次のテイムは?
「あの、本当に私がテイムしてよろしいのでしょうか?」
俺達が全員下がったのを見て、戸惑うようにそう尋ねるレニスさん。
「もちろんです。頑張って一号の相棒をテイムしてやってください」
笑った俺の言葉に、レニスさん以外の全員が笑顔で頷く。
「あ、ありがとうございます。では、頑張ってみます」
そう言ったレニスさんは、胸元を押さえて一つ深呼吸をしてからニニ達が確保しているレッドフォックスに向き直った。
ニニが首元を、マロンとヤミーが左右から前脚の付け根あたりをそれぞれ噛み付いて完全に確保している。他の子達は巨大化したままその周りを取り囲んでいる。
しかし、歯を剥き出しにして唸るレッドフォックスの闘志はまだ消えていないみたいだ。
「これはまだ、完全には確保出来ていませんね。もう少し戦って痛めつけた方がいいのでしょうか?」
一号から降りないまま、困ったようにそう呟くレニスさん。
「そうだね。貴女の水の術だと他の子達まで巻き添えになるのが確実だから、それはやめた方がいいわね。その剣か何かでちょっと叩いてみれば?」
俺が何か言うよりも早く、リナさんが彼女にそう教える。
「そうですね。では……頑張ります」
真剣な様子で頷いた彼女は、少し考えて手持ちの収納袋からやや短めの槍を取り出した。
穂先を反対に向けて、槍の下側についている石突きと呼ばれる側を上にして持つと、一号の背からゆっくりと降りていった。
視線はレッドフォックスから動かない。
レッドフォックスを取り囲んでいた猫族軍団の子達が、ゆっくりと動いて彼女を通す。
ニニ達に取り押さえられつつも低く唸り声をあげていたレッドフォックスが、自分に近寄って来るレニスさんを見て一層強い声で唸り始めた。
「ごめんね!」
そう言って槍を振り上げたレニスさんが、横からレッドフォックスの顔を手にした槍の石突でぶん殴った。
「キャウン!」
見事に決まった一発に、犬のような悲鳴をあげるレッドフォックス。
そして返す手でもう一度、今度はやや上がった顎の下に見事にアッパーが決まり声もなく仰け反るレッドフォックス。
そのまま槍を振りかぶったレニスさんは、レッドフォックスの頭を上から槍の柄で力一杯押さえつけた。
「私の、私の従魔になれ!」
緊張しているのだろう。普段話す声よりもかなり低い彼女の声が響く。
でも、その声にしっかりと力がのっているのが分かり、俺は黙ってその様子を見つめていた。
しばしの無言の睨み合いが続いたが、先に音を上げたのはレッドフォックスだった。
「はい、貴女に従います」
やや低めの声でそう答える。どうやらこの子は一号と同じ雄みたいだ。
ニニ達がそれを聞いて離して下がる。
ゆっくりと起き上がったレッドフォックスは、ピカッと光って一気に大きくなった。
おお、レニスさんと向き合うと彼女の背丈がレッドフォックスの胸の辺りまでしかないぞ。
「お前の名前は七、七号って呼ばせてもらうね。ごめんね、センスのない名前で……それから、私はまだ魔獣使いの紋章が無いの。紋章は、もう少し待ってね」
胸元を手を伸ばしてそっと撫でたレニスさんの言葉に、目を細めたレッドフォックスは嬉しそうに彼女に頬擦りした。
「名前を貰えてとても嬉しいです。では、紋章を刻んでくださるのを心待ちにしていますね」
そう言ってもう一度ピカっと光ったレッドフォックスは、ググッと小さくなって一号と同じくらいの大きさになった。
「では、普段はこれくらいの大きさでいる事にしますね。あの、よければいつでも私の背にも乗ってくださいね」
もふもふな尻尾を振りながらの七号の言葉に、一号がちょっと慌てていたのを見て思わず吹き出した俺だったよ。
よしよし、確実にレニスさんの従魔の戦力もアップしているな。
『無事にテイム出来たようですね。おめでとうございます。それで、お空部隊の子達が良さそうなのを確保してくれているようですが、続けて届けても大丈夫ですか?』
頭の中にトークルームが広がり、笑ったベリーの声が聞こえる。
『ああ、大丈夫だと思うけど、ええと、何を確保してくれたのかな?』
一応代表して俺がそう尋ねると、何故かベリーが吹き出している。
『おやおや、これは素晴らしいですね。一応全部で三羽確保してくれたようですね。オオワシが一羽とハイタカが一羽、それからハクトウワシです。どれも素晴らしい個体ですよ』
は、白頭鷲? それって俺の元いた世界では確かアメリカの国鳥になっていた大型の猛禽類だよな。
うわあ、それは凄い。
密かに感心していると、またセーブルが後ろ脚で立ち上がってクンクンと匂いを嗅ぐ仕草をした。
「ご主人、お空部隊の子達が何やら色々と確保してくれたようですよ。オオワシと、これはタカですね。後の一羽はかなり大きいようですが……何でしょうか? ううん、ここからではちょっと分からないですねえ」
若干困ったようなセーブルの言葉に笑って頷いた俺は、嬉しそうに七号を撫でているレニスさんを振り返った。
「レニスさん。セーブルによると、お空部隊の子達が何か確保してくれているみたいですね。続けてテイム出来ますか?」
「はい! 頑張ります!」
俺の言葉に目を輝かせて立ち上がるレニスさん。
「ちなみに複数いるみたいだから、なんなら二人もテイムするかい? 翼を持つ子ならムジカ君は欲しいんじゃあないか?」
笑ってそう言ってやると、これまた目を輝かせるムジカ君。その隣では、シェルタン君も目を輝かせている。
「じゃあ、もし複数いるのなら、まずレニスさんに選んでもらって二番目がお前。もし三羽目がいれば俺もテイムさせてもらうよ」
シェルタン君の提案に、揃って笑顔で頷くレニスさんとムジカ君。
『準備は良いみたいですね。ではお願いします』
ベリーの念話が聞こえた直後、甲高いファルコの鳴き声が遠くから大きく響いた。
俺達は、目を輝かせてファルコの鳴き声が聞こえた方角の空を揃って見上げたのだった。