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商人ギルドと広告宣伝方法

「じゃあよろしく頼むよ」

 店の外まで出て見送ってくれたマシューさんに手を振り、俺達はまたしても大注目を浴びながら、なんとか人混みをかき分けて進み、冒険者ギルドの並びにある、商人ギルドへ到着した。

「はあ、あからさまに怖がられるのも嫌だけど、この好奇心全開の大注目も大概だよな」

 大きなため息を吐いた俺の言葉に、二人も苦笑いして頷いている。

「確かに、どちらが良いかと聞かれたら、怖がられる方がまだマシかもな。この街の様子を見るに、勝手に従魔に触ろうとする奴らが出るのも時間の問題だぞ」

「それは困るな。誰かに怪我でもさせたら責任問題になるぞ」

 思わず顔を見合わせたハスフェルとギイは、困ったようにそれぞれの従魔を撫でて、大きなため息を吐いた。

「当分の間は、従魔達から目を離さないようにするよ。まあ、厩舎の中まで勝手に入って来て何かするような奴がいれば、その時は遠慮はしないけどな」

「それは自業自得だろうが。そこまで責任持てるか」

 苦笑いして、それぞれの従魔達を撫でてやった。



 中を覗くと、俺達に気付いたクーヘンとマーサさんが出て来たので、合流してそのまま大工のリード兄弟の店に向かう事になった。

「商人ギルドへの登録は、上手くいったのか」

「はい、マーサさんの紹介で、簡単に登録して頂けました。しばらくは、時間を作って商人ギルドの各講習会にも参加しないといけませんからね。忙しくなります」

 嬉しそうなその言葉に、俺は笑顔のマーサさんを見た。

「その、講習会って何ですか?」

「ああ、商人ギルドが行ってるもので、初めて店を出す人に、お金の事や商売の基本をしっかり教えてくれるんだよ。その講習会に参加しておけば、必要なら、大工や不動産屋の紹介なんかもしてくれるんだよ。まあ、後ろ暗いところでもない限り、普通は真面目に行って開店までのいろんな事でギルドを頼るよ」

 成る程、商工会みたいなもんだな。そりゃあ絶対に受けておくべきだ。



 相変わらずの大注目を浴びながらも、俺達はもう半ばやけくそで堂々と歩いて職人通りへ戻り、一軒の店の前に立った。

「こじんまりした良い店じゃんか。ここがその大工の兄弟のいる店なのか?」

「ああそうだよ、だけど、ここには従魔達は入れないからね。呼んでくるからここで待ってておくれ」

 マーサさんがそう言って、クーヘンの背中を叩いて一人で店に入って行った。

「じゃあ、商売の邪魔しないように、俺達はちょっと離れて待ってるよ」

 見ていると、道路に見物人がどんどん集まってきて大変な事になりそうだったので、店の前にはクーヘンだけを残して、俺達は道の先にある円形広場へ移動した。

 当然、殆どの人が付いて来る。

「考えたら、これ自体ものすごい宣伝効果だよな。いっその事、クーヘンの店の名前や開店時期なんかが決まったら、チョコの背中にポスターでも作って貼っておいたらどうだ?」

 冗談半分の言葉だったが、ハスフェルとギイは笑わなかった。

「お前、良い事考えるな。それは素晴らしい。具体的に決まったら是非やらせよう」

「広告宣伝カーならぬ、広告宣伝従魔だな」

 小さく呟いた俺は、チョコを撫でてやりながら、堪えきれずに吹き出したのだった。



 相変わらず俺達を取り囲むようにして人が集まっているが、逆に俺達が平然としていると、だんだん人が少なくなってきた。

 その時、一人の男性が恐る恐る俺に話しかけてきた。

「なあ、さっきから見てたんだけど、商人ギルドの後にここへ来たって事は、もしかして、街のどこかで商売でもするのか?」

「ああ、そうだよ。店を出すのは俺達じゃなくて、こいつの主人のクライン族のクーヘンだけどな」

 わざと大きな声でそう答えて、男の目の前で手を伸ばして、大人しくしているチョコの鼻面を撫でてやった。

「いやあ、俺は恐竜なんて生まれて初めて見たよ。それで、店を出すって、一体何の商売をするんだ?」

 こちらも大きな声の男性は、興味津々で身を乗り出すようにしてそう尋ねて来る。これ、周りにいる人達も素知らぬ顔してるけど、皆、絶対にめっちゃ聞き耳立ててるぞ。

 よし、ここは、しっかり仲間の宣伝をしておいてやるべきだよな。

「クライン族の人達が作る、細工物を売る店にする予定だよ。後は、開始時期はまだちょっと分からないけど、普段使いのジェムや、装飾用のジェムの販売もする予定だよ。よろしくな」

