大事な話とおやすみなさい
「じゃあ、飲みながらでいいのでちょっと真面目な話をしましょうか」
のんびりとビールを飲んでいた俺は、大事な事をまだ彼女に話していなかったのを思い出して、グラスを置いてレニスさんにそう言って座り直した。
「はい、なんでしょうか?」
不思議そうにしつつも、レニスさんも慌ててグラスを置いて座り直してくれた。
それを見て、皆もグラスを置いて真顔になる。
「ええと、まず最初にテイマーや魔獣使いとして最低限知っておいて欲しい事を話しますね。もしかしたら知っている事があるかもしれませんが、一応一通り説明させてもらいます」
「はい、よろしくお願いします」
真顔でそう言ってくれた彼女に頷き、俺はいつも通りの説明を始めた。
まずは一日のテイム数には上限がある事や、万一にも主人に捨てられた従魔が、どれほど悲惨な終わり方を迎えるかを話して聞かせた。
無言で聞いていた彼女はテーブルの上にいたスライム達を抱きしめ、泣きそうな顔になっていたよ。
そしてセーブルとヤミーの話をしてやると、もう彼女は我慢しきれなくなったらしく、途中からはポロポロと涙を流しながら聞いてくれた。
そして、それだけでなくリナさんが自分の過去の一件を詳しく話してくれて、もしも誰かに従魔を売ってくれと言われたとしても、軽率には売らないように言ってくれた。
リナさんの話を聞きながら、もう彼女はずっと泣いていたのだった。
「辛い事を話してくださりありがとうございます。私、恥ずかしいです……いくら無知とはいえ、そんなにも一途な従魔達に、あんな酷い事をしていたなんて……ごめんね」
そう言いながら、一号から順番にしっかりと従魔達を抱きしめていたレニスさんは、大きなため息を一つ吐いてから俺を見た。
「あの、それからもう一つ、教えて欲しい事があるんですが……」
「ああ、良いですよ。俺に分かる事ならなんでも教えますよ?」
言い淀む彼女を見て、出来るだけ何でもない事のようにそう言ってやる。
「あの、今更なんですが、従魔達への、日々のお世話の仕方を、その、教えていただければ……」
「ああ、そうか。そっちも教えないといけませんでしたね」
出来るだけ軽くそう言って頷いた俺は、まずは一番大事な、従魔達の食事について説明を始めた。
ジェムモンスターも魔獣も、草食と肉食、それから雑食の子達がいる事。次に彼女がテイムしているそれぞれの従魔達の、具体的な食べ物やそれぞれの食事の与え方。一日に最低限必要な食事の量についても実際の従魔達に話を聞きながら、時にそれを通訳したりもしながら詳しく話して聞かせた。
俺の話をそれはそれは真剣に聞いていた彼女は、小さな手帳とペンを取り出して必死になってメモを取っていたよ。
それから、日々のお世話としては、毛のある子達にはブラシしてあげるのが必要な事や、スライムは火との相性が最悪なので、絶対に近づけないようにする事などを順番に説明した。
「まあ、とは言っても基本的な食事はある程度は自分達で取ってくれます。でも、街の宿泊所に長く滞在する時なんかは、出来れば数日おきに外へ連れ出して走らせてあげたり狩りに連れて行ってあげてください。大丈夫だと言っていますが、ずっと街の中にいるのは、やはり従魔達には心身ともにかなり窮屈らしいですからね」
「分かりました。気をつけます」
メモを取りながら、何度もうんうんと頷く。
「魔獣使いになれば、言葉での意思疎通が可能になりますからね。そうなったら、従魔達に話を聞いて必要な時に郊外での狩りに連れて行ってあげればいいですよ。草食や雑食の子達なら、街で野菜や果物を手に入れて食べさせてあげたり、肉食の子達でも、ある程度までなら生の鶏肉や牛肉なんかを食べさせてあげれば大丈夫ですよ。まあずっと従魔達の食事を買っていたら、お金がいくらあっても足りませんけどね。あ、従魔達にあげる食事は、塩なんかの味付けはしないでくださいね。従魔達の食事は、味付けは無しです」
「分かりました。頑張ってお世話します」
真剣なその答えに、俺だけでなく皆も笑顔になったのだった。
本当に心を入れ替えてくれたみたいで、良かったよ。
「話はこれくらいですね。さて、それじゃあ今日はもう解散かな。そろそろ眠くなってきたよ」
残っていたちょっと温くなったビールをぐいっと一息に飲み干し、若干わざとらしく欠伸をしながらそう言うと、笑ったハスフェル達が揃って立ち上がった。
「そうだな。じゃあ明日はまずはサーバルを探してテイムに挑戦だな。上手くいけば、そのあとは他にもテイム出来そうなのが何かいないか探してみるか」
「まあ、サーバルはリンクス程ではないがテリトリーがかなり広いから、見つかるかどうかはほぼ運任せだ。最悪、他に何かいないか探してみよう」
ハスフェルの言葉にギイもそう言って頷き、顔を寄せて何やら相談を始めた。
「まあ、それは明日の状況次第だな。では、そろそろ我らもテントへ戻らせてもらうよ。今日も美味しかったよ。ご馳走さん」
笑ったオンハルトの爺さんがそう言い、ハスフェルとギイの背中を叩く。
「そうだな。じゃあ我らは休ませてもらうよ。また明日な」
「おやすみ」
苦笑いして頷いた二人は、そう言ってそれぞれのテントへ戻って行った。
それを見て、リナさん一家やランドルさん達もおやすみを言ってそれぞれのテントへ戻って行った。
「じゃあ、俺達も休ませていただきます。おやすみなさい」
新人コンビの言葉に、レニスさんも笑顔で立ち上がる。
「美味しい食事と楽しい時間を、ありがとうございました。それにとても勉強になりました。それでは、私も休みます」
笑顔でそう言った彼女は、待ち構えていた従魔達と一緒に借りたテントに入って行った。
なんとなく、まだテントに入っていなかった新人コンビと一緒にその後ろ姿を見送る。
しばらくして、テントの中から彼女の嬉しそうな悲鳴と笑い声が聞こえてきて、俺達は顔を見合わせて無言でサムズアップを交わしたのだった。
そうだよな。従魔達と一緒に寝る幸せを、彼女にも存分に楽しんでもらわないとな。