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テントを修理する

 家と店の扉や窓を閉め、俺達はひとまず従魔達の待つ外へ出た。

「はあ、とんだ大騒ぎだったね。さてと、じゃあ先ずは商業ギルドへ行って、登録を済ませといで。それが終われば、大工のリード兄弟を紹介してやるから、具体的な話は彼らと直接してくれるかい」

 そう言ったマーサさんの後をついて行き、店の横にある円形広場、と言うか円形交差点を通って別の通路にはいり、角を曲がって出た通りは職人通りだった。

「あ、噴水広場からここへ繋がってるんだ。へえ、成る程ね」

 最初に通った噴水広場につながる職人通りと、ここで繋がってる。

 ううん……どうにも分かったようなわからない様な、不思議な道の繋がり方だ。若干、一人歩きが不安だよ。だけどまあ、取り敢えず噴水広場に戻れば、ギルドの宿には戻れるから、万一迷子になったらその作戦でいこう。



 見回した職人通りは、時間のある時に一度ゆっくり見に来よう。そう思いたくなるくらい、なんだか楽しそうな店が色々ある。

「あ、なあハスフェル、それなら今のうちに、テントを修理に出しておくべきじゃないか? 二十日も宿を取ったんだから、今頼んでおけば、出発までには修理出来るんじゃないか?」

 俺の言葉に立ち止まったハスフェルとギイが、笑って頷いている。

「確かにそうだな。それならここは二手に分かれよう。俺達は商業ギルドには用はないからな。クーヘンが登録している間に、修理を依頼してこよう」

「あ、確かにそうですね。大工のリード兄弟の所へは、皆さんの意見も聞きたいので出来れば一緒に行って頂きたいですね」

 振り返ったクーヘンの言葉に、ハスフェル達が揃って頷く。

「そうだな。じゃあ、用が済んだら商業ギルドへ行くからそこで待っていてくれ」

「分かりました。ではまた後で」

 マーサさんとクーヘンは、噴水広場の方へ向かったので、俺達はハスフェルとギイの案内でテントの修理をお願いする為に、大道具屋に向かった。



「ここだよ。なんなら、予備のテントをもう一つ買っておいても良いかもな」

 到着した店先には大小様々なテントが並び、他にも様々な道具が所狭しと並んでいる。

「マシュー、いるか?」

 店を覗き込んで、ギイが声を掛ける。

「おう、ギイか。いらっしゃい。入ってくれて良いぞ」

 奥から声がして、俺と変わらない体格の男性が出て来た。まあ、年齢は俺よりかなり上みたいだけど。

「俺もいるよ」

 手を振ったハスフェルの声に、顔を上げたマシューと呼ばれた男性は、こっちを見て文字通り固まった。


「な、な、なんだよ! その後ろにいるデカいのは!」

 いきなりそう叫んだマシューさんは、腰のベルトに取り付けていた道具入れから巨大な目打ちを取り出して構えた。

「うわあ、あの目打ち、針の部分だけで30センチは余裕であるぞ。あんなデカい目打ちがあるんだ」

 俺の呟きを聞いて、隣にいたハスフェルが突然吹き出す。

「すまん、そこを気にするのかと、ちょっと意表を突かれたよ。マシュー。大丈夫だ。こいつらは全部、ここにいる彼の従魔達だよ」

「馬鹿言うな。そんな大きなのがテイムできる訳……首輪をしてるな」

 途中で、マックスの首に嵌った首輪に気付いたマシューさんは、そこでようやく武器? を降ろしてくれた。

「彼がケン。ご覧の通りの超一流の魔獣使いだ」

「こりゃあ驚いた。マシューだよ。改めて宜しくな」

 笑顔で差し出される手を握り返す。がっしりとタコの出来た硬い大きな手をしていた。

「それで? 何がご入用だい? まあ中へどうぞ。申し訳ないけど、従魔達は外で待ってもらえるか」

 うん、道具が所狭しと並ぶこの店では、マックス達が入るのはちょっと無理そうだ。

 店の横から裏庭に入る通路があったので、まずはマックス達をそっちへ入れてやる。

 どうやら馬に乗っている人用の、臨時の厩舎みたいなのがあったので、とりあえず、そこで待っていてもらう事にした。

 シャムエル様は当然のように俺の右肩に座っているし、ファルコとモモンガのアヴィは、平然と、そのまま俺の肩と腕にしがみついている。

 まあ、こいつらくらいだったら一緒に入っても大丈夫だろう。

 鞄の中に、アクアとサクラの両方に入っていてもらい、俺達は店に戻った。




「こりゃまた豪快に破いたな。一体何でやられたんだ?」

 一番破損の酷かったギイのテントは、もう何処がどうなっていたのか全くわからない状態だ。

「心棒も折れちまってるのか。これはもう交換だな」

 テントを確認していたマシューさんが突然笑い出した。

「何だ、恐竜かよ。そりゃあこうなるか。コレは……ステゴザウルスだな。お前、ここまで破かれてよく生きてたな」

 驚いた事に、マシューさんは、テントを破いた犯人がステゴザウルスだと分かったみたいだ。

「ええ、何で分かったんだ?」

 驚く俺に、マシューさんは破れたテントに突き刺さっていた不思議なものを見せてくれた。

 うん、渡されたそれはちょっとした短剣よりもでかいけど、あれはどう見ても尻尾に生えていた棘っぽい。ええ? あの尻尾の棘って、そう簡単に抜けるものなのか?

