次の従魔は何にする?
『お見事でした。どうしますか? まだ何か必要ですか?』
無事にアーケル君がグリーングラスタイガーをテイムしたところで、笑ったベリーの念話が聞こえて、俺は思わず新人コンビとレニスさんを見た。
「ううん、どうだろう。新人コンビとレニスさんには、出来れば後一匹くらいは、何か強そうなのをテイムさせてあげたいんだけどなあ」
考えながら小さくそう呟くと、不意にトークルームが全開になったらしく頭の中にハスフェル達とベリーの気配が広がるのが分かった。
『そうだなあ。もう少し奥へ行けば、オオカミかキツネあたりは、探せば見つかると思うぞ』
『それ以外だと、猫科や犬科には若干劣るが、あの奥の森に流れる川に確かイタチがいたなあ』
『ああ、ブラウンウィーゼルか。あれは確かに小さいが凶暴だな。あれなら戦力としては充分役に立つぞ』
『へえ、イタチのジェムモンスターか。そういうのもいるんだ』
『リアルなネズミ系は従魔としてはあまり人気がないんだが、イタチやモルモット系は割と人気があったぞ』
感心する俺に、笑ったギイが教えてくれる。
『今ではほとんど見なくなったが、昔は、街に住んで従魔をペットとして飼う人達が一定数いたからな。そういった人達にはモルモット系はかなり人気があった記憶があるなあ。まあ、戦力外だから彼女達には意味が無いがな』
笑ったハスフェルの説明に何となく納得する。
100年前の、リナさんの従魔を虐げたような馬鹿な貴族達もいたが、逆に言えば魔獣使いやテイマーから譲ってもらった従魔を、普通にペットのように飼った人だっていたのだろう。
引退した魔獣使いやテイマーだって、言ってみればそのまま街で従魔達を飼っていたわけだしな。
『じゃあ、ベリー達にはオオカミかキツネ辺りを探してもらって、もし見つからなければそのイタチのいる川へ行ってみるか?』
『いいんじゃあないか? まあ彼女に何か欲しい従魔がいれば、それが最優先だな』
『それなら、彼女にも鳥の従魔は必要ではないか?』
ここで、黙って聞いていたオンハルトの爺さんがそう言って、頭上を旋回していたお空部隊を示す。
『ああ、確かに』
つられて見上げた俺も、思わず納得してそう呟く。
今の彼女の従魔は、キツネとウサギ、それからトカゲとスライムが二匹、そしてサーバルの六匹だ。確かに次に探すとしたら鳥の従魔だろう。
「ねえ、レニスさん。鳥の従魔はどうですか?」
ここで念話のトークルームは一旦そのままにして、俺はそう言ってレニスさんを振り返った。
「ええと、鳥の従魔ですか?」
不思議そうにする彼女に、俺は笑って頭上を旋回しているお空部隊を指差した。
「魔獣使いなら、翼を持つ子は絶対にテイムすべきですよ。ファルコやネージュのような猛禽類をテイム出来れば戦力も上がりますから、なお良しですね」
それに、あの暴力テイマー達に彼女が魔獣使いになった事を示す為にも、出来ればスライムを抜いても五匹以上の従魔がいるようにしてあげたい。
もちろん俺的にはスライムも立派な従魔だと思っているけど、人の従魔であるスライムですら踏み潰そうとしたあいつらなら、今のレニスさんを魔獣使いとは認めない可能性もあるからな。
「確かに、鳥の従魔は絶対にテイムすべきですよ!」
拳を握って力説するムジカ君。鳥と聞いて黙っていられなかったみたいだ。
「ああ、確かに鳥の従魔は絶対に一羽以上テイムしておくべきだね。巨大化した鳥の背に乗れば、遠距離移動もあっという間だし、郊外で空から警戒してくれると一気に安全度も上がるからね」
頷いたリナさんの説明に、レニスさんが驚いたように目を見開く。
「ええ、鳥に乗って空を移動するんですか? それって……危なくないですか?」
割と本気で怖がっているらしい彼女に、満面の笑みになったシェルタン君が、自分の右肩に留まっていたオオワシのアセロをそっと撫でた。
「なあ、見せてやってくれるか?」
その言葉に羽ばたいて少し離れた地面に降りたアセロが一気に巨大化する。
「うわあ、凄いですね。でも、その、やっぱり怖いです……」
戸惑うレニスさんに、横で見ていた俺はにっこりと笑ってスライム達を見せた。
「だから、こんな時のスライムですよ。ほら、こうすれば絶対安全ですよ」
巨大化したアセロの上に飛び乗ったシェルタン君が、得意そうにそう言ってアセロの首元に跨る。跳ね飛んできた彼のスライム達が一瞬で彼の下半身をしっかりとホールドする。
もちろん、彼はまだ実際には一度もアセロに乗って空を飛んだ事はないが、一応俺達が一通りの説明はしてあげているし、ちなみにムジカ君は、今までも短距離限定だけど鳥達の背に乗って移動した事が何度かあったらしい。
ただ、その時はスライムをテイムしていなかったのでめっちゃ怖くて、飛ぶ際には地上スレスレを飛んでもらって、あまり高く飛ばないようにしていたんだとか。
「では少しだけ飛びますね」
スライム達に下半身をしっかりとホールドしてもらったシェルタン君を乗せたアセロは、嬉しそうにそう言って大きく羽ばたき、ふわりと浮き上がる。
そのまま力強く羽ばたいて一気に空へと飛んでいった。
「うひゃあ! 気持ち良い!」
「ああずるい! 俺も行く〜〜!」
そう言って、オオワシのジュジュ改めジャムに飛び乗ったムジカ君。当然のように彼のスライム達が即座に下半身をしっかりとホールドする。
「では行きますね」
これまた嬉しそうにそう言ったジャムが大きく羽ばたき、頭上を旋回するシェルタン君を追いかけて飛んでいく。
目を輝かせてそんな二人を見るレニスさん。
「ほら、せっかくなので体験してみてください」
巨大化したモモイロインコのローザが舞い降りてきてくれたので、笑った俺がそう言ってローザを示すと、レニスさんが驚いたように俺を見てからローザを見た。
「良いわよ。どうぞ」
頬をぷっくらさせたローザの言葉を通訳してやると、レニスさんは嬉しそうにローザに駆け寄って行き、そっと大きな頭を撫でた。
「あの、じゃあ少しだけ乗せてもらいます。ええと、よろしく、です」
やや緊張しつつ、伏せてくれたローザの背中に何とか這い上がる彼女を追って、スライムの四号と五号が勢いよく跳ね飛んでローザの背中に飛び上がる。
そして即座に合体した二匹が彼女の下半身をしっかりとホールドして見せた。
足元にいたアクア達が一斉にドヤ顔になったので、ああいった事も一通り教えてくれていたのだろう。
「大丈夫ですから、飛んでくださ〜い!」
四号と五号の得意そうな言葉を聞いて、ローザが大きく羽ばたいて上空へ舞い上がっていく。
甲高い悲鳴と共に舞い上がっていった彼女だったが、すぐに笑い声が聞こえてきて、俺達は顔を見合わせて揃ってサムズアップをしたのだった。
よし、じゃあまずは彼女の為の鳥探しだな。さて何にするかね?