さくらんぼとイチゴは初恋の味?
「きゃあ〜〜甘くて美味しい!」
「本当だ。これすっげえ甘いぞ!」
「うわあ、本当だ。最高に甘くて美味しい!」
それぞれ自分の従魔のスライム達に持ち上げてもらって、目の前に広がるさくらんぼをちぎって口にした新人コンビとレニスさんは、そりゃあもうキラッキラに目を輝かせて大喜びしている。
「ねえ、こっちはまた種類が違うみたいよ」
「あ、本当だ。明らかに色が違うね。どれどれ……うわあ、さっきのと全然味が違う。ほら、どうぞ食べてみてくれよ」
別の木に実っているさくらんぼをいくつかちぎったシェルタン君が、一口食べるなり目を輝かせて持っていたそれをレニスさんに差し出して見せた。
「ありがとうございます」
差し出されたそれを、パクリと口で咥えて食べたレニスさんを見て、シェルタン君が唐突に真っ赤になる。
そりゃあそうだよな。手渡すつもりで差し出したそれを口で受け止められたら、ああなるよな。
真っ赤になったシェルタン君を見て、遅れて真っ赤になるレニスさん。
それを見た俺達は無言でそっと離れて別の木に向かい、すぐ側でさくらんぼをちぎっていたムジカ君は、真っ赤になる二人を見て遠慮なく大爆笑していた。
いやあ、青春だねえ。頑張れ若人よ。
真っ赤になったまま笑い合う二人を見て、もう完全に保護者気分な俺だったよ。
ちなみにハスフェル達も似たような眼差しになっているので、こちらも完全に保護者気分みたいだ。
オンハルトの爺さんなら、孫を見ている気分かな?
「いやあ、あれだけ肉食ったあとなのに、果物って案外食えるんだな。前回とはまた違った味のもあって面白いなあ」
種を地面に吐き出してから、感心したようにそう呟く。
うん、右側は見ないよ。
何しろ今まさにレニスさんがちぎったさくらんぼを、シェルタン君が口に入れてもらっているところなんだからさ。
美味しい美味しいと真っ赤な顔をしつつも笑顔で頷き合っている二人は、なかなかのお似合いに見える。
べ……別に、羨ましくなんかないぞ!
と、脳内で誰かに向かって必死に言い訳をしつつ、またちぎったさくらんぼを口に放り込む。
はあ、やっぱりさくらんぼは美味しいなあ……。
「ねえ、何してるんだよ。早く次をください!」
ちょっと遠い目になっていると、俺の右肩に座ったシャムエル様がちっこい手でぺしぺしと俺の頬を叩き始めた。
「はいはい、痛いからそのちっこい手で叩くな。ほら、どうぞ」
そう言いながら、近くにあったさくらんぼの塊をガバッと手で掴んで一気に引きちぎる。
ブチっと豪快な音がして房ごとちぎれるさくらんぼ。
「あ、ちょと乱暴だったかも。ごめんよ」
思った以上に取れてしまって、ちぎれた根本部分が何だか痛そうに見えて慌てて木に向かって謝る俺。
いや、木は痛みは感じないと思うぞ。
脳内で自分に突っ込み、苦笑いしてまた別の部分を今度はそっとちぎった俺だったよ。
右肩に座っているシャムエル様と、左肩に座っているカリディアにも時々さくらんぼを渡してやりつつ、俺も二度目のさくらんぼ狩りを満喫したのだった。
ちなみに姿を隠したベリーとフランマもこっちに来ていて、飛行術とでもいうのか、自分で空中に浮かんだベリーは、俺達からかなり離れた木でさくらんぼ狩りを満喫していた。
ベリーの横には同じく姿を隠して空中に浮かんでいるフランマもいて、ベリーに取ってもらったさくらんぼをこちらも満喫しているみたいだ。
そのあと、しばらくしてから場所を交代して、今度はイチゴ狩りを楽しんだ俺達だったよ。
イチゴもまた新しい実ががっつり熟していて、全員が思いっきり食べてもまだまだあるくらいに大量に実っていたよ。
「これって、もしかして熟しているのはスライム達に収穫してもらった方がいいのかな?」
真っ白な苺を頬張りながら、ふと考える。
いや、その前に、俺達がここへ来て以降や留守にしていた間の水やりとかってどうなっているんだろう?
何もしてないけど、枯れてないよな?
どう考えても、このイチゴポットは定期的に水をやらないと駄目な事に今更ながら気が付いたんだけど、どうすればいいんだろう?
思わず周りを見回すが、当然ホースなんて無い。
ううん、よく分からないけどこの世界での水やりって、バケツに汲んでかけるか、ジョウロみたいなもので一つずつかけるんだろうか?
見上げるくらいに大きなイチゴポットを見て無言になる。
「ああ、水やりは毎日担当の人が来てくれているみたいだな。ほら、あそこに水場があるぞ」
俺の考えている事なんてお見通しだったらしいオンハルトの爺さんの言葉に慌ててそっちを見ると、小さな井戸みたいなものがあって木の蓋がしてある。
「へえ、あれが水場なんだ。じゃあ、あそこから汲んだ水をあげてくれているのか」
「そうさ。これもジェムで動く専用の道具があって、細い管を井戸に放り込んでスイッチを入れれば、管の反対側の先から水が汲み上げられて散水してくれるんだよ。ここのような大掛かりな農場や果樹園では、ほとんどそれを使っているな。まあ、ジェムが無くて苦労していた頃の水やりは大変だっただろうな」
笑ったオンハルトの爺さんの説明に納得する。
そうか。俺達がここにいる間も、庭や果樹の水やりは専用のスタッフさん達が担当してくれているんだ。
ありがたや〜〜。
特に俺が何かする必要は無さそうなので、安堵のため息を吐いた俺は、またちぎった真っ白なイチゴをシャムエル様とカリディアに渡してやり、もう一つちぎって口に放り込んだのだった。
ううん、何度食べても白いイチゴって激うま〜〜!
あ、はいはい、次はこっちのを白いのを食べるんだね。
おじさんは向こうに行くから、若者は好きに食べなさい。
シェルタン君とレニスさんがこっちに来るのが見えて、慌てて場所を移動した俺だったよ。
はあ、甘酸っぱいねえ……べ、別に羨ましくなんかないぞ!