神官様の到着と紋章付与の準備!
「よし、じゃあ一番が俺で、二番がレニスさん、それで最後がアルクスさんですね!」
相談がまとまって紋章を授けてもらう順番が決まったみたいで、嬉しそうなシェルタン君の言葉にレニスさんとアルクスさんも笑顔で頷き合っていたよ。
そのあとはする事もなくて、それぞれの従魔にくっついてなんとなくダラダラと過ごした。
ハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんは赤ワインなんか出して飲み始めていて、気が付けば新人コンビとレニスさんと俺以外は全員飲んでいたよ。いいのかそれで!
レニスさんとシェルタン君は俺が入れてやった緑茶を片手に、ずっとどうやって紋章を授かるのか、いったいどんな風なんだろうと、そればかり楽しそうに話していた。
横で聞いているムジカ君が、それはもう必死になって笑いを堪えているのが面白くて、俺達も後半は腹筋を総動員して必死になって笑いを堪えていたのだった。
神官様! 早く来てくれないと明日の俺達は揃って腹痛に悩まされそうです!
呼び鈴が鳴ったのは、それからしばらくしてからの事だった。
その音を聞いて、シェルタン君とレニスさんが揃って飛び上がり、とうとう俺達の我慢も限界を迎えて揃って吹き出し、誤魔化すみたいに全員揃って咳き込みながら玄関まで先を争うようにして走って行ったのだった。
「お待ちしておりました〜〜〜!」
一応、誰なのかをのぞき窓から確認してから、そう言って急いで鍵を開けてから扉を開ける。
「あれ、二人いる?」
何度か紋章の授与をしてくれたあの神官長の後ろに、もう一人やや質素な神官服を着た若い男性が立っていて、驚いてそう呟くと、その神官様は俺達を見て笑顔で一礼した。
「彼は、今年に入ってから紋章の付与を始めた神官です。せっかくの機会ですから、どなたか、彼に紋章の付与を担当させてはいただけませんでしょうか?」
俺達に向かってそう言って一礼する神官長の言葉に納得する。
成る程。魔獣使いが増えてきたので、神殿側としても紋章の付与をする人を増やそうとしているんだな。
確かに、誰だって練習しないと上手くはならないもんな。
「ああ、それなら俺の紋章の授与をお願い出来ますか」
笑顔のシェルタン君の言葉に、やや緊張気味だった新人神官様も笑顔になる。
「ありがとうございます。しっかりと付与させていただきます」
笑顔で頷き合ったところで、我に返って慌てたよ。玄関先で立ったまま何をしているんだって。
付き添いなのか護衛の方なのか、明らかに武器を装備した人があと二人いて、その人達が神官様達の乗ってきた馬も一緒に引いて厩舎へ向かった。
一応、ここの厩舎はかなり広いので、オンハルトの爺さんの騎獣のエルクのエラフィとギイの騎獣のブラックラプトルのデネブがいても、馬達はしっかりと距離を取っておく事が出来るから大丈夫だ。
大丈夫だといっても、あまり狭い場所だと馬の方が怖がるからな。
護衛の人達が戻ってくるのをアーケル君達が待っていてくれたので、お願いして俺達は揃って神官様達を案内してリビングへ向かった。
お二人とも、見事な屋敷だと言って別荘を誉めてくれたよ。
「では、準備をいたしますので少々お待ちください。こちらのテーブルを使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
リビングに置いてあった大きなテーブルの横に立った新人神官様の言葉に、俺は笑顔で頷く。
「はい、どうぞお使いください。ええと、何かお手伝いする事とかありますか?」
荷物はこれだけみたいだけど、何か祭壇的なものを用意したりしないのだろうか?
「いえ、大丈夫ですので、どうぞ立ち会いの方はそちらでお待ちください」
にっこりと笑った新人神官様は、俺達に向かって改めて一礼してから持ってきていた木箱を床に置き、中身をテーブルの上に出し始めた。
まず、大きな敷布を広げてそこに小皿と水筒を取り出した。
それから大きめのトレーが三つと例のハンコもどきが三つ。
それらを綺麗に並べてから、次に水筒から小皿に水を注ぐ。それを見た神官長が、胸元から小さな巾着をゆっくりと取り出した。
「では、場の浄化をさせていただきます。
恭しい口調で神官長がそう言い、それはそれは丁寧な様子で巾着から取り出したのは、親指の爪よりちょっと大きいくらいの、ただのガラス片に見えた。だけど、そんなものをここで出すわけがない。
そこまで考えて、ある結論に達した。
「あ、あれってもしかして……?」
見覚えのあるその透明なガラス片に思わずそう呟くと、俺の声が聞こえたらしい新人神官様が笑顔で振り返った。
「はい、これは大変に貴重な水晶樹の葉でございます。こうして水に浸すと、水晶樹の葉は場を浄化してくれます」
小皿の中で水にゆっくりと沈んでいく親指の爪よりちょっと大きいくらいのそれを見て、遠い目になった俺だったよ。
すみません。貴重なものらしいですが、その何倍もある傷ひとつ無い葉っぱ。俺、大量に持ってます。ついでに言うと、枝ごとも大量に持っています。
苦笑いするハスフェル達とこっそり目を見交わして、またしても必死になって笑いを堪える羽目になった俺達だったよ。
水晶樹の葉っぱのおかげでなんだかリビングの空気がめっちゃ爽やかになったところで、神官長が三つ並んだハンコもどきを見る。
トレーの前には小さなメモが置かれていて、そこには今回紋章の授与を受ける三人の名前が書かれている。
そうだよな。間違ったりしたら大変だもんな。
のんびりとそんな事を考えていると、どうやら準備が出来たらしく神官長が笑顔で俺達に向き直った。
ちなみに、シェルタン君とレニスさん、それからアルクスさんの三人は前に進み出ていて、それぞれ名前の書かれたトレーのすぐ横に椅子を置いて座っている。
俺達は、彼らからはちょっと離れたところで椅子やソファーに座って様子を見ている状態だ。
「では、どなたから付与させていただけばよろしいでしょうか?」
真剣なその言葉に、シェルタン君が笑顔で手をあげる。
「俺が一番で、彼女が二番。アルクスさんが最後です」
すると、それを聞いた神官長は、一瞬何か言いかけて新人神官様を振り返った。
顔を寄せて何やら小声で相談した神官長は、一つ大きく深呼吸をしてから俺達に向き直った。
「では、一番目と二番目の方は彼と私が同時に付与させていただきます」
その言葉に、俺達全員揃って驚きに目を見開く事になったのだった。
おお、そうきたか。って事で、レニスさんが神官長の前に、シェルタン君が新人神官様の前に進み出るのを、俺達は目を輝かせて見つめていたのだった。