虎とジャガーのテイムだ!
「ひええ〜〜辞退してよかった」
「だよな。あんなの絶対無理だって!」
慌てたような新人コンビの叫びが聞こえて俺はちょっと笑った。
でもまあ、確かにそう言いたくなるのも分かる。
まず、林から転がり出てきた塊は、聞いていたようにジャガーが三頭とタイガーが一頭の四つ巴の戦いの真っ最中で、一応ジャガー達が連携しながらタイガーを相手にほぼ互角の戦いを繰り広げていたのだ。
だけど、当然ながら一瞬の隙をついてニニ達猫族軍団が横から乱入して、まずタイガーを引き離した。
こちらはティグとセーブルが二人がかりで相手をしてあっという間に確保して、その直後に従魔達の中でも一大勢力となったサーバル達とジャガー達の見事な連携で、三頭のジャガーもあっという間に確保されたのだった。
ティグとセーブルが左右から噛み付いて取り押さえたタイガーは、やや白っぽい黄色に黒の虎柄で、長い尻尾の先だけがちょっと緑色の毛になっている。
「あれがグリーングラスタイガーだ。久し振りに見たな」
「確かに久しぶりに見たな。相変わらず美しいな」
ハスフェルとギイが嬉しそうに頷きながらそんな事を言って笑っている。
確かに、ティグとはまた違った美しさがある。虎って猫族の中でもなんというか存在感が半端ないよ。
「どうです? 出来ますか?」
ティグとセーブルに確保されたグリーングラスタイガーを見て、さっきから無言になっているボルヴィスさんのところへマックスを近付けて、そう尋ねてみる。
「あ、ああ、ちょっと予想以上の大きさに驚きましたが、大丈夫ですよ。では、やってみます」
俺の声に我に返ったように何度か瞬きをしたボルヴィスさんは、苦笑いしてゆっくりとセラスの背中から降りた。
そして一つ深呼吸をしてから、腰に装備している石付きの短剣をゆっくりと抜いた。
「風よ吹け!」
大声でそう言い、以前サーバルをテイムした時にやったように、短剣を下から上へと大きく振り上げる。
直後に轟音が響き、文字通り局地的暴風がグリーングラスタイガーを襲った。
ティグとセーブルが二匹がかりで必死になって取り押さえているが、当のグリーングラスタイガーはもう風に揉みくちゃにされて息も絶え絶えな有様だ。
それなのに、ティグとセーブルには全くと言っていいほど影響がない。若干ティグの首元の毛が風に浮き上がって揺れている程度。
通常ならば有り得ないその局地的暴風は、グリーングラスタイガーが降参の悲鳴を上げるまで続いたのだった。
そして、完全に無抵抗になったグリーングラスタイガーをボルヴィスさんは簡単にテイムしたのだった。
いやあ、お見事。
ボルヴィスさんは、テイムしたその子にローランって名前をつけた。なんでも昔の英雄の名前なんだとか。
「どうする? ジャガーは三頭いるけど、三人でテイムするかい?」
ボルヴィスさんがローランをご機嫌で撫でさすっているのを見て、笑ったリナさんがアーケル君にそう尋ねた。
一応、アルクスさんはジャガー希望とは言っていたが、後の二人の第一希望はタイガーだったので二人でじゃんけん対決をして順番を決めたんだよ。
なので一応、ジャガー二頭が余った状態だ。
「やる!」
目を輝かせたアーケル君がそう言い、ボルヴィスさんが驚いて顔を上げる。
「どうしますか? もちろんご希望なら私は辞退しますよ」
リナさんの笑った声に、ボルヴィスさんは笑顔で立ち上がった。
「では、希望してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。では私は次があれば立候補しますね」
笑顔で頷いたリナさんが下がるのを見て、大きく頷いたボルヴィスさんが従魔達に取り押さえられているジャガー達を振り返った。
「じゃあ、アルクスが先に選んでくれ。アーケルがその次。俺は残りの子をもらうよ」
顔を見合わせたアルクスさんとアーケル君が頷き合い、それぞれの従魔から降りる。
「では、俺はこの子を」
アルクスさんは、自分の従魔であるサーバルのベッルスが他の従魔と協力して押さえ込んでいるジャガーを見た。
やや大きめのそのジャガーは、近寄ってきたアルクスさんを見て低い声で唸り始めた。
「おやおや、ずいぶんと抗戦的だな」
苦笑いしてそういったアルクスさんは、前回も使った大きな刺股を手にした。
「だが、押さえ込む前に!」
大きな声でそう言い、刺股の上下をひっくり返して持ったアルクスさんは、刺股の柄の方でジャガーの頭を横からぶん殴った。
「ウギャッ!」
悲鳴のようなジャガーの声の直後、一気にひっくり返して持ち直した刺股でジャガーの首をガッチリと押さえ込み、そのまま右手で大きなジャガーの頭を力一杯押さえつけた。ついでに体もジャガーの体に押し付けて文字通り全身で頭を押さえつけたのだ。
「俺の仲間になれ!」
力のこもった強い声が響く。
しばしの沈黙の後、目を閉じたジャガーが低く喉を鳴らし始めた。
「はい、貴方に従います」
低い声は、どうやら雄のようだ。
「お前の名前はテルム。よろしくな」
立ち上がったアルクスさんがそう言って刺股を抜いて収納袋に入れる。
座り直したテルムの大きな額を撫でてやる。
「俺はまだ紋章が無いんだ。もうちょっとだけ待ってくれるか」
「そうなんですね。では紋章を刻んでくださるのを待っています」
目を細めたテルムがそう言って大きく喉を鳴らしながらアルクスさんに頬擦りした。
嬉しそうに笑ったアルクスさんがテルムを抱きしめるのを、俺達は笑顔で拍手をしながら見守っていたのだった。
そして笑顔で進み出てきたアーケル君は、二頭のうちの若干体の大きな方の子を選び、あのとんでもない過剰重力の術で、あっという間に確保してテイムしてしまった。
もう、アーケル君は魔獣使いとしても相当強いと思うぞ。
名前はシャルワ。可愛い声だったからこの子も雌みたいだ。
最後の子は、またあの境地的暴風でボルヴィスさんが簡単にテイムしてしまった。
名前はアスピス。この子は雄だったみたいだ。
「いやあ、もうどんな相手でも余裕で対応出来るくらいに各自の戦力が充実したな、いやあ凄い!」
笑った俺の言葉に、皆嬉しそうに笑って拍手をする。
『じゃあ最後のタイガーを、ちょっと痛めつけてからお届けしますね。かなり大きいですので、頑張ってください。まあ、あの過剰重力の術があれば余裕でしょうけれどね』
その時、頭の中に笑ったベリーからの念話が届き、俺だけでなくハスフェル達も揃って吹き出しそうになって必死になって誤魔化していたのだった。
そうか、もう一頭虎がいたのを忘れていたよ。