テイム希望者達
「ええと……」
ベリーからもう一羽ハクトウワシを確保していると言われたものの、ベリーの存在を知らない人もいるこの場でそれをどう説明しようか困っていると、羽ばたく音がしてファルコが舞い降りてきた。
「どうしますか? ご主人がテイムなさいますか? それとも、新人さんの誰かにテイムさせますか?」
よし、これで取り敢えずハクトウワシの確保については説明出来るな。
内心で頷きつつ、定位置の左肩に留まったファルコの言葉にちょっと考える。
「ううん、珍しいジェムモンスターみたいだからちょっと欲しくはあるけど、今回はあっちにテイムさせるべきかなあ」
正直に言って欲しくないと言えば嘘になるが、冷静に考えてもうこれ以上お空部隊を増やすと、モーニングコールで俺が更なる酷い目に遭いそうな気がして思い留まったよ。
「シェルタン君はどうだ? ファルコによると、従魔達が後もう一羽ハクトウワシを確保してくれているみたいなんだけど」
レニスさんは、ハクトウワシを怖いと言った。確かに今までの鳥のジェムモンスターの中では、普段の大きさとしては最大クラスだろう。まだ、ようやく魔獣使いの権利を確保したばかりの彼女なら、怖いと言う気持ちも分かる気がする。なので、ここはもう一人のシェルタン君にまずは聞いてみる。
「いいんですか? 是非お願いします! ああ、なんて名前にしよう」
目を輝かせたシェルタン君の言葉に、分かったと言わんばかりに目を細めて頷いたファルコが、大きく翼を広げて一気に舞い上がって行った。
「じゃあ、またお空部隊が連れてきてくれるみたいだから頑張ってテイムするんだぞ。ええと、じゃあもう一回確保は頼んでいいかな?」
後半は、アーケル君に向かってそうお願いする。
「もちろんです。へえ、ハクトウワシか。まだいるなら俺も欲しいくらいだけど……さすがに、そんなに何羽もはいないかな?」
「あの、俺は……」
「ああ、いいからまずはシェルタンがテイムしろよな。俺の従魔は強いのが何匹もいるからさ。そっちの戦力強化の方が優先順位は高いって。次がいたら、立候補させてもらうよ」
当然のように笑ってそう言ったアーケル君は、一つ深呼吸をしてから空を見上げた。
「そっか、祭りが終わったらテイムしたハクトウワシの子達に何処に住んでいたのかを聞いて、そこへ行ってテイムすればいいんだよな。よし、それでいこう!」
小さく拳を握るアーケル君の呟きに、俺は無言になって考える。
『なあベリー、ちょっと質問してもいいか?』
一応トークルーム全開で話しかけたので、ハスフェル達が揃ってちらっと俺を見てから知らん顔をした。
『はい、いかがなさいましたか?』
突然の俺の念話に驚いた様子のベリーだったが、すぐに応えてくれた。
『ハクトウワシの住処ってアーケル君達でも行けそうな場所? それとも、賢者の精霊でないと行けないような場所だったりする?』
『おや、まだ誰かテイムを希望されていますか?』
『シェルタン君に今回の分はテイムさせるつもりだったんだけど、アーケル君もハクトウワシが欲しいみたいなんだ。それで、祭りが終わればテイムされたハクトウワシに、直接住んでいた場所を聞いてテイムしに行くつもりみたいだからさ。万一危険な場所だったり、賢者の精霊でないと行けないような場所だったりすると大変だろう? それで一応確認したかったんだ』
『ああ、そういう事でしたか』
納得したように笑ったベリーだったけど、急に真剣な声になる。
『鳥がいれば、ハクトウワシの生息地域へ行く事自体は可能ですが、探知の能力を少なくとも半径数リル程度は持っていないと、間違いなく見つけられないでしょうね。アーケル君の術師としての能力は非常に高いですが、ちょっと自力でのテイムは難しいと思いますよ』
やや遠慮しがちの説明だったけど、ベリーがそう言うって事は、ほぼ不可能って事なんだろう。ってか、そもそも探知の能力で半径数リルって事は、数キロって時点でもう確実に無理ゲーだって。
「ええと、これはなんと言って止めるべきかな」
割と本気で心配になってそう呟くと、笑ったベリーの声が聞こえた。
『一応あと二羽の存在を確認しています。では、ちょっと頑張ってみましょうかねえ』
何故かすっごく楽しそうなベリーの声に、俺は慌ててハスフェル達を振り返った。
『なあ、どうしてあんなにベリーが楽しそうなんだ?』
しかし、何故かハスフェルとギイも必死になって笑いを堪えている。
『まあ、ここは賢者の精霊殿にお任せしておけばいいさ。いやあ、さすがはベリーだ。恐れ入ったよ』
念話では完全に笑った声になっているギイの言葉に、ちょっとチベットスナギツネみたいな目になる俺。
『つまり、とんでもなく危険で怖い所にハクトウワシは住んでいるわけだな。でもって、お前らも過去に行こうとして、あるいは行って狩ろうとして酷い目にあった事があると。要するにそういう事だな』
それなりに付き合いが長くなったので、なんとなく状況が分かって敢えて具体例を挙げてそう言ってやると、ハスフェルとギイが揃って思いっきり吹き出して誤魔化すみたいに咳き込んでいたよ。
「だ、大丈夫ですか!」
突然吹き出して咳き込む二人を見て、皆慌てたように駆け寄って背中をさすったり水筒を取り出したりしている。
予想通りの反応に、俺も吹き出しそうになるのを必死で堪えて、取り敢えず自分で収納していた水筒を取り出して水を飲んだのだった。
はあ、冷えた水、美味〜〜〜。