャップを外してくれてある水筒から、ぐいっと水を飲む、飲む、飲む。
「はあ〜〜美味しい!」
大きなため息と共にそう言って、もう一口飲み干して目を開くと、見慣れない天井……。
「もしかして、また床で寝た?」
そう呟いて、手をついて上半身だけ起き上がった俺は、周りを見回して思いっきり吹き出したよ。
うん、見事なまでに全員揃って討ち死に状態だ。
床に転がる夥しい数の空瓶を見て、割と本気で全員の肝臓の心配をした俺だったよ。
ちなみに全員、それぞれスライムベッドの上で従魔達に添い寝してもらっている状態で、しかもまだ全員熟睡中。
「まあ、どうせここにいてもする事なんて……うん、とりあえずもうちょい寝よう」
この後の事を考えてちょっと遠い目になった俺は、とりあえず全部まとめて明後日の方向に蹴り飛ばしてセーブルの上に仰向けに寝転んだ。
俺の体の左右には、フラッフィーとヤミーが巨大化して添い寝してくれているし、足元にはソレイユとフォールがこちらも巨大化した状態で丸くなっている。他の子達は小さいままで文字通り俺を取り囲むみたいにしてくっついているよ。いつもとはちょっと違うけど、これも良きもふもふっぷりだ。
「ふああ〜〜〜うん、とりあえずもうちょい寝よう」
もう一回小さくそう呟いて目を閉じた俺は、胸元に潜り込んできたタロンを抱き枕にして気持ちよく二度寝の海へ落っこちていったのだった。ボチャン。
結局、お腹を空かせたハスフェル達が昼過ぎに目を覚まし、ようやくそこで全員起き出してお互いに床で寝落ちしたのに気づいて全員揃って大爆笑になったのだった。
って事で、完全に昼を過ぎてから朝昼兼用の食事をデリバリーで済ませた。
全員がお粥やスープなど、二日酔いメニューだったのにはちょっと笑っちゃったよ。
そのまま何となくダラダラと過ごしていたんだけど、しばらくしてレニスさんが真顔で俺達のところへ来た。
「ちょっと、一度彼らのところへ行ってきます。それで、従魔達を紹介してきます。皆さんは、ここで待っていてください」
「ええと、立ち会わなくて本当に大丈夫ですか?」
割と本気で心配したんだけど、彼女はにっこり笑って頷いた。
「ええ、大丈夫です。あの、もしもなんらかの術でこっちの様子を見る事が出来るのなら、遠慮なくのぞいてくださって構いませんからね」
その言葉に驚いていると、彼女はにっこりと笑って両手で丸い形を作って見せた。
どうやら誰かから、オンハルトの爺さんが扱う例の術について聞いたみたいだ。
「了解だ。では遠慮なく覗かせてもらうとしよう。だが、これだけは言っておくぞ。万が一にも其方に彼らが暴力を振るうような事があれば、その時は我らとて遠慮せぬからな」
真顔のオンハルトの爺さんの言葉に、こちらも真顔になったレニスさんが大きく頷く。
「じゃあ、行ってくる。ちゃんと、全部話してくるわ」
振り返って泣きそうな顔で自分を見つめるシェルタン君に笑顔でそう言ったレニスさんは、自分の従魔達を引き連れて本当に部屋を出て行ってしまった。
それを見送った全員が真顔になって頷き合い、そのままオンハルトの爺さんの周りに集まる。
無言で頷いたオンハルトの爺さんが大きなお皿を取り出して座った膝の上に乗せるのを、俺達は真顔で見つめていたのだった。