 驚く俺に、マシューさんとギイは、何やら大喜びしている。



 俺達のテントを尻尾で攻撃してくれた巨大なステゴザウルスは、ワニのような全身をやや硬いデコボコの鱗で覆われている。

 そのステゴザウルスの尻尾の大きな棘のうちの一本が、どうやらギイのテントに突き刺さって抜けていたらしい。

「珍しいもんを見たな。これはステゴザウルスの尻尾の棘の抜けた鞘だよ。ステゴザウルスの尻尾の棘や背板は、こんな風に表面が時々剥がれ落ちるんだ。ほら、猫の爪がスポッと抜けるだろう、あんな感じさ」


 確かに殆どの恐竜の体の表面は、鱗っぽいものに覆われているが、トカゲや魚の鱗とはちょっと違っていてワニの身体の表面みたいな、柔らかいデコボコした鱗だ。

 イグアノドンのチョコや、ブラックラプトルのデネブの体の表面が丁度そんな感じだ。

 だけど、ミニラプトルなんかは明らかに鳥みたいな小さな羽根が生えているし、どうやら恐竜の皮膚は、種類によって色々あるみたいだ。

 そしてどうやらステゴザウルスは、ワニっぽい皮膚で、棘や背板は古くなったらべりっと剥がれる構造らしい。

 ちなみにこれも拾えたら高く売れるらしい。それは知らなかった。今度洞窟に行ったら探してみよう。


 その棘の抜け殻をギイに返しながら、マシューさんは改めてテントを確認して、注文書に色々書き始めた。

「ほれ、お前さんのはこれだけだ。次はハスフェルか。どれどれ」

 取り出したハスフェルのテントも広げて確認して、また注文書に詳しく書いていく。

「お前さんの所は背板の欠片か。まあ大した事ないな」

 テントに引っかかっていたコースターみたいな感じの半透明の鱗っぽいものを、丁寧に剥がしてハスフェルに渡している。



「あとはお前さんか。どれどれ見せてみろ」

 サクラが出してくれた破れたテントをまとめて渡すと、マシューさんは手早く広げて破損部分を確認し始めた。

「おお、お前さんのところにもほら、デカいのが一本だけ入ってたぞ」

 テントの天井部分の縫い目に引っかかっていたそれを、マシューさんは笑って俺に渡してくれた。

 40センチ近くある細長い棘の抜け殻を見て、俺は本気で怖くなった。

「この棘にまともに叩かれていたら、今頃ここにはいないよなあ。多分、何が起こったかすら分からないうちに、ソッコーあの世へ旅立ってるぞ」

 本気でビビってそう呟く俺を見て、シャムエル様が笑っている。

『大丈夫だよ。君には私の加護を授けたからね』

『加護? 何それ』

 念話で質問すると、にっこり笑ったシャムエル様は、自慢気に胸を張った。

「まあ、災難除けだと思えばいいよ。これがあれば不慮の事故はほぼ防げるから安心してね。他にもあるけど、後でまとめて説明してあげるから、まあ今は気にしないで」

『何それ、めっちゃ気になるんですけど!』

 念話で叫んだ俺に、シャムエル様は笑っている。

 うん、これは後程詳しく聞いておかなくては。



「ほら、これがお前さんの分の預かり票だ。で、こっちが修理箇所を書いた注文書。四日後には仕上げておくから、いつでもいいから引き取りに来てくれるか」

「ああ、了解だ。まあ祭りが終わるまでしばらくいるから、そんなに急がなくても大丈夫だぞ」

「違う! 俺が困るんだよ。今年は一周のレースに出るんだから、準備や訓練が色々あって忙しいんだよ!」

 その言葉に、俺達は揃って吹き出した。


 おう、ここにもいたぞ、レース参加者が!


「お前は一周のに出るのか。俺達は、ここにいない、同じく魔獣使いのクライン族の仲間と一緒に全員揃って最終レースの三周に出るぞ。もちろんあの従魔達でな」

 注文票を集めていたマシューさんは、ハスフェルの言葉に弾かれたみたいに物凄い勢いで振り返った。

「ちょっと待て! 今なんつった? 三周に出る? しかも全員、あのデカい従魔達で?……失礼だが一つ質問だ、あれは良く走るのか?」

「言っておくが、あいつらが本気で走ったら他の奴らが二周する間に、俺達は余裕で三周出来るぞ」

 胸を張って断言したハスフェルの言葉を聞き、黙ったまま目を瞬いたマシューさんは、次の瞬間大喜びで手を叩きだし、ハスフェルとギイの腕を取って振り回して大喜びしている。

「よっしゃ! 大穴発見だ! 俺は予算全部をお前さん達に賭けるぞ。三周って事は、当然チーム戦にも参加したんだろうな」

「当然だろうが。俺達は、金銀コンビ、って付けたぞ。理由は分かるな。見たまんまだ」

「確かに、それなら絶対お前らだって分かるな」

 マシューさんが大喜びで手帳に書き込んでいる。

「で、ケンさんは? そのもう一人と一緒に出るんだろう? 何てチーム名にしたんだ?」

 目を輝かせるマシューさんに、俺は小さく笑って胸を張って答えた。


「愉快な仲間達!」


 それを聞いたマシューさんだけでなく、ハスフェルとギイまで揃って同時に吹き出し、俺も堪え切れずに大笑いになる。

 結局全員揃って大爆笑になったのだった。


 良いだろう?

 チーム名『愉快な仲間達』

 今の俺達を表すのに、これ以上無いぴったりの名前だと思うんだけどな。

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― 新着の感想 ―
『愉快な仲間達』これの振りだったのね
[一言] >チーム名『愉快な仲間達』 私は昔、某ブラゲでチーム名『◯◯と愉怪な仲魔たち』ってつけてた事あるなぁw ◯◯は私のプレイヤー名で略称が◯◯怪魔。 作者さんとネーミングパターン似てるのかな?w…
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