まずはキツネのテイムから!
「す、凄いです! こんな事が出来るなんて初めて知りました!」
しばらく上空を旋回してから戻ってきたローザの背の上で目を輝かせるレニスさんは、そう言ってもう最高の笑顔になっている。
「あれ? あいつらはネージュに乗らなかったのか?」
少なくとも魔獣使いなんだから、従魔達に聞けば鳥の背に乗れる事は分かりそうなのに。
「少なくとも、私は彼らが手放したフクロウに乗っていたのを見た事はありませんね。そもそも、鳥の従魔に乗れる事を彼らが知っていたかどうかは、聞いた事がないのでちょっと分からないです」
ローザの背から降りてきて戸惑うようにしつつそう言うレニスさんの言葉に、俺は思わずネージュを探した。
巨大化したまま上空を旋回しているお空部隊の中に、その独特なシルエットを見つけて無言になる。
「そうか。あくまでも従魔は自分より下の存在だと考えているから、従魔に乗れる事自体を知らなかったとしたら、従魔に聞かなければ逆にそれを知る方法が無いのか」
納得した俺の呟きに、皆も苦笑いしている。
『では、次の従魔の候補は猛禽類ですね。あと、彼女の従魔のキツネが狩りが下手だと言っていましたから、もう一匹キツネの従魔がいても良いかもしれませんね』
トークルームが全開のままだったので、笑ったベリーがそう言ってくれて思わず何度も頷く俺。
『確かに。じゃあお願い出来るか?』
『もちろんです。少し遠いですがいくつか反応があるので探しますね、猛禽類はお空部隊の子達にお願いした方が早そうですね』
慌てて念話で応えると、笑ったベリーがそう言ってからトークルームが閉じる気配がした。
「じゃあ、どうするかな」
目標は決まったが、今のメンバーにベリーが探しに行ってくれたと言うわけにもいかず困っていると、顔を上げたニニが目を輝かせて俺を見た。
「じゃあ、次を探しに行ってくるわね。皆、行くわよ〜〜!」
「はあい!」
ニニの掛け声に一斉に返事をして、また数の増えた猫族軍団の面々が張り切って駆け出して行った。セーブルは留守番役だったみたいで、そのまま残ってくれているよ。
そして、ニニの声に応えるかのように大きく鳴いたお空部隊の皆のうち半数ほどが、そのまま周囲へ飛び去って行った。どうやら猛禽類を探しに行ってくれたみたいだ。
「ニニ達とお空部隊が、また何か探しに行ってくれたみたいですね。まあ、捜索は従魔達に任せて大人しく待つとしましょう」
突然一斉に駆け出して行った猫族軍団を見て驚いている皆に、一応説明しておく。
「本当に凄いですね。私でもテイム出来る子が来てくれれば嬉しいんだけどなあ」
小さくそう呟いたレニスさんは、キツネの一号の背に乗って周りを見回し一つ深呼吸をしてから背筋を伸ばした。
そのまま、またしばらく待ちの時間が過ぎる。
だけど見ていると、レニスさんは一号の背の上に上がってきたスライム達を、無言でずっとにぎにぎしている。
分かるよ。スライムの握り心地って独特なんだよな。特に、無意識に握っているとなんと言うか脳内から快感物質が出ている気がする。
小さく笑って、俺も鞄から出てきてくれたアクアをひたすら無言でおにぎりにしていたのだった。
『キツネの亜種を見つけました! これは素晴らしい! ちょっと痛めつけてからお届けしますね!』
唐突に頭の中にベリーの大声が聞こえて、気を抜いていた俺はもうちょっとでマックスの背から転がり落ちそうになって、慌てて手綱を引っ掴んで必死になって踏ん張ったよ。
もちろん、一瞬でアクアが俺の下半身を確保してくれたので、万一にも落っこちるような事はなかったんだけどさ。
俺の横に、巨大化したセーブルが一瞬でやって来る。
「ご主人、ニニ達がキツネを見つけたようです。それなりに大きいみたいですが……これは、私が行くまでもなさそうですね」
後ろ脚で立ち上がってクンクンと何かを嗅いでいたセーブルが、そう言って俺を見下ろす。
「ええと、セーブルによるとニニ達がキツネを見つけたみたいですよ。レニスさん、一号が確か狩りが苦手だって言っていましたから、是非テイムしてやってください。一号も仲間が出来れば上手く狩りが出来るようになるでしょうからね」
俺の言葉にレニスさんが驚いたように一号を見ると、慌てたように俺を見た一号は、恥ずかしそうに俯いてしまった。
その様子を見て色々と察したレニスさんは、苦笑いしてそっとそんな一号を撫でてやった。
「そうだったのね。知らなくてごめんなさい。じゃあせっかく皆が見つけてくれたんだもの、頑張ってみるわね」
顔を上げたレニスさんがそう呟いた直後、大きな鳴き声が複数聞こえて少し離れた林から従魔達が転がり出てきた。
その中に見慣れない大きめの薄茶色のキツネを見つけて、レニスさんが真顔になる。
「レッドフォックスか。これは良いのを見つけたな」
感心したように呟くハスフェルの言葉に納得する。
グリーンフォックスが、脚先と尻尾の先が緑色なのと同じで、そのキツネの脚先と尻尾の先は燃えるような赤い色をしていたのだ。
キツネのジェムモンスターには名前の色がついているのかもしれない。
「あれ? でも一号は普通のキツネの色だよな?」
思わずそう呟くと、右肩に座っていたシャムエル様がにっこりと笑った。
「幾つかのジェムモンスターには特別な設定をしていてね。通常には無い、名前と同じ色を持つ個体は通常種よりも強くなるように設定してあるんだ。特に亜種に多いんだけど、必ずしもそうじゃあないよ。まあ、あの子は亜種みたいだけどさ」
得意げに説明してくれるシャムエル様を見て納得した。
まあちょっと全体的に設定が雑な気がするけど、ランダム設定ぽくてそれもありって事にしておこう。
ニニ達が一斉に飛びかかってキツネをあっという間に確保してくれるのを見て、俺達は笑顔で少し下がったのだった。