猫科の猛獣達
「はあ、ごちそうさま。じゃあ、遅くなっちゃったけど午後からはレニスさんの為の従魔探しだな」
残りのおにぎりを飲み込んだ俺の言葉に、まだまだ山盛りに取った豚カツを食べていたハスフェル達も笑顔で頷く。
「そうだな。まずは言っていたようにサーバルを従魔達に探してもらうか。もし見つからなければ、他に何か……この辺りなら、一応グリーングラスジャガーとグリーングラスタイガーもいるはずなんだが、出現数はサーバルよりさらに低いからなあ」
「確かに、しかも例の地脈が回復して以降にジャガーやタイガーを見たって話をほぼ聞かないから、下手をしたら出現口そのものが消えている可能性もあるぞ」
「ああ、確かに。じゃあ、そっちはまた暇な時に確認しておくか」
「だな。とりあえずサーバルがいる事は確認済みなんだから、まずはそっちを探すのが先だな」
苦笑いするハスフェルとギイの会話を聞いて、ジェムモンスターの出現する場所は閉じたり開いたりするんだって話を思い出した俺だったよ。
「おお、ジャガーにタイガーか。普通なら出会った瞬間に冒険者人生終わるけど、今なら頑張ればテイム出来ますかね?」
「確かに、従魔達の協力があれば、何とかなり……ます、かね?」
ジャガーにタイガーと聞いて、顔を寄せて相談を始める上位冒険者であるボルヴィスさんとアルクスさん。アーケル君も、それを聞いて目を輝かせて話に加わった。
逆に、ジャガーにタイガーと聞いて思いっきりどん引いているのが新人コンビとレニスさんだ。
「いや、いくら従魔達が確保してくれたとしても……」
「だよな。ジャガーやタイガーなんて俺には絶対無理だと思う」
真っ青な顔になったムジカ君とシェルタン君の呟きに、こちらも真っ青になったレニスさんが言葉もなくコクコクと頷いている。
まあ、確かに強い従魔を彼らにテイムさせてやりたいけど、ものには限度があるよ。自分で無理だと思うならやめた方がいいよな。
『では、周辺にいくつか反応がありますのでまずはサーバルを見つけて追い込んで差し上げましょう』
『任せて〜〜良さそうなのを見繕ってあげるからね!』
『ジャガーとタイガーは、その後ですね』
唐突に頭の中にやる気満々なベリーとフランマの声が聞こえて、俺は吹き出しそうになって慌てて横を向いて咳き込んで誤魔化したよ。
「だ、大丈夫ですか?」
唐突に咽せたみたいに咳き込んだ俺を見て、近くにいたランドルさんが慌てたように背中をさすってくれた。
「あはは、すみません。ちょっと咽せたみたいで」
お礼を言って、誤魔化すように麦茶を飲み干した俺だったよ。
って事で、とりあえずこの場は撤収して、水場と即席小川も元に戻してからサーバルの捜索に向かう。
心得た猫族軍団がいつものように走り去り、犬族軍団とお空部隊が残って俺達の警護についてくれる。
サーバルをテイムしたいつもの場所で待機した俺達は、それぞれの従魔に乗ったまま時折周囲を見回しながら大人しく待っていたのだった。
『良さそうなサーバルを見つけたので、とりあえず一頭だけ少々痛めつけてから追い込みますね』
『おう、了解だ。よろしく頼むよ』
しばらくしてベリーからの念話が聞こえて、慌てて返事をする。
レニスさんは、一号の背の上に乗って背筋を伸ばしてはいるが、やや緊張しているらしく無言のまま林の方を見ている。
彼女の横には新人コンビが並んでいるけど、特に彼らも話をするわけでなく同じようにやや緊張気味に林の方を見ている。
その時、ティグの大きな咆哮が聞こえて一気に緊張が高まる。
「これ、何か見つけた合図ですよね。サーバルかな?」
ちょとワクワクしながらのシェルタン君の呟きに、レニスさんの緊張が一気に高まる。
「大丈夫ですよ。絶対にテイムしてやる! くらいの心意気で挑んでください。何かあれば俺達も手伝いますから」
笑ったシェルタン君の声に、レニスさんが無言で頷く。
その後またしばらくの沈黙があり、もう一度大きな咆哮が聞こえた直後に彼らが見ていたのとは反対側の林から塊が転がり出てきた。
面白いくらいに三人がほぼ同時に飛び上がる。
「うわっ! あっちから来た!」
慌てたシェルタン君がピッピの向きを変えた直後、レニスさんを乗せた一号が一気に駆け出して飛び出てきた猫族軍団のところへ向かった。
慌てて新人コンビもその後を追う。
俺達は、少し近寄りはしたもののとりあえずは様子見だ。もちろん、何かあった時には即座に駆けつけられる距離だよ。
巨大化したティグとマロン、それからヤミーの三匹がかりで押さえ込まれたそのサーバルは、最大クラスほどではないがサーバルとしてはかなりの大きさだ。
「おお、かなりデカいけど大丈夫かな?」
若干心配になったが、サーバルの横で一号から飛び降りたレニスさんは、ぐっと拳を握りしめて一つ大きく深呼吸をした。
しかし、押さえ込まれたサーバルはグルグルと大きな唸り声を上げてレニスさんを睨みつけている。
体は押さえ込まれてはいるが、まだ完全な確保ではないみたいだ。あれなら喉を鳴らす例の方法は効かないっぽい。
そのまま無言でサーバルと睨み合っていたレニスさんは、いきなり動いてサーバルの頭に両手を当て、そのまま全身の体重をかけて押さえつけた。
それを見て、首筋に噛みついていたティグがさらに力を加える。
「私の従魔になれ!」
やや低めの、しかししっかりと力のこもった声でそう言い、さらに押さえる力を加えるレニスさん。
しかしサーバルからの答えは無く、頭を押さえつけたまま無言の間が続く。
見ている俺達の方まで緊張して息が止まりそうだ。
「もう一度言うぞ! 私の、従魔に、なれ!」
歯を食いしばっていたレニスさんの口から、力のこもった声が再び聞こえる。
「分かりました。貴女に従います」
目を閉じたサーバルが、はっきりとそう答える。
ティグ達がゆっくりと離れると、起き上がったサーバルはピカッと光ってググッと大きくなった。
「おお、これは亜種の雌だな。素晴らしい」
ハスフェルの感心したような呟きが聞こえ、俺達も笑顔で何度も頷く。
「お前の名前は六、六号って呼ぶね。どうか、よろしく……私の、私の従魔になってくれて、ありがとう、ね……」
一気に目を潤ませたレニスさんがそう言い、そのまま腕を伸ばして六号にしがみつくように抱きついた。
「はい、名前をもらえて嬉しいです。私の方こそ、よろしくお願いします」
とろけるような甘い声でそう答えた六号は、大きく喉を鳴らしながら自分にしがみついているレニスさんに頬擦りした。
その様子を見て、完全に見学者状態だった俺達は揃って大きく拍手をしたのだった。
『無事にテイム出来たようですね。おめでとうございます。ところで一応、あとジャガーが三頭とタイガーを二頭の存在を確認していますが、どうします?』
突然聞こえたベリーの念話に、俺だけでなくハスフェルとギイとオンハルトの爺さんまで揃って吹き出してしまい、何事かと皆を驚かせる羽目になったのだった。
で、誰がどれをテイムするんだ?