優秀な新人さん達!
「おめでとう! 言葉は、すぐには分からないかもしれないけど……」
顔を上げたレニスさんを見て俺がそう言いかけた時、そりゃあもう目を輝かせた彼女の従魔達が、揃って彼女に話しかけた。
「大好きなご主人! 嬉しいです!」
「改めてよろしくお願いしますね!」
「大好きなご主人早くお話ししたいです!」
まずは一号から三号までが、声を揃えてほぼ同時に口を開く。そして当然四号以下の子達も、先を争うようにご主人ご主人と言っていて今にも飛びかかりそうな勢いだ。
「おいおい、いくらなんでも同時は無理だって。それに言葉が分かるようになるには、ある程度の時間がかかるのが一般的だぞ」
それを見たハスフェルが、そう言って呆れたように笑っている。
だけど、従魔達からの呼びかけを聞いたレニスさんは驚きに目を見開いた。
「あ、貴方達の言葉が分かるわ! 凄い! これが紋章の力なのね!」
嬉しそうにそう叫んでちょうど側にいた一号に力一杯抱きつく。
「ご、ご主人。私の言葉が分かるんですか?」
「ええ、分かるわ! 凄い凄い!」
笑って一号だけでなく、他の子達にも順番に抱きついたり撫でたりしてあげるレニスさんを、俺達は驚きの目で見つめていた。
「うええ、レニスさん凄い! ええと……」
その様子を見て慌てたようにそう言ったシェルタン君は、自分の紋章を刻んだばかりの従魔達を振り返った。
「大好きですよご主人!」
「ご主人ご主人!」
「我々だって早くご主人とお話がしたいです!」
ピッピを筆頭に従魔達がほぼ同時にそう言って、こちらは遠慮なくシェルタン君に飛びかかって彼を押し倒した。
もちろん、即座にスライム達が広がって彼を守っているから怪我なんてしないよ。
「ええ〜〜! お前らの言葉が分かる! すっげえ!」
そして、驚いた事にスライムベッドの上で仰向けになったシェルタン君も、目を見開いて嬉しそうにそう叫んでピッピに抱きついた。
「何これ。今回の新人達って実はすっごく優秀だったりする?」
驚いた俺達は、思わず残りの一人であるアルクスさんを揃って見つめた。
当のアルクスさんは、周りの大騒ぎには目もくれずロッキーと向かい合って何やら真剣に話をしている。
それを見て慌てて耳をすませると、どうやらこちらもすでに意思の疎通が出来ているみたいで、改めてこれからもよろしくな、なんて言っていて、もう俺達の驚き具合が天井知らずだったよ。
「へえ、今回の新人さん達は皆素晴らしいね。従魔達がとても嬉しそうだ」
マックスの頭の上に座ったシャムエル様が、嬉しそうに目を細めながらそう言って、小さな手でパチパチと拍手なんかしている。
「ええと……まあいいか。おめでとうな。皆従魔達と仲良く!」
とりあえず俺が無理矢理まとめると、笑ったハスフェル達やリナさん一家、それからランドルさんやボルヴィスさんも笑顔で拍手してくれた。
「お前、ずるい! 何でそんなに簡単に会話が出来てるんだよ! 俺は言葉が分かるまですっごく時間がかかったのに〜〜〜!」
魔獣使いの紋章をもらった後も、なかなか従魔達と意思の疎通が出来ずに俺のところへ習いに来たムジカ君が、呆気なく従魔達と会話をしているシェルタン君に、悔しそうにしつつも笑ってそう言いながら腕や足をバンバンと叩いている。
「痛いって。無茶するなよ!」
笑いながら腹筋だけで起き上がったシェルタン君も、文句を言いつつもとてもいい笑顔だ。
「まあ、進み具合は人それぞれだよ。皆、本当におめでとう! じゃあ、昼食はお祝いに肉でも焼くか。あ、それともまたバーベキューにする? ここの庭なら広いからこの人数でも余裕だぞ」
笑った俺の提案に、全員が大喜びになったよ。
そうだよな。皆、肉好きだもんな。
「よし、じゃあ天気もいい事だし、外でするか。設置は任せろ!」
「おう、じゃあ設置は任せた! 仕込みは任せろ!」
笑ってサムズアップでそう言ってやると、また全員が大喜びで拍手喝采になったのだった。
って事で、俺はスライム達を引き連れて広い厨房へ向かい、ハスフェル達は全員を引き連れて庭に出ていった。
「ああ、ちょっと待った。ケン、すまんがここに氷を出しておいてくれるか」
出て行きかけたギイが、慌てたようにそう言って俺を追いかけてくる。
「おう、昨日飲んだ時に氷使っちゃったのか。了解。ちょっと待ってくれよな」
俺の手持ちのアイスピッチャーも一緒に渡しておき、出されたアイスピッチャーと氷専用のタライみたいなのに、入るだけがっつり氷を作って渡しておいたよ。
笑って出ていくギイを見送り、俺はスライム達と一緒に広い厨房へ行って、久しぶりなので念の為にまずはお掃除をしてもらう。
それが済めば、あとはもういつものようにがっつり肉中心で仕込んでいった。
いつも思うけど、これって何人前くらいあるんだろう。俺の感覚では完全に大型店舗の業務用の仕込みレベルだよ。
嬉々として、渡したお肉や野菜をいつものように切ってくれるスライム達を見ながら、もしこれを一人で仕込んでいたらどれだけかかるんだろうと考えて、割と本気でスライム達に感謝した俺だったよ。
スライム達、マジでありがとうな。もう君達のいない生活なんて、俺には考えられないよ。