次のテイム準備!
「あらあら、ベリー達が頑張ってくれたみたいね。じゃあちょっとお手伝いに行ってきま〜〜す!」
「はあい!」
「行こう行こう!」
笑ったニニのやる気満々な声に、退屈そうにしていた猫族軍団が張り切って応えて一気に駆け出して行った。
レニスさんに抱きしめられてご機嫌で喉を鳴らしていた六号は、それを見て一瞬慌てたみたいだったけど、まあいいかって感じに目を細めてまたレニスさんに力一杯頬擦りした。
「ええと、また何か見つけたらしいですよ。何が来るか楽しみですね」
突然の従魔達の様子を呆然と見送っていた皆に、従魔達の言葉の分かる俺がまとめて状況を説明してやる。
それを聞いて顔を上げて笑ったレニスさんは、手を離して新しく従魔になったサーバルの六号をそっと撫でた。
「猫族の先輩達は皆行っちゃったけど、お前は行かなくてもいいの?」
「ええと……」
苦笑いしたレニスさんにそう聞かれて困ったように俺を見る六号。
俺が笑顔で頷いてやると、目を輝かせた六号はもう一度レニスさんに頬擦りした。
「では、私もお手伝いしてきますね!」
そう言って走り去る六号の言葉を通訳してやると、レニスさんも笑顔で頷き急いで一号の背中に飛び乗った。
そうそう。従魔の背の上にいると安全度は桁違いだからな。いくら犬族の子達が守ってくれているとはいっても、自衛は必要だから待機中は従魔に乗って待ちましょう。
なんとなく無言のまま全員がじっと待っていると、何やら遠くの方で鳴き交わすような声が何度か聞こえてきた。
そして、多分ティグの声と思われる大きな咆哮もその直後に数回続けて聞こえた。
「おやおや、ちょっと手こずっているみたいですね。応援に行ってきますので、ご主人達の警備についてはお願いしますね!」
巨大化して俺のすぐ横にいたセーブルが、何やらクンクンと周囲の匂いを嗅いだ後にそう言って一気に駆け出していった。
それを見送った犬族軍団の面々が、まるで応えるようにマックスやシリウスをはじめ一斉にワンと吠える。
「おお、今のはちょっと全員揃って犬っぽかったぞ」
笑ってそう言いマックスの首元を撫でてやり、一つ深呼吸をした俺も背筋を伸ばして周囲を見回した。
一応、ジャガーやタイガーをご希望の人達が複数いるみたいなので、今回は余程の大物が来ない限りは俺はテイムしないつもりだ。
まあ、またセーブルやヤミーみたいな子がいれば別だけどさ。
そのまま無言で待っていると、今度はすぐ近くの林の中からまたティグの咆哮が聞こえた。そして、ティグと同じくらいの大きな別の聞きなれない咆哮と唸り声も聞こえて思わず身構える。
「おいおい、あいつらが手こずるって、どれだけデカいのを見つけたんだよ」
思わずそう呟くと、上空にいたファルコが羽ばたく音と共に舞い降りてきて俺の左肩の定位置に留まった。
「ジャガーを三頭まとめて追い込んでいたところに、タイガーが乱入してきたみたいですね。四つ巴の戦いになっていますから、ニニ達はそれを取り囲んでこっちに誘導してきているところです。ちょっと手間取っているのは、ジャガー達が意外に健闘しているからですよ」
「おお、これまた大変な事になってるんだな」
ファルコが教えてくれた状況報告を聞いて、思わず感心したようにそう呟く。
それから、こっちを見ている皆に向かって俺も状況報告をしたよ。
「ファルコの報告によると、ジャガーが三頭とタイガーが一頭いるらしい。まとめて追い込んでくれている最中みたいだから、多分もうしばらくしたら来ると思うぞ。誰がどの子をテイムするのか、希望者は相談しておいてくださいね〜〜。ちなみに俺は、今回は辞退します。まあ、もしも皆さんの手に余るような大きいのが来たら責任を持って引き受けますけどね」
俺の説明を聞いて、笑って頷いているのがハスフェル達。
そしてジャガーとタイガーと聞いて歓喜の叫びを上げたのが、アーケル君とボルヴィスさんとアルクスさんの三人だ。
逆に新人コンビとレニスさんは、揃って戸惑うように顔を見合わせてから首を振った。
「あの、俺達は今回は辞退します」
「仮に従魔達が押さえてくれたとしても、さすがにジャガーやタイガーを相手にする自信はまだ無いです」
そう言って顔の前で手を振る新人コンビの横で、同じように首がもげそうな勢いで首を振っているレニスさん。
まあ、そう思うのなら無理はしないほうがいいよな。
「じゃあ、私も参加しようかな。アーケルやお二人が選んだ残りの子をテイムさせてもらいますね。もしもジャガーとタイガーの両方を誰かがテイムしたいのなら、もちろん辞退しますよ」
苦笑いしつつ手を上げたのはリナさんだ。
まあ、彼女なら仮に虎が残ったとしても余裕でテイム出来るだろう。
「俺はタイガーが欲しいけど……来た子達を見て考えます!」
「ううん、俺もタイガーが欲しかったんだが、アーケルが欲しいならまたにしようかな」
苦笑いしながらそう言ったのはボルヴィスさんだ。
「俺はジャガーが欲しいので、タイガーは辞退します。二人で相談してください」
そう言ってアルクスさんが笑って首を振る。
「どうする?」
それを聞いて、アーケル君とボルヴィスさんがそれぞれの騎獣を寄せて相談を始めた。
しばしの話し合いの後、少し離れた二人はなんとすごい勢いで力の入ったジャンケンを始めた。
ちなみに、こっちの世界では最初はグーの掛け声は無くて、そのまませーのーで! の掛け声と共に開始だ。
グーチョキパーなのは一緒。分かりやすくてよろしい。
「よっしゃ勝った!」
「うわあ、負けた〜〜〜〜!」
ボルヴィスさんが勝利の雄叫びをあげ、負けたアーケル君が情けない悲鳴をあげて顔を覆う。
「あはは、じゃあ最初がボルヴィスさんで、次がいればアーケル君だな。
一応虎ならあと一頭確保してくれているのが分かっている俺がそう言うと、分かりやすくアーケル君が復活した。
「そうですよね! ここは従魔達を信じて待ちます! もう一頭タイガーよ来い!」
祈るかのように手を合わせるアーケル君。
『じゃあ、今回のが終われば残りの一頭も追い込んで差し上げますね。ちなみに、後の方が大きいですよ』
笑ったベリーの念話が届いて驚く。待って、ベリーにはこっちの状況が見えてるのか?
『ああ、オンハルトが持つ例の遠くを見る術ですよ。一応、そちらの状況を確認しながら追い込んでいますからね』
俺の驚きが伝わったらしく、笑ったベリーが教えてくれる。
『ああ、成る程。じゃあよろしく頼むよ』
一応念話で返すと笑った後に気配が途切れた。
どんどん鳴き声が近くなってくる。一気に緊張感が高まった俺達は、ガサガサと音をたてはじめた林の木々を無言で見つめていたのだった。