「へえ、そりゃあ良い。確かに、そろそろ一般の店でもジェムの販売が解禁になるんじゃないかって、噂になってるからな」

「生活用のジェムってどうなんですか? 足りてますか?」

 逆に質問してみると、苦笑いしたその男性は、小さなため息を吐いた。

「まあ、一時期程酷くはないよ。少なくとも最低限の燃料は確保出来るようになったからね。まだ価格は高いままだけど、これもいずれはもう少し下がるんじゃないかな」

「そうなんですね。ジェムは生活必需品ですからね。ないと困るでしょう」

「困るなんてもんじゃないよ。特にこの十年ほどは酷かったよ。冬場の燃料が無くて本当に大変だったよ。辺境の農村部なんかでは、冬の夜に全部凍てついちまって、村ごと凍死したなんて話も珍しくなかったからね」

 驚きに目を見開く俺に、その男性はもう一度ため息を吐いた。

「だから、この春からこっちの突然のジェムモンスターの回復に、皆本当に驚きもしたが喜んでるんだ。あんた達だってジェムモンスターを狩っているなら分かるだろう。本当に、一体何があったんだろうな」

「そうだな。本当に良かったよ」

 俺の言葉に、その男性は嬉しそうに笑って、俺の横にいるマックスを見上げた。

「なあ、ちょっとだけ触らせてもらっても良いか?」

「ちょっとだけならな。嫌がるようならやめてくれよ」

 頷いてマックスの首輪を掴んでやる。

「へえ、凄いや。だけど可愛いな。ムックムクの毛じゃないか」

 嬉しそうに肩の辺りを何度か撫でたその男性は、気が済んだのか満面の笑みでお礼を言って、手を振って走り去って行った。

 あれ、絶対にマックスに触ったって、仲間や家族に自慢するぞ。



 男性を見送った直後から、周りの見物人達の様子に変化が訪れた。

 時折、子供が走って来て俺に一礼してマックスやニニに一瞬触って走って逃げて行ったり、さっきの男性のように俺達に話しかける人が出始めたのだ。

「なあ、これってちょっと大変になって来たな」

「だな、ちょっとどこかに避難した方が良いかもな」

 だんだん周りの人達の遠慮がなくなって来ている。

 冗談抜きで、そのうち、無断でマックスやニニ達の毛を毟る奴が現れてもおかしくないぞ。

 本気で心配し始めたその時、店の扉が開いて二人の人間の男性が飛び出して来て、周りを見回しこっちに向かって走って来た。

 慌てたようにその背後を、同じく店を飛び出したクーヘンとマーサさんが追いかけて来るから、この二人が話題のリード兄弟なんだろう。へえ、クライン族なんだとばかり思っていたけど、普通の人間だったんだ。

 背の高い方は真っ黒な髭を生やしている。


「うわあ、本当にいるよ」

「ああ、冗談だと思っていたが、本当に……恐竜だな」

「あれはハウンドだな。あのデカさは亜種か?」

「待て待て、それだけじゃないぞ。リンクスの亜種に、オオタカ、他にもなんだかいっぱいいるぞ。こりゃあ、とんでもない話だな」

 呆れたような髭の男性の呟きに、追いついて来たマーサさんが笑いながら背中を叩いた。

「な、嘘は言ってないだろう。じゃあ今からもう一度店に行くから、お前さん達もついて来ておくれ。詳しい話はそこでしよう」

「ああ、そうだな。詳しい話は店でしよう。それじゃあ道具を一式を持って行くから、先に店に行っててくれるか」

「ああ、じゃあ待ってるから頼むよ」

 笑って髭男の腕を叩いたマーサさんは、笑顔で待っていた俺達を見上げた。

「お待たせしちゃって悪かったね。じゃあ申し訳ないけどもう一度店に戻ろうか。具体的な相談をするのなら現場で話すのが一番早いからね」

「了解です、じゃあ行きましょうか」

 持っていたチョコの手綱をクーヘンに返し、俺達は一旦店に戻る事にした。


 また人混みが分かれたが、先ほどまでと違って、人数はそれほどでは無い。

「あれ? なんだかさっきまでと周りの様子が違いますね。何かありましたか?」

「さあね。そろそろ見慣れてきたんじゃないか?」

 素知らぬ顔でそう言ってやると、クーヘンは不思議そうに周りを見回し、ほとんど全員が自分を見ている事に気付いて妙な呻くような声を上げた。

「何だか、私に注目が集まってる気がするのは、気のせいでしょうか?」

「さあ、気のせいじゃないか?」

 平然とそんな事を言うハスフェルを見て、何か言いたげなクーヘンだったが、大きく深呼吸をしてマーサさんと、新しい店の話なんかを始めた。


 どうやら、クーヘンも俺と同じ考えに至ったみたいだ。


 そうだよな。

 これからここで商売するんだから、街の人にクーヘンの名前と顔を覚えてもらうのは大事だよな。

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