街への帰還と派遣依頼?
「もういいだろう? じゃあ、そろそろ街へ戻るか」
がっつりピルバグサッカー大会を繰り広げて大満足した従魔達は、そのままキラーマンティスの出現場所へ向かい、ここでもそりゃあ大はしゃぎでがっつりキラーマンティス相手に豪快なバトルを繰り広げたのだった。
そして従魔達の余りの暴れっぷりに危険を感じて、結局人の出番は無し。もう諦めの境地で、スライムソファーに座って寛いでいた俺達だったよ。
五面クリアーしてようやく満足したところでそろそろ撤収となり、飛び散らかるジェムと素材をスライム達にしっかり回収してもらってからそれぞれの騎獣に飛び乗り街へ戻っていったのだった。
「ううん、しかしこれだけの紋章の無い従魔を連れて街へ戻ると、また何か言われそうだなあ」
冷静に考えて、紋章なしの従魔の数が多すぎる気がする。
小さくそう呟くと、側にいたハスフェルも困ったように周りを見てからため息を吐いた。
「そうだな。これは確かにこれだけ紋章の無い従魔がいれば街の人達に本気で怖がられそうだな。しかも、今は祭り見物の観光客も多いだろうから、俺達の従魔でも恐らく怖がられるだろう。ちょっと割高ではあるが、別荘か、あの講習会場へ神官殿に来てもらったほうが良さそうだな。最悪ギルドへの登録はホテルハンプールに行ってからでも構わんだろうが、紋章の授与は出来れば早めにやっておいた方がいいだろうしな」
「あれ? 別荘や講習会場に神官様を呼べるんだ」
ハスフェルの言葉に驚き、思わずそう尋ねた。
「おう、貴族街限定だがな。神殿の支部があって、そこに頼むと屋敷まで来てくれるんだよ。ただし、通常の登録料以外に派遣依頼料って名目で結構な金額を取られるんだ。以前、ちょっと事情があって世話になった事があるんだが、正直に言うとぼったくられた気分になったぞ」
苦笑いするハスフェルの説明に、何故かギイまでが同じように苦笑いしている。
「成る程。でも、それならその派遣依頼料ってのは祝い代わりに俺が出すから、是非とも呼んでやってくれ」
「そうだな。じゃあそれで行こう」
顔を見合わせて頷き合い、そのまま街へ向かって一気に加速していったのだった。
「おお、日が暮れる前に街道まで戻ってきたぞ〜〜」
少し遠いが、見慣れた街道沿いに立つ背の高い木と街道横の茂みが見えて、マックスの背の上で伸び上がって見た俺は、笑いながらそう叫んだ。
「やっと戻ってきた〜〜〜!」
「なかなかに実入りの多い時間でしたね」
「そうだな。まだ夢を見ているみたいだよ」
笑ったアーケル君の叫びの後に、ムジカ君とシェルタン君が顔を見合わせてうんうんと頷き合っている。
レニスさんは、小さなため息を一つ吐いて、順番に自分の従魔達を撫でたり揉んだりしていた。
ちなみに、鳥達には脚のところにギイが出してくれた目立つ赤いリボンを結び端をそのまま垂らしている。
サーバルをはじめとする今回の遠征でテイムした子達にはとりあえず出来るだけ小さくなってもらい、同じくギイが出してくれた黄色の細いロープを首に巻いて、それぞれ目立つように大きく蝶結びにしている。
そして紋章の無い子達は出来るだけ目立たないように小さくなってもらい、従魔達の背中の上に乗せて俺達の従魔で取り囲んでいる。
こうしておけば、少なくとも悲鳴を上げて逃げられるような事はないだろう……多分。
はい、早駆け祭りの知名度と人気度、舐めてました。
もう俺達が街道に近づいた途端に、従魔達がビビるくらいのものすごい大歓声。
結局、余りの人の多さと狂乱っぷりに街道に入れなくて、そのままぎりぎり城門の前まで街道横の空き地を進んだ俺達は、騒ぎを聞きつけて来てくれた城門にいた兵士の先導でそのまま貴族用の城門まで連れていってもらって、やっと街へ入れたのだった。
「じゃあ、俺は神殿の支部へ神官の派遣依頼に行ってくるから、お前らは……って、どっちへ戻るんだ? 別荘か? それとも講習会場か?」
貴族の別荘地に入ったところで一旦止まると、振り返ったギイにそう聞かれて俺は困ったようにハスフェルと顔を見合わせた。
「ええと、俺的には風呂に入りたいから選んでいいなら別荘一択なんだけど、どうするべきだ?」
「いいんじゃあないか。ここからなら多分別荘の方が近い。どちらでもいいから早く戻った方がいいと思うぞ」
苦笑いするハスフェルの視線を辿ってみると、あちこちの屋敷の窓が開いて、何人もの人達がこっちに向かって手を振ったり何やら声を上げたりし始めている。
しかも、キャーキャーと興奮した歓声までが複数上がり始め、庭に駆け出して来る人まで現れ始めた。
うん、これはまずい。早めに別荘に戻ろう!
って事で、それぞれの従魔に乗ったまま紋章の無い子達を隠すように塊になった俺達は、急いで移動しようとしたんだけど、何故か神殿の支部へ行くはずのギイは、乗っていたデネブから飛び降りてオンハルトの爺さんにデネブの手綱を渡したのだ。
『なあ、どうやって戻ってくるつもりだ? ここから別荘まで、日が暮れた後の歩きはキツいと思うぞ?』
心配になって念話でそう尋ねると、笑ったハスフェルとギイが何故か揃って空を指差した。
『あ、そうか。ギイは鳥に変身出来るんだったな。じゃあ飛んで戻ってくるのか』
『おう。一応俺もそれなりに顔が売れてしまったからなあ。面倒はごめんなので、ちょっと俺を隠してくれるか。そのまま鳥になるからさ』
笑ったギイの言葉に頷き、さりげなくギイを隠すように俺とハスフェルとオンハルトの爺さんが集まる。
即座にあの小さな緑色の鳥になったギイが一気に羽ばたいて空へ舞い上がる。
それを見たお空部隊の子達が息を合わせて一気に空へ舞い上がり、鳥になったギイを隠してくれたよ。
「あれ? ギイさんはどうしたんですか?」
しばらく進んだところでアーケル君がギイがいないのに気がついたらしく、慌てたようにそう言って周囲を見回す。
「ああ、紋章の付与をしてくれる神官様を別荘へ派遣してもらうように、神殿に頼みにいってくれたよ。面倒な交渉事はあいつが上手いからな。任せておけばいいさ」
当たり前のようにハスフェルがそう言うと、少し考えてから何故か納得したらしいアーケル君が笑って頷き、紋章を授けてもらえると知ったシェルタン君とレニスさん、それからアルクスさんまでが揃って嬉しそうに目を輝かせたのだった。
よし、じゃあこの後は皆で紋章付与の立ち合いだね。さて、皆はどんな紋章付与になるんだろうね?
ううん、楽しみだなあ。
マックスの背の上で別荘へ向かいながら、俺は三人の紋章付与を楽しみにしていたのだった。