ごちそうさまと彼らへのお願い
「ふああ。このキムチ鍋がめっちゃ美味しい!」
「俺は、こっちの豆乳鍋が気に入った!」
「ってか、本当にどれも美味しすぎる〜〜!」
「本当だよな。もう食べているだけで幸せだよ!」
もぐもぐとリスみたいに頬を膨らませたムジカ君とシェルタン君が、交互にそう言いながら鍋各種を順番に爆食中だ。
最初の頃は美味しいと喜びながらもちょっと遠慮がちだった彼らだけど、ようやく遠慮せずに食べてもらえるようになったみたいだ。
うん、いいから好きなだけ食べなさい。
もう保護者気分全開でそんな彼らを見つつ、俺ももちろんガッツリ食べているよ。
「はあ、それにしても岩豚って、本当にどこを食べても美味しいしか出てこないなあ。っよし、もうちょい食べよう!」
空になった携帯鍋を手にした俺は、少し考えてまずはちょうど追加が煮立ったばかりのキムチ鍋に向かったのだった。
そして今回机の上に乱立していた見なれない酒瓶の数々は、どうやらハスフェルとギイが、手持ちの中でもあまり飲まないややアルコール度数の低い飲みやすそうなお酒を、新人コンビの為に取り出していたみたいだ。
新人コンビは、食事の間は俺が出した麦茶を飲んでいたんだけど、一通り鍋を巡回してお腹がいっぱいになったあとはハスフェル達のところへ行って、お勧めされたお酒をちびりちびりと舐めるみたいにして飲んでは、これは美味しいとかこれは口に合わないとか真面目に感想を言ったりしていた。
成る程。最初はあんな風にアルコール度数の低い飲みやすいのから始めていくわけか。
新人はとりあえずビール飲んどけ! って感じだった新入社員の時の会社の宴会を思い出して、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
俺もガッツリ食べて大満足したあとは、まだ大はしゃぎして追加の鍋を撫で回している収めの手を眺めて和んだりしつつ、いつもの冷えた白ビールを楽しんでいたのだった。
はあ、冷えたビール美味〜〜。
「ところで、ちょっと真面目な話をしてもいいかな」
一通り飲んだ新人コンビもほとんど酔った様子はないし、他の皆も酔っ払っている様子はなさそうなので、俺はちょっと改まった口調でそう言って空になったビールのカップを置いた。
「どうしたんですか?」
「何か問題でも?」
話をしていたアルクスさんとボルヴィスさんが、心配そうにそう言って俺に向き直ってくれる。
新人コンビをはじめハスフェル達やリナさん一家、ランドルさんも即座に真顔でグラスを置いてくれた。
「ああ、そんな身構えなくていいって。残りの一人になった、例の暴力テイマーについてなんだけどさ」
俺の言葉に全員が、ああ、あれな。って感じの顔になる。
一応、街へ戻って来た時に、城門にいた兵士にマーサさんへの伝言をお願いしておいたんだよ。
無事に街へ戻りましたので、残りの一人を連れてきてくださいって。
なので多分、明日には問題の暴力テイマーがやってくると思われる。
「例の暴力テイマーだな。お前らも手伝ってくれるか?」
苦笑いしたハスフェルが、新人コンビとアルクスさんにそう言って笑う。
「もちろん、なんでもお手伝いします!」
「暴力野郎には、俺達も色々と思うところがあるので、是非お手伝いさせてください!」
新人コンビが真顔でそう言って、揃って拳を握る。
「ああ、例の暴力野郎の仲間ですね。噂は聞いていますが、確かにあれは駄目だ。もちろん俺も、なんでもお手伝いしますよ」
アルクスさんも、苦笑いしつつ協力を申し出てくれた。
「ありがとうございます。それで一応こっちとしてこんな対策を考えているんですよね。なので、皆の従魔達もお借りしてもいいですかね?」
にんまりと笑った俺が、以前考えていた暴力テイマーへの指導方法(?)の説明をすると、三人が揃って吹き出しその場は大爆笑になった。
「もちろん、全力でお手伝いさせていただきます!」
「俺も全力でお手伝いしますよ!」
揃って手を挙げる新人コンビの横で、アルクスさんは何度も頷きつつ大爆笑していたのだった。
って事で、無事に明日以降の予定が決まったところで、その場は解散となった。
俺は風呂に入りたかったので、自分用にしている部屋に従魔達を引き連れて戻った。
ここの部屋にある風呂は、いわゆる足湯兼サウナみたいなこっちの世界仕様の貴族向けなので、湯船は浅くほぼ寝湯状態だ。でも、寝転がればそれなりに湯に浸かる気分は味わえるので、一応これも風呂って事にしておく。
まずは、いつものように湯船に熱湯を入れてから大量の氷で温度を調節する。
準備が出来たところで、一旦部屋に戻り、着ていた防具と服を全部脱いでサクラに綺麗にしてもらってから改めて風呂場に入った俺は、かかり湯をしてから湯船に座った。
それから、大急ぎでいつものように色んな形の氷のボールを大量に作って洗い場に転がしてやる。
こうしておけば、スライム達が俺が湯船に浸かっている時は洗い場でサッカーをして遊ぶし、俺が体を洗っている時には湯船に入って水球状態で遊んでくれるからな。
俺の心と愚息の平安の為にも、この氷は絶対に忘れてはいけない重要アイテムなんだよ。
氷ボールを追いかけて大はしゃぎで遊び始めたスライム達を見て、笑った俺はそのままずるずると湯船に寝転がるようにして手足を伸ばす。
頭は湯船の縁にひっかけておけば、溺れる心配もないからな。
「ふああ〜〜気持ちいいぞ〜〜〜」
完全に脱力して欠伸をした俺は、そのままのんびりと久しぶりのお風呂を楽しんだのだった。
「さてと、最後の暴力テイマーの指導がどうなるかは……神のみぞ知る、だな。まあ、その神様はサウナを楽しんでる真っ最中みたいだけどさ」
小さく笑ってそう呟いた俺は、風呂場の風取り用の小さな窓に座って湯船から上がる蒸気を楽しんでいるシャムエル様を見て、小さく吹き出したのだった。