今後の予定?
「まあ、あいつらのチーム名を聞けば厨二病確定だよな。ううん、若いって恥ずかしい!」
若干脱線しそうな思考をそう考えて無理やり引っ張って戻す。
「でも、あいつらも従魔に暴力を振るっているんですよね?」
改めてそう尋ねると、レニスさんは困ったように眉を寄せた。
「暴力というか……彼らは躾と言っていましたが、命じた事をすぐにしなかったり、狩りの際に動きが悪かったりすると、遠慮なく殴ったり蹴ったりしていましたね。でも、普段は撫でたりもしていました。私はその……正直に言うと従魔達とどう向き合ったらいいのか分からなくて、ただ彼らの真似をしていたんです」
少し恥ずかしそうにそう話すレニスさんは、最初に会った時よりもかなり若く、というか幼く見える。
最初にマーサさんから貰った書類に彼女の年齢は書かれていなかったけど、もしかしてまだ十代だったりする?
「ま、まあ、わかってもらえたんですから、もういいですよ。今後はちゃんと考えて従魔達に向き合ってください。それにしても、躾ねえ……」
なんとも便利な言葉だ。だけど、それで暴力を認められるわけもない。
「祭りまでに、彼らと一度話がしたいんだけど、あの様子だと無理っぽいよなあ」
街で会った時の彼らのこっちに対する反感というか剥き出しの敵意を思い出して、割と本気で遠い目になった俺だったよ。
「これはもう、無理に会ってどうこうって言うよりは、早駆け祭り当日に実際のレースで勝って実力で叩きのめすしか、あいつらをやっつける方法はないかもしれないなあ」
「ああ、それがいいと思うぞ」
「ケンが無理にあいつらを理解しようとする必要はないさ」
思わずそう言った直後、ハスフェルとギイのマジな声に驚いて彼らを振り返ると、彼らだけでなく全員が真顔で俺を見ていた。
「そうだな。じゃあ、レースで勝って、俺達があいつらを躾けてやろうか!」
笑顔で頷いた俺の言葉に、真顔だった全員が揃って吹き出す。
「確かにそれが一番いい躾、だな」
「確かに。じゃあ、ここからは遠慮なく一位を目指させてもらうぞ」
「俺も全力で参加しますよ!」
「俺も俺も!」
ハスフェルとギイだけでなく、ランドルさんやアーケル君達までが笑顔で手を上げて参加表明をしている。
それどころか新人コンビやアルクスさん、ボルヴィスさんまでもが揃って笑顔で右手を挙げている。
レニスさんは、そんな俺達を驚きに目を見開いて言葉もなく見ていたのだった。
だけど、その両手がちゃんと従魔達を抱きしめているのを見て、心の底から安堵した俺だったよ。
「じゃあ、無事に頼まれていた新人教育も終わった事だし、ここは撤収して別荘へ移動するか」
一応、ここを借りているのは新人テイマーや新人魔獣使いを教える為だ。無事に終了したんだから、別荘へ戻るべきだよな。
なんと言っても、別荘には風呂があるんだからさ。
「じゃあ、俺達は宿泊所に戻りますね」
「お世話になりました。あの、ケンさんが出してくれた食事、どれも最高に美味しかったです」
「「本当に、ありがとうございました!」」
別荘へ戻ると言った俺の言葉を聞いて、当然のように新人コンビがそう言って頭を下げる。
アルクスさんも当然のようにそれに倣うのを見て、思わず無言になる俺。
『なあ、ちょっと相談なんだけど、新人コンビとアルクスさんも別荘に誘っても構わないよな?』
一応、トークルーム全開にして、ハスフェル達に相談する。
『ああ、お前が良いなら、俺達は構わないぞ』
『苦労してきた新人コンビに、貴族の生活を体験させてやるのも悪くないんじゃあないか?』
笑ったハスフェルとギイの言葉に、オンハルトの爺さんも笑顔で頷いている。
『それと、レニスさんはどう思う? 逆に、あのままあいつらのところへ帰して良いのか気になるんだけどなあ。最悪の場合、またあいつらに洗脳されて暴力を振るったりしないかな? 出来れば、それは止めてやりたいんだ』
お人好しこの上ないセリフなのは分かっている。
でも、あの暴力野郎達のところへ今の彼女を帰していいのかの判断が俺にはつかなかったのだ。
なのでここは、人生経験豊富な彼らに相談する事にしたよ。
『ああ、確かになあ……』
『あのまま彼女を奴らの所へ帰すのは、ちょっと考えものだなあ……』
恐らく俺と同じ心配をしているのだろう。彼らも困ったようにそう言ったきり考え込んでしまった。
『まずは本人の希望を聞いてみるのはどうだ? 先に新人コンビやアルクスを別荘に誘ってから、貴女はどうしますか? って感じで聞いてみればいい』
ギイの提案を聞いてそれもそうだと頷く。
「なあ、早駆け祭りまでの短い間だけど、一緒に別荘に来ないか? ここは滅多に出来ない貴族の生活を体験してみるつもりでさ。せっかくですからアルクスさんも一緒にどうぞ」
驚く三人を見て、俺は笑顔で大きく頷いて見せる。
「リナさん一家も、それからランドルさんとボルヴィスさんも今は別荘に来てもらっているんですよ。部屋はまだまだありますから、どうぞ遠慮なく」
笑った俺の言葉に、ランドルさんとボルヴィスさんがアルクスさんに何か耳打ちしている。
「成る程。では俺も、以前西方草原地帯へ行った際に収穫してきた薬草をそのままハスフェルに譲らせてもらおう。面白がって摘んだはいいが、実を言うと持て余していたのでな」
苦笑いしたアルクスさんが、そう言ってハスフェルのところへ行き、何やらドライハーブみたいなのをまとめて渡し始めた。
どうやら、あれも万能薬の材料になるものらしい。
「うええ、俺達そんないいもの持っていません!」
「お返し出来るものなんて、一つもありません!」
焦った新人コンビを見て、俺は笑って首を振った。
「言っただろう? 貴族の生活体験だと思えばいいって。それでも申し訳ないと思ってくれるなら、これから先、君達がもっと強くなって余裕が出来た時に、困っている新人達に返してくれればいいよ」
にっこり笑ってそう言うと、俺は戸惑うようにこっちを見ているレニスさんを振り返った。
「って事で、俺達はこのまま別荘へ行きますが、レニスさんはどうしますか? 一緒に来ますか?」
当然のようにそう尋ねた俺の言葉に。レニスさんは驚いて一号を抱きしめたまま固まってしまった。
まさか、自分が誘われるとは思っていなかったみたいだ。
無言のまま固まる彼女を見て、頷き合った俺達は、黙って彼女の答えを待ったのだった。