今夜は鍋パーティーだ!
「さてと、それじゃあ無事にジェムと素材の買い取りも、収納袋の身内販売も終わった事だし講習会場へ戻って夕食かな」
「ああ、そうだな。確かにそろそろ腹が減ってきたな」
俺の呟きに、笑ったハスフェルがそう言って頷く。
「ちょっと冷えてきたみたいだし、鍋なんてどうだ?」
笑ったギイの言葉を聞いた皆が、揃って目を輝かせる。
確かに日が暮れて少し気温が下がってきたみたいなので、鍋はいいかもしれない。
昨日はがっつり肉を焼いたから俺的には和食とかでもいいんだけど、それだと確実に俺以外の人は足りないだろう。鍋なら野菜もたくさん食べられるし、肉が食べたい人はがっつり肉も食えるからな。
「いいね、じゃあそうしよう。グラフィーさん、お忙しいところをありがとうございました」
ここのギルドの支部は貴族達からの依頼を受ける為に設置されている場所らしいから、基本的にジェムや素材の買い取り業務はやらないはずだ。
「いえ、久し振りにジェムや素材の査定だけでなく収納袋の査定まで出来て、私も楽しかったですよ」
俺の言葉に元冒険者っぽい口調でそう言って笑ったグラフィーさんは、俺の後ろにいるマックスを眩しいものでも見るみたいに目を細めて見上げて笑った。
「噂には聞いていましたが、間近で見て本当に感心しました。本当にとても美しい従魔達ですね。どの子の毛並みも素晴らしい。もし、従魔を手放す気があるならいつでも言ってください。信用出来るお方を紹介しますので」
ここだけは貴族っぽい口調で真顔になったグラフィーさんが、笑顔でそう言って俺を見る。
「あはは、従魔達を褒めていただきありがとうございます。でも、俺は金銭を介した従魔のやり取りは絶対にしないと決めていますので、そこは謹んでお断りします。俺が従魔を譲るのは、個人的に付き合って信用出来ると確信出来た人物だけです」
万一にも従魔の売買を持ちかけられたりしたら嫌なので、そこはキッパリと意思表明しておく。
「そうですか。それは残念です。失礼しました」
にっこりと笑ったグラフィーさんが一礼してそう言ってくれたので、その話はここで終わり。気分を変えるように俺も笑顔で改めてお礼を言ってから、全員揃ってギルドを後にしたのだった。
新人コンビは、講習会場のお屋敷に着くまで、手にした口座の残高明細を見ながら何度も何度も嬉しそうに良かった良かったと言っては、二人で手を叩き合っては笑っていたのだった。
「じゃあ、鍋の準備をしてくるから適当にくつろいでいてくれよな」
講習会場に到着したところで、俺はリビングに併設されているキッチンへスライム達を引き連れて向かった。
「ええと、この人数だから鍋にするなら何味を作るかなあ」
サクラが取り出してくれた山のような材料を見ながら腕を組んで考える。
一応、ハスフェル達からは岩豚の味噌鍋とキムチ鍋をリクエストされているから、それは作るの決定。
「よし、俺が食べたいから豆乳鍋かな。ハイランドチキンとグラスランドチキンの肉とつくねを入れたのを作ろう。後はいつもの水炊きを水鳥の肉で作るか。あ、みぞれ鍋も好評だったからあれも作ろう。リナさんが大感激していたもんな」
小さくそう呟き、あの時の大感激っぷりを思い出してちょっと笑った俺だったよ。
作るものが決まれば、後はもうスライム達に手伝ってもらいつつ、がっつり色々といつもの量よりもさらに増量して仕込んでいった。
「よし、これだけあれば大丈夫だろう!」
ハイランドチキンとグラスランドチキンの巨大な手羽先は、いつものようにミンチにして大量のつくねを仕込んだ。もちろんつくねには俺のお気に入りの砕いた湯葉入りと豆腐を混ぜ込んだふわふわつくねも用意した。
空いた鍋にありったけ作った後は、満足のため息を吐いて出来上がった鍋を収納したよ。
まあ、俺がやったのは出汁を作って煮込んだだけで、それ以外の面倒な肉の下拵えや野菜のカットは全部スライム達がやってくれたから、それほど大変だったわけではない。ってか、俺もうスライム無しの生活なんてマジで考えられないよ。
「お待たせ〜〜〜」
リビングに決めた部屋に戻ると、テーブルや椅子はもうセッティング済みで、何故か見慣れない酒瓶が何本も乱立していた。
「おう、待ちかねたぞ〜〜!」
振り返ったハスフェルが嬉しそうにそう言ってくれたので、俺も笑ってまずは手持ちのコンロを並べて用意した鍋を順番に取り出していった。
「では解説しま〜す! 右から岩豚の味噌鍋! その隣は、同じく岩豚のキムチ鍋、これはちょっと辛いから、辛いの苦手な人がいれば気をつけてくださ〜い!」
新人コンビやアルクスさん達の好みが分からなかったので、一応そう言っておく。
「それからこっちがハイランドチキンとグラスランドチキンの豆乳鍋。湯葉入りつみれと豆腐入りのふわふわつみれがそれぞれ入ってま〜す」
次々に鍋の蓋を開けながら説明すると、そのたびに起こる拍手大喝采。
「こっちが水鳥の水炊きで、これは出汁に味が付いていないから、食べる時はこっちのポン酢かゴマだれでどうぞ。それでこっちがいろんな肉が入ったみぞれ鍋で〜〜す!」
最後の鍋は、今回はちゃんこ鍋風にいろんな肉だけでなく、小さいけどエビや白身魚なんかも入れた醤油風味のお出汁がベースのみぞれ鍋にしてみた。これだとちゃんこ鍋でもさっぱりいただけるからな。
上に載せたのは定番の猫型大根おろし。ちょっとだけポン酢でぶち猫風にセットしてある。
「うわあ、なんですかそれ!」
「めっちゃ可愛い〜〜!」
どうやらみぞれ鍋は新人コンビにもツボだったらしく、可愛い可愛いと大興奮している。
「こっちは追加の肉各種とお出汁、それから野菜で〜す。つみれの追加はここな。取って鍋の具が無くなったら、コンロの火を強めてから各自ここから追加を入れてくださ〜い。以上! ではどうぞ!」
「いただきま〜〜す!」
なぜか全員揃ったいただきますの後、各自携帯鍋を手に好きな鍋に突撃していった。
新人コンビは携帯鍋を持っていなかったらしく、俺が出して上げた大きなお椀を複数手に取り、好きな鍋に突撃して大量に取り分けていたよ。
うん、君らは成長期なんだからしっかり食え!
俺も大量に確保した豆乳鍋の具をシャムエル様のお椀に取り分けてやってから、冷えた白ビールの栓を抜いたのだった。
うん、やっぱり鍋にビールは必須アイテムだよな。
では、いただきま〜〜す!