それぞれの紋章付与
「それでは、只今より魔獣使いの紋章を捧げさせていただきます。皆様方は立会いという事でよろしいでしょうか?」
軽く深呼吸をした新人神官様が、大真面目な顔でそう言って俺達を見る。
「はい、俺達は立ち会いです」
代表して俺がにっこり笑って頷くと、新人神官様も笑顔になって頷いた。
神官長は、特に何も言わずにそんな新人神官様を優しい眼差しで見つめている。おお、良いねえ。ここでも新人さんが頑張っているよ。
なんだか俺達まで妙に暖かい眼差しになってちょっと緊張気味な新人神官様を黙って見守っていると、テーブルに置かれたトレーから、新人神官様がシェルタン君のハンコもどきを、神官長がレニスさんのハンコもどきをそれぞれ手に取った。
「どちらの手にしますか? 通常は右手に致しますが?」
これまた大真面目に新人神官様がそう尋ねる。
「ええと、はい、右手にお願いします」
「はい、右手にお願いします」
新人神官様にシェルタン君が、神官長にレニスさんが、それぞれこちらも真剣な顔でそう答える。
「では、刻ませていただきます」
軽く咳払いをしてからそう言った新人神官様が、今度は思いっきり息を吸ってから部屋中に響き渡るような大きな声で高らかに宣言した。
「多くの従魔をテイムした、テイマーであるシェルタンをここに魔獣使いとして認め、神殿より彼の紋章を授けます」
「多くの従魔をテイムしたテイマーであるレニスをここに魔獣使いとして認め、神殿より彼女の紋章を授けます」
新人神官様と神官長が順番にお決まりの言葉を言い、揃ってハンコもどきを掴んだ右掌に力一杯押し込み始めた。
「うええ! ちょっ! 何するんですか〜〜〜!」
「ええ〜〜〜、何をするんですか!」
当然、それを見たシェルタン君とレニスさんの悲鳴が重なり、二人揃って後ろに下がろうとしたが当然果たせず、それぞれ新人神官様と神官長に力一杯捕まってもう一度揃って悲鳴を上げた。
「うぎゃあ〜〜〜〜俺の手が〜〜〜〜!」
「やめてください! 私の手が、手が、手が〜〜〜〜!」
「だから待ってくださいっって〜〜〜! 何するんですか〜〜〜〜!」
「きゃ〜〜〜〜〜! 何これ、何これ、何これ〜〜〜!」
予想通りすぎる二人の悲鳴に、俺達が一斉に吹き出し大爆笑になる。
二人とも、どうやらランドルさんタイプだったみたいだ。
めちゃめちゃ焦って、また逃げようとしては捕まって引き戻されるシェルタン君と、もう驚きすぎて悲鳴を上げながら固まって動けないでいるレニスさん。
俺達はもう笑いすぎて椅子から転げ落ちているよ。
「うぎゃあ〜〜〜〜〜俺の手に何するんですか〜〜〜〜! って、あれ?」
「やめてくださいって。うああ、うああ、うああ〜〜〜〜〜〜〜〜! あ、あれ?」
唐突に二人の悲鳴が止み、笑っていた俺達も揃って顔を見合わせてから揃って椅子に座り直した。
どうやら紋章の付与が終わったみたいだ。
顔を見合わせて頷き合い、笑顔で手を離す新人神官様と神官長。
そして、言葉もなく呆然と自分の右手を見つめたまま固まっているシェルタン君とレニスさん。
「おめでとう! これで二人とも魔獣使いだぞ!」
笑った俺がそう言うと、バネの壊れたおもちゃみたいに、ギシギシと音を立てるかのようなぎこちなさで二人が揃ってこっちを振り返った。
そして、これまた綺麗に二人揃ってそのまま椅子から転がり落ちたのだった。
「「ご主人危ないですよ〜!」」
しかし、それぞれの従魔のスライム達が即座に反応して、椅子から転がり落ちたシェルタン君とレニスさんを見事に受け止める。
しかし二人は全くの無反応。見ると、二人はこれまた揃って仰向けになったまま完全に気絶していたのだった。
うん、ここはアーケル君タイプだったみたいだな。
しばしの沈黙の後、新人神官様と神官長まで加わり俺達は全員揃って大爆笑になったのだった。
「無事に紋章の付与が終わって安堵しましたが、まさかここまで驚かれるとは」
「しかし、いつもながらどのスライムも優秀ですねえ。本当に感心しますよ」
新人神官様と神官長が、揃って苦笑いしながら気絶した二人を見てもう一度吹き出す。
「まあ、とりあえずそこに転がしておきましょう。じゃあ、あとはアルクスさんですね。よろしくお願いします」
俺の言葉に笑っていたアルクスさんが立ち上がる。
「では、せっかくですから俺も、そちらの神官様に授与していただいても構いませんか?」
笑顔のアルクスさんの言葉に、新人神官様が嬉しそうな笑顔になる。
「ありがとうございます。もちろん、喜んで付与させていただきます!」
「はい、ではよろしくお願いします」
笑顔で右手を差し出すアルクスさんに新人神官様も笑顔で頷き、テーブルに置いてあった残り一つのハンコもどきを手に改めて紋章の授与を行ったのだった。
ちなみにアルクスさんは、特に悲鳴を上げる事もなく、笑顔で自分の右手にハンコもどきが埋め込まれるのを黙って見つめていたのだった。
まあ、知っていたら特に驚かないからああなるのか。
意外に初めての紋章授与のパターンを見ながら、妙に納得した俺達だったよ。