ごちそうさまと昼寝タイム!
「はあ、もう食えません! 腹一杯です!」
隙あらば俺の皿に追加の肉を寄越そうとするハスフェル達と笑いながら戦いつつ、俺は顔の前で大きくばつ印を作って大きな声で叫んだ。
「相変わらず少食な奴だな。まだまだあるんだから食え!」
「だ〜か〜ら〜もう食えませんってば〜〜俺の皿に載せるな〜〜!」
必死の抵抗虚しく、焼きたてのお肉がまた俺のお皿に並べられる。
「もう、置かれたら食わない訳にはいかないじゃあないか〜〜あ、ビールがもう無い」
「はいどうぞ! しっかり冷えています!」
満面の笑みのシェルタン君に即座に差し出された冷えた白ビールを、思わず受け取ってしまう。
「渡されたら飲まない訳にはいかないよな〜〜あ、これはギイだ〜〜」
完全に酔っ払いの言い訳を並べながらドヤ顔なギイのラベルを見て思いっきり吹き出し、側にいたギイにラベルを見せる。
「見せるな! すぐに飲め〜!」
目を両手で隠したギイの叫びに、もう一回思いっきり吹き出した俺だったよ。
「はあ、もう限界……いやあ、腹一杯だ。それにしても、皆よく食ったなあ……」
そろそろ皆の胃袋も満足したらしく、バーベキュー台も焼き台も火が落とされている。
鉄板は、焦げて干からびた野菜くず以外はもう何も残っていない。
集まってきたスライム達がせっせと汚れたお皿や鉄板を綺麗にするのを、俺は椅子に座ったままのんびりと眺めていた。
「ええと、ところで日付の感覚がイマイチなんだけど、早駆け祭り本番まであと何日あるんだ?」
同じく椅子に座ってまったりと寛いでいるハスフェルを振り返りながらそう尋ねる。
「おう、あと六日だな。もう、街ではオッズが発表されているはずだから、大騒ぎに拍車がかかっているだろうなあ」
指を折って数えたハスフェルの言葉に、もう一回吹き出す。
「今回のオッズはどうなっているんだろうなあ。見たいような見たくないような……」
「二連覇の覇者が何を言うか。言っておくが俺が勝つからお前の天下もここまでだぞ」
「おう、言ってくれるなあ。止められるもんなら止めて見せてくれよ」
笑ったハスフェルにドヤ顔でそう言われて、ついムキになって言い返す。
顔を見合わせて、また吹き出した俺達だったよ。
「ご主人、お片付け終わりました〜〜〜!」
ご機嫌でお片付けを終えたスライム達が、次々に跳ね飛んできて俺の足や背中にぶつかって転がる。
「おう、ご苦労さん。さて、午後からは何をして遊ぶかねえ……」
「とりあえず、ここで休憩してくださ〜〜い!」
跳ね飛んできたアルファとベータが一瞬でくっついて大きくなり、スライムソファーになってくれる。
「おお、いいねえ。じゃあ座らせてもらおう」
簡易の椅子なんかよりもこっちの方が絶対に座り心地はいい。
笑って立ち上がると、そのまま体を投げ出すみたいに背中から思いっきり倒れ込む。
ポヨンと優しい反動が返りそのまま寝転ぶみたいにして全身を預けて座った。
「はあ、快適〜〜」
ついでに腕を挙げて思いっきり伸びをした俺は、一つ欠伸をしてそのまま目を閉じた。
「ご主人、添い寝役は誰にしますか?」
嬉々として駆け寄ってきた従魔達の騒ぐ声が聞こえたけど、爽やかな風とスライムソファーのあまりの気持ちよさに、そのまま俺は気持ちよく眠りの海へ落っこちて行ったのだった。ぼちゃん。
「ううん……あれ? これは誰だ?」
気持ちよく寝ていた俺は、不意に目を覚ましてぼんやりと空を見上げていたんだけど、胸元に抱き枕状態でのしかかっているふわふわに気がついて思わずそう呟いた。
「はあい、マニで〜〜す!」
「タロンもいま〜す」
ご機嫌に喉を鳴らす音が聞こえて、俺の胸の上にいたタロンと、腹の上に顔を乗せているマニの返事が重なる。
ちなみに、いつの間にかいつものスライムベッドになっていて、俺の横にはニニが添い寝してくれているよ。
「はあ、快適〜〜」
ごろんと寝返りを打ってニニの腹に潜り込む。胸の上にいたタロンは、そのまままた抱き枕状態だよ。
「ご主人、逃げちゃダメなの!」
慌てたようにマニがそう言って、横向きになった俺の腹の上にまた顔を乗せて喉を鳴らし始めた。
「おお、ゴロゴロマッサージだ。あはは、気持ちいいぞ〜〜〜」
笑ってそう呟き、腕を伸ばしてマニを撫でてやるとゴロゴロの振動がさらに大きくなった。
小さかった頃のマニは、何故か喉じゃあなくて鼻が鳴っているっぽかったんだけど、最近ではすっかり喉を鳴らすのも上手になって、ニニと同じように胸の奥の方が鳴っている感じだ。
だけど、今のマニは完全に昔と同じように鼻が鳴っていて、俺の脇腹の辺りにもの凄い振動がぶるぶると響いている。
「もしかして、鳴らし分けているのなら、それはそれで凄いよなあ」
そんなことを考えつつ、ニニとタロン、それからマニの鳴らす三重奏の喉の音を聞き、またしても二度寝の海へ落っこちて行ったのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
「はいはい、起きるよ……」
横向きになった俺の頬を叩くシャムエル様とカリディアに起こされた俺は、大きな欠伸をしてなんとか目を開いた。
「やっと起きたね。このまま夜まで寝るつもり?」
笑ったシャムエル様の言葉に慌てて空を見たが、まあ寝ていたのは多分一時間くらいらしくまだまだ日は高いよ。
「なんだよ、脅かすなって。でもまあ、そろそろ起きるか」
もう一回大きな欠伸をした俺は、ゆっくりと腹筋だけで起き上がった。
「あはは、皆も寝落ちしてるのか。じゃあもうちょっとだけ〜〜」
見回した光景を見て思わず吹き出す。
俺だけじゃあなくて全員が、スライムベッドで昼寝していたのだ。もちろんそれぞれの従魔達の添い寝付きだよ。
「まあ、こんなのんびりな日があってもいいよな」
小さく呟き、また目を閉じた俺だったよ。はあ風が気持ちいいなあ……。