果物狩り!
「さてと、午後からは何をして遊ぶかねえ」
もふもふに埋もれてのんびりと寛ぎながら小さくそう呟く。
「あ、せっかくだからもうちょっとしたら皆を連れて、もう一回イチゴ狩りとさくらんぼ狩りをしてもいいかも。腹一杯でも果物ならちょっとくらい食べられそうだからな」
胸元のマニを抱きしめてそう呟き、大きな欠伸をした。
前回から日が少し経っているので、減った分のイチゴとさくらんぼも熟しているだろう。多分。
イチゴとか、日が経ちすぎて腐ってたらどうしよう。なんて考えつつゆっくりと起き上がる。
見ると、皆も従魔達にくっついてスライムベッドでお休み中だが、寝ているのではなく休憩タイムって感じにのんびりお寛ぎ中みたいだ。
『なあ、新人さん達を連れてもう一回果物狩りに行かないか?』
少し考えてハスフェル達にトークルーム全開状態で話しかけてみる。
『ああ、そりゃあ喜ぶだろうなあ』
『いいんじゃあないか? じゃあ行ってみるか』
笑ったハスフェルとギイの返事が返ってきて、笑ったオンハルトの爺さんも寝ていたスライムベッドから起き出して来た。
『ああ、それはいいですね。ではこっそり私達も果物狩りに参加させてもらいます』
笑ったベリーの言葉に俺も笑顔で頷く。
『もちろんどうぞ。好きなだけ食べてくれていいよ』
返事を返して俺も腹筋だけで起き上がる。
「おおい、裏庭にさくらんぼとイチゴがたくさん実っているから、午後からは果物狩りにしないか?」
起き上がった俺の呼びかけに、アーケル君達とランドルさんの喜ぶ声が返る。
「果物狩り、ですか?」
「ええ? 果物を狩るって……何をするんですか?」
同じく起き上がったムジカ君とシェルタン君、それからレニスさんは予想通りに果物狩り自体を知らないみたいで揃って首を傾げている。
「果物狩り、ですか」
「それはいいですねえ」
ボルヴィスさんとアルクスさんは、知っているらしく笑顔で頷き合っている。
「まあ、見て貰えば分かるから、とにかく行こうか」
「ご主人、それなら私たちはまた遊びに行ってくるわ」
起き上がったニニが、思いっきり伸びをしながら嬉しそうに庭の川側を見る。
すると、ニニの呼びかけに肉食チームが張り切って飛び起きて揃って俺を見た。
「あの断崖絶壁へまた行くんだな。構わないけど、怪我には気をつけるんだぞ」
「心配症のご主人。もちろん気をつけて遊ぶからね」
笑ったニニの言葉に、起き上がったマックス達も目を輝かせているよ。
今回のバーベキュー会場は別荘を出てすぐの庭だったので、マックスやニニ達にはそのまま遊びに行ってもらう。
尻尾扇風機状態で走り去るマックス達を見送り、俺達は草食の従魔達とお空部隊を引き連れて建物沿いに歩いて裏庭へ向かった。
「うわあ、何あれ!」
「うわあ、ガラスの建物だ!」
「ええ、なんですかあれ!」
新人コンビとレニスさんの驚く声が重なる。
「あれは温室。中にあるのがイチゴポットで、色んな種類のイチゴがたくさん実っているから、好きなだけ取って食べてもらえるよ。食べる時は、一箇所のイチゴを全部一気に食べるんじゃあなくて、他の人の分は残しておけるように少しずつ移動しながら色々食べるのがいいぞ」
「ああ、狩りってそういう意味ですか。へえ、裏庭に果樹園があるって凄いですね!」
感心したようなムジカ君の言葉に、ようやく意味を理解したらしいシェルタン君とレニスさんも目を輝かせている。
「ちなみに、こっちがイチゴ園で、あっちの奥にはさくらんぼの木が何本もあるから、そっちではさくらんぼ狩りも出来るから好きな方をどうぞ。もちろん、順番に両方行くよ」
笑った俺の言葉に、新人コンビとレニスさんが揃って嬉しそうに拍手をした。
「じゃあ、前回とは逆で行きますか?」
リナさんの提案に俺達も笑顔で頷き、今回は俺達がまずはさくらんぼ狩りを、リナさん達がイチゴ狩りをする事になった。
「ええと、新人さん達はどうする?」
俺の質問に、新人コンビとレニスさんが顔を見合わせる。
アルクスさんとボルヴィスさんは、そんな三人を笑顔で見つめているだけで何も言わない。
「私はさくらんぼ狩りをしてみたいわ。木に成る果物って、野生のラズベリーやブルーベリーくらいしか食べた事がないから」
少し恥ずかしそうなその言葉に、ちょっと驚く。
「ああ、そうか。果物狩り自体は、野生で割とよく見るベリー系は自分で摘んで食べた事があるんだ」
確かに、郊外でも割と普通に見るベリー系の実の成った茂みを思い出してそう呟く。
「まあそうだろう。俺達もベリー系なら、郊外の茂みに成っているのを食べた事なら何度もあるぞ」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイも頷いている。
「じゃあこっちへどうぞ。シェルタン君とムジカ君はどうする?」
「さくらんぼ狩りでお願いします!」
「もちろん、さくらんぼ狩りでお願いします!」
ムジカ君とシェルタン君の元気な返事に笑ったアルクスさんとボルヴィスさんはランドルさんも一緒に、リナさん達と頷き合ってイチゴポットが並ぶ温室へ一緒に入っていった。
「じゃあ、俺達はこっちだな」
何となく俺を先頭にそのままさくらんぼの木がある場所へ向かう。
「うわあ。これまた凄い!」
「うわあ、鈴生りだ!」
「きゃあ〜〜〜さくらんぼがびっしり!」
目を輝かせる三人の声に、俺達は顔を見合わせて頷き合った。
前回食べた分以上に、がっつり新しい実が熟しているよ。それに、前回はまだ未熟だった木も、すっかり熟して真っ赤なさくらんぼが鈴生りになっている。
「じゃあ好きなだけどうぞ。それで、普通ならあの脚立や梯子を使って高い場所にあるさくらんぼを千切るから、割と危ないんだけど、俺達魔獣使いの場合は有り難い従魔がいるから安全に楽しめるぞ」
笑った俺の言葉に、鞄の中から次々にスライム達が飛び出してくる。
アクアが俺の足元に転がってきて、一瞬で俺の下半身を包んでそのままググッと大きくなる。
「な、こうすれば簡単かつ安全にさくらんぼ狩りが出来るわけだよ」
振り返ってにんまりと笑った俺の言葉に、三人が同時に吹き出し揃って拍手をしてくれたのだった。
って事で、ここからさくらんぼ狩りの開始だ! どうぞ、好きなだけ食べてくれよな!