まずはスライムのテイムから!
「ここがスライムの巣がある場所ですよ」
なんだかもう通いなれた感のあるいつものスライムがいる茂みを見て、俺がレニスさんにそう教える。
今は全員騎獣から降りて地面に立っている。まあ、スライム相手ならほぼ危険はないからね。
ちなみに、従魔達は全員やる気満々で俺達を取り囲むみたいにして待機している。
まあ、ここの巣はノーマル以外は黄色しか出ないはずだから、今回は彼女だけで俺達はテイムしないよ。
「確かに、いかにもスライムのいそうな茂みですね。あの、スライムをテイムする時はどうやって確保するんですか。迂闊に掴むと、へばりつかれて危ないですよね?」
俺を見たレニスさんが、困ったようにそう言ってからスライムの巣のある茂みを振り返る。
「ええと、俺はいつも剣の横面でこんな風にして吹っ飛ばしてから捕まえていますよ」
そう言って、剣を抜いて剣の横面を指差してからごく軽くバットを振るみたいにして剣を振って見せる。
「成る程。それなら確かになんとかなりそうですね。では、一度やってみます」
その説明にそれはそれは真剣な様子で頷いた彼女を見て、俺は地面からピンポン玉サイズの石を一つ引き寄せて持った。
「じゃあ、茂みに石を投げます。すごい数が飛び出してきますので、飛び出してきたところでお好きなのを叩いてくださいね。あ、やる?」
小石を握りしめたシェルタン君が、俺の小石を見てちょっと残念そうにしているのに気が付いてしまった俺は、苦笑いして投手役を交代した。
「じゃあ、いきますね!」
頷く彼女を見て、シェルタン君は得意そうにそう言って手にした小石を思いっきり茂みに向かって投げつけた。
一瞬静まり返った後、爆発するみたいにスライムが一斉に茂みから跳ね飛んできた。
「キャ〜!」
妙に可愛らしい悲鳴をあげたレニスさんは、それでも抜いた剣で自分に向かって跳ね飛んできた透明なスライムを力一杯叩いた。その短剣に小さいながらも青い宝石がはまっているのを見て、もしかして彼女も何かの術を使えるのかと思った俺だったよ。
「ご主人、はいどうぞ!」
意外によく飛んだスライムを、トカゲの三号がイグアナサイズになってすごい勢いで走って行き、本当にすぐに戻ってきた。
口には妙に平たくなったスライムを咥えていて、彼女の足元にスライムを置いてドヤ顔でそう言った。
「あ、ああ……じゃあ、テイムするね」
ちょっと驚いたみたいにそう言った彼女は、足元に伸びたスライムを右手でぐっと握って持ち上げた。
「わ、私の仲間になれ!」
しばしスライムと見つめ合った彼女が宣言するかのように大きな声でそう言う。声にはしっかりと力がのっているのが分かった。大丈夫そうなので安心して見ていると、彼女の手の中のスライムがピカッと光った。
「はあい、よろしくです!」
透明のスライムは、可愛らしい声でそう言って彼女の右手に触手を一瞬だけ絡める。
「あ、ああ……あのね、まだ私は自分の紋章を持っていないんだ。もうちょっと待ってくれるか?」
一瞬驚いたように手を引きかけた彼女だったけど、スライムがすぐに触手をしまったので小さく笑ってそう言い、そっとスライムを撫でた。
「なんと言うか……これは独特の触り心地ですね。硬いのか柔らかいのかよくわからない……」
不思議そうに呟いて、何やら真剣な様子で悩む彼女。
「ほら、名前をつけてあげないと。待っていますよ」
だけどその前にまずは名付けだ。
「お前は……ねえケンさん! その……どう思います?」
何か言いかけて急に口ごもった彼女は、あえて何が、とは言わないが、戸惑うように俺にそう言ってきた。
今更ながらだけど、自分の名付けセンスが気になったらしい。
「従魔達は、ご主人がくれる名前は、何であれそのまま自分の名前として受け入れますよ。どうぞ貴女の思うままに」
一号から三号までを見てやると、三匹ともご機嫌で目を細めている。
「お前は四。四号って呼ばせてもらうね。ごめんね、センスのない名前で……」
小さくそう言って両手でスライムをゆっくりと揉む。
「わあい、名前もらった〜〜〜!」
嬉しそうにそう言ってまた触手を彼女の腕に伸ばす四号を見て、泣き笑いになった彼女だった。
「あの、もう一匹、ピンクの子もテイムしたいんですが、よろしいですか?」
クリアースライムの四号と見つめ合っていた彼女は、意を決したようにそう言って俺を見た。
「もちろん良いですよ。じゃあもう一回きましょうか」
笑顔で頷き、小石を拾いかけてシェルタン君を振り返ると、すでにその手には次の小石が握りしめられている。
「うん。じゃあ投げてくれるか」
「はい、じゃあいきますね!」
笑ってそう言ってやると、満面の笑みで頷いたシェルタン君はそう言って手にしていた小石を思いっきり茂みに向かって投げつけた。
当然、またしても爆発したみたいに一気に跳ね飛んで出てくるスライム達。
「ピンク見つけた!」
もう一回、そう叫んで抜いた剣の横っ腹でスライムを吹っ飛ばすレニスさん。
勢いよく吹っ飛んでいったスライムを、またしてもトカゲの三号がスルスルと走って行ってすぐに戻ってきた。
当然、口には伸びたピンクのスライムを咥えている。
「ああ、ごく、ろう、さま」
ギクシャクとそう言った彼女がそっと手を差し出し、三号から直接スライムを受け取った。
どうやらお礼を言ったり、労ったりするのはまだ慣れていないみたいだ。
微笑ましく思って見ていると、彼女は先ほどと同じようにスライムを捕まえて話しかけ、無事にテイムしたのだった。
もちろん、名前は五。呼び名は五号だ。
ピンクのスライムに向かって五号と呼び、嬉しそうに返事をする彼女とスライムを見て、まあそれも良いかと思う俺だったよ。