それぞれのテイム
「おお、もう一羽確保してくれたみたいだぞ。ほら見ろ!」
咳き込んでいたハスフェルとギイがようやく落ち着き、皆で笑い合っている間にお空部隊がまた何処かへ飛んで行った。
それを見て無言で頷き合った俺達がしばらくその場で待っていると、不意にハスフェルが空を指差してそう言って笑った。
その言葉に、俺達も慌ててハスフェルが指差した方角の空を揃って見上げる。
確かに、何処かへ行っていたお空部隊の子達が揃ってこっちへ戻ってくるのが見えて、さらにその真ん中に巨大なハクトウワシがいるのに気がつき皆の口から歓声が上がる。
「アーケルさん。では、落とすのはお願いします!」
「おう。任せろ!」
満面の笑みのシェルタン君の言葉に、ドヤ顔のアーケル君がそう答える。
そのまましばらく待って、お空部隊の子達が頭上まできたところでアーケル君は腰の剣を抜いた。もちろん、石付きのヘラクレスオオカブトの剣だよ。
「おおい。またさっきと同じようにしてそいつを地上に落とすからな〜! お空部隊の子達は巻き込まれないように逃げてくれよな〜〜〜 真上に術を開放するぞ〜〜〜!」
大声のアーケル君の言葉に、応えるかのように鳥達がそれぞれ大きく鳴く。
「よし、いけ〜〜!」
お空部隊の子達の包囲網がググッと広くなったところで、アーケル君が剣を振り上げる。
さっきと同じように、硬直したハクトウワシがまるでおもちゃのように翼を広げた体勢のままでゆっくりと降下してくる。
そしてそのまま地面にコロンって感じに落っこちて押さえつけられてしまった。
何が起こっているのがさえ分からないままに、ハクハクと口を開けているが、どうやら声も出ないみたいだ。
「じゃあ、解放するから確保はよろしくな!」
そう言ったアーケル君が、勢いよく掲げていた剣を振り下ろす。
その瞬間、最大サイズにまで巨大化したティグとリナさんの従魔のリンクスのルルちゃん、それからニニとカッツェが四方から同時に飛びかかった。
「おお、さっきの子よりもこっちの方がデカい!」
どうしてヤミーじゃ無いのかと思ったが、あのデカさを見たら確かにヤミーよりも大きいルルちゃんの方が適任なのだろう。
嫌がるようにもがくも、さすがにあの四匹に押さえつけられてしまってはハクトウワシも抵抗出来なかったみたいだ。
しばらくしてぐったりと頭を横にして大人しくなる。
「もう大丈夫よ」
こっちを見たニニの言葉を通訳してやると、やや緊張した顔のシェルタン君は頷いてから大きな深呼吸を一つした。
「よし、行くぞ!」
喝を入れるかのように自分の頬を両手で叩いたシェルタン君がゆっくりと進み出てハクトウワシの頭を押さえつける。
「俺の仲間になれ!」
しっかりとした力強い言葉に、押さえつけられていたハクトウワシが答えるのを、俺達は揃って笑顔で見つめていたのだった。
シェルタン君がつけた名前はエディン。
ムジカ君がつけたヘルツェと並んで、その物語の中に登場する同じく白髪の術師の名前らしく、これはムジカ君が考えてくれた名前なんだって。
聞けば、幼い頃に虐待されていたシェルタン君は、村の人達から教えてもらって文字こそ覚えたものの、そう言った文学的なものに触れる機会が皆無だったらしい。
唯一読んだのが、村の小さな神殿にあった経典だけだって言われて、割と本気で泣きそうになった俺だったよ。
でも当のシェルタン君は、そんな俺達の気持ちを知ってか知らずか、今なら皆さんのおかげで資金に余裕が出来たから、街へ戻ったらムジカ君お勧めのその本を探してみますと言って笑っていた。
ああ、もう新人達が良い子過ぎて、俺達の保護者気分が限界を突破しているんだけど!
新たにテイムしたエディンを嬉しそうに撫でながら、笑顔の二人がレニスさんにハクトウワシを撫でさせている。
「ほら、怖くなんか無いだろう?」
笑った二人にそう言われて、困ったように笑いながらハクトウワシを撫でるレニスさんを見て、俺はハスフェル達と顔を見合わせた。
彼らも同じ事を考えていたらしく、次の瞬間に頭の中にトークルームが展開する。
『ベリー、そっちはどんな感じだ?』
『ああ、無事にテイム出来たようですね。ええ、もちろん頑張りましたよ。念の為、二羽とも位置の確認はしていますがまだ確保はしていません。どうしますか? 他にテイム希望の方がいれば二羽とも確保しますよ』
当たり前のようにそう言われて、もう一度ハスフェルとギイだけでなく、オンハルトの爺さんまで揃って吹き出す。
「ご主人、じゃあ行ってくるわね!」
上空から舞い降りてきたローザが嬉しそうにそう言うと、二羽のハクトウワシ達までが上空へ舞い上がって行き、そのまま空部隊と合流してさっき飛んできた方角に向かって一気に飛び去っていった。
「ローザによると、あと二羽のハクトウワシを確認しているらしく、確保しに行ってくれたみたいだ。ええと一羽はアーケル君がテイム希望なんだよな? あと、誰かいる?」
俺の言葉にリナさん達やボルヴィスさん達が無言で顔を見合わせる。しかし誰も手を挙げず、全員が揃ってレニスさんを見た。
「ええと、レニスさんはどうですか?」
全員の言いたい事が一致したのを確認した俺がそう言うと、彼女は驚いたようにこっちを振り返り、それから戸惑うように俯いた。
「もちろん、出来るものならば欲しいです。でも、私に出来るでしょうか?」
マックスの頭に上に座ったシャムエル様がうんうんと頷いているのを見て、俺は笑顔で大きく頷いてみせた。
「そうですね。確保はアーケル君と従魔達がやってくれますから、テイムに必要な覚悟と勇気さえあれば大丈夫ですよ。でも、それでもやっぱり怖いと思うのなら、もちろん無理強いはしませんよ」
俺の言葉に、レニスさんは無言で考える。
「正直に言って、怖く無いと言えば嘘になります。でも、でも頑張ってみます!」
真顔でそう宣言した彼女の言葉に、俺達は笑顔で拍手でその勇気を讃えたのだった。
そして、それからしばらく待ってお空部隊が本当に二羽のハクトウワシを追い込んで来てくれた。
少し大きめの方をアーケル君が、そしてやや小さめの方をレニスさんがそれぞれ無事にテイムしたのだった。
アーケル君が付けた名前はアーシャ。
レニスさんは九と名付け、九号と呼ぶねと言って嬉しそうにハクトウワシを撫でていたよ。
「おめでとう。二桁がもう目前だな」
笑った俺の言葉に、レニスさんはもうこれ以上ないくらいの良い笑顔で頷いていたのだった。
よし、これだけの従魔がいればあの暴力野郎達も文句がないだろう。
街へ戻れば彼らの元へ一旦帰るといった彼女の言葉を思い出す。
まあ、奴らも人に暴力は振るわないと言っているらしいけど、万一って事があるからな。
何があろうとも大丈夫なくらいに彼女の護衛が完璧になったのを見て、心の底から安堵した俺だったよ。