おはようとこの後の予定?
翌朝、いつものように従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、まだ眠い目を擦りつつ起き上がった。
見上げた天井は、まだ見慣れないいつもとは違う天井だ。
「ふああ、まだ眠いけどそろそろ起きるか」
今朝の最終モーニングコールを担当してくれたお空部隊の面々を順番におにぎりにしつつ、どうしても恐らく今日来るであろう例の暴力テイマーについて考えてしまう。
「ううん、気が重いけどやるしかないもんな。よろしく頼むよ」
元々、人と争う事をしない俺にしてみれば、自分に懐いている従魔に暴力を振るうなんて事自体があり得ない話だ。
何を考えたらそんな事が出来るのか、何度考えてもやっぱり分からないよ。
「まあ、自分の優位性を確認する為に暴力を振るうとか、単に反撃して来ないと分かっているから暴力を振るうのか……いずれにしても人として最低だよな。よし、遠慮は無用っと!」
ちょっと弱気になりかけたので、慌てて自分に言い聞かせるようにそう言って立ち上がる。
「とりあえず顔洗って身支度だな。一応、防具は身につけておくか」
自分に暴力を振るわれる事はないだろうけど、何があるか分からないので備えはしておく。
水場で顔を洗った後、いつものようにサクラに綺麗にしてもらってからスライム達を順番に水槽に投げ込んでやる。今日の投げ方は一番体に負担がないフリースローだ。
水遊び大好きなマックス達やお空部隊と場所を交代してベッド横に戻って、賑やかな水音を聞きつつ自分で収納している防具一式を取り出していく。
鎖帷子は身につけたまま寝ているので、服の上から胸当てをして籠手と脛当ても装備する。
剣帯を締めてヘラクレスオオカブトの剣を装備すれば準備完了だ。
「おはよう。今日もいいお天気だよ」
その時、俺の右肩にシャムエル様が現れてそう言って俺の頬を叩いた。
「おはよう。さて今日はどうなるかねえ」
お天気だからと言って、他の皆のようににこやかに郊外へ狩りに行けるとは思えないのでため息と共にそう呟くと、何故かシャムエル様に笑われたよ。
「残念だけど、今日は一日待機だよ。例の暴力テイマーが来るのは明日以降だからね」
尻尾のお手入れを始めたシャムエル様にそう言われて、思わず動きが止まる。
「あれ? そうなんだ?」
右肩に座ったシャムエル様を見ながらそう言うと、尻尾から顔を上げたシャムエル様は笑って頷いた。
「レースに参加する暴力野郎達と一緒に郊外へ狩りに出ていて、今日戻ってくるみたいだね。ちなみに、狩っていたのはピンクジャンパーとホーンラビット。それからケンが大好きな芋虫系辺り。狩りの様子もちょっと見たけど、人同士の連携はそれなりに取れていたけど正直言ってそれほど強いってわけでもなさそう。多分、剣の腕だけで言えば新人コンビよりは強いだろうけど、ケンより弱いくらいだと思うよ。まあ、ケンが彼らと戦えるかどうかは、この際別にしてね。それから、従魔達との連携は全然だね。っていうか完全に無視。従魔達の方は、ご主人を気にしつつ、危なくなりそうな時にはこっそり庇いつつ戦っていたね」
シャムエル様の説明を聞いて、ため息を吐く。
「まあそれなら、ちょうどいいから一日くらいは休憩させてもらおう。しかし、ハスフェル達みたいに特別強いわけでもなく、俺達ほどの魔獣使いとしての腕も無いのに、どうしてそこまで俺を敵視出来るんだ? 俺にはそっちの方が不思議だよ」
逆の立場なら、知らない間は俺の事をライバル視も敵視も出来ただろうけど、実際に会ってみれば俺が引き連れている従魔達の強さは間違いなく分かったと思うんだけど、それでもまだライバル視や敵視出来るんだろうか?
俺だったら、絶対に恥ずかしくてベッドに潜り込んで当分出て来られないくらいには凹みそうだよ。
「まあ、その辺りはなんと言うか……世間知らず的な部分はかなりあるみたいだねえ」
苦笑いするシャムエル様の言葉を聞いて、無言になる俺。
「確か、辺境で野良の冒険者をしていたって言っていたよな。それってつまり、世間の冒険者のレベルを知らず、自分が強いと思い込んでいる?」
「最初は間違いなくそうだっただろうね。だけど、最近はなんというか……意固地になっている部分は確実にありそうだね。ケンがここで新人さん達のお世話をしている間に、何度か向こうの様子を見てきたんだけど、彼らのお世話をしている取り巻きの人達も含めて、なんて言うか……きっちり、彼らに現実を突きつけようって人が皆無みたいなんだよ。とりあえずおだてて喜ばせておけ、みたいにさ。だから、さらに図にのってるって言うか、調子にのっているって言うか、まあそんな感じ」
困ったようなシャムエル様の言葉に、割と本気で気が遠くなった俺だったよ。
「じゃあ、今日……じゃあなくて明日以降に来る例の暴力女性テイマーも同じようなもの?」
「同じと言うか、輪をかけて自己中と言うか……まあ、この際だから女性だからとか言わずに、ケンは思いっきり攻めの姿勢で行けばいいと思うよ。ハスフェル達だけじゃあなく従魔達も張り切っているみたいだから、後方支援は任せなさい!」
何故かドヤ顔のシャムエル様の言葉に、俺はもう一回気が遠くなって遠い目になったのだった。
いやマジで、どう考えてもトラブルの予感しかしないんだけど!