収納袋の身内販売!
「「ケンさん! 収納袋を貸していただきありがとうございました!」」
運動場から従魔達を引き連れてギルドの建物へ戻ってきた俺を見て、満面の笑みのムジカ君とシェルタン君が、揃ってそう言いながら貸していた収納袋を両手で持って差し出してくれた。
「お、おう。もういいのか?」
受け取りながらそう言うと、二人は揃って大きく頷いた。
「はい! 予想以上の金額で全部買い取っていただけました!」
「せっかくなので、記念にジェムを一つずつは手元に残したんです。でもそれ以外は全部買い取っていただきました」
揃ってこれ以上ない笑顔で頷き合う二人を見て、俺は手にした収納袋を見る。
「借金返済しても、資金はまだ残った?」
「もちろんです。おかげさまで借金は全部綺麗に完済出来ました! 祭りが終われば、装備を一新して旅に出ます!」
「しかも相当資金に余裕が出来たので、万能薬の良いのも複数買えそうです」
「銅貨の一枚も持っていなかった俺達がこんな大金を手に入れられたなんて、夢みたいです!」
「「本当にありがとうございます!」」
最後に揃ってまたお礼を言われて、笑顔で頷く。
「じゃあ、せっかくだからもうちょっと収納袋を買わないか? 今なら身内価格でお渡し出来るぞ」
笑顔でそう言いながら返してもらった収納袋を見せると、驚いたように目を見開いた二人は揃って何か言いかけては口を閉じ、最後に顔を見合わせてから揃って真顔で頷いた。
「そりゃあ収納袋の高性能のは欲しいですが、身内価格で、ですか?」
「それって初めて聞きますが、どういう意味なんですか?」
どうやら意味が通じなかったみたいで、二人揃って困ったようにそう聞いてきた。
「ええと、ギルドの評価価格、つまりギルドの買い取り金額で物のやり取りを仲間内限定でする事だよ。当然店で買うよりも安く手に入るぞ」
冒険者がギルドに売るのって、言ってみれば卸値の原価みたいなものだからな。ギルドはそこに若干の利益を載せて小売店に卸し、一般販売されるわけだ。
今までは、収納袋の出現率って相当低かったらしくかなりの高額だったんだけど、シャムエル様が大サービスしてくれたおかげで、出現率が跳ね上がった地下洞窟が他にもあったみたいで、今のところ収納袋の相場はかなり暴落しているんだとか。
アーケル君達は、また上がるのを見越して手持ちの収納袋の買い取りにはちょっと慎重になっていたんだよな。
「ええと、ちょっとお尋ねしますが、今ってこのあたりの買い取り価格ってどうなっていますか?」
手持ちの二百倍と五百倍の収納袋をグラフィーさんに見せ、ついでに時間遅延の二百分の一と五百分の一の収納袋も取り出して見せる。
「拝見させていただきます」
真顔になったグラフィーさんが差し出した収納袋を受け取り、それはそれは真剣な顔で確認し始める。
何となく全員無言でそれを見つめていると、何故かグラフィーさんが目を閉じてやや上を向きながらうっとりとしたため息を吐いた。
「これは素晴らしい。お節介を承知で言わせていただきますが、今お売りになるのはおやめになった方がよろしいかと愚考します。何しろ高性能の収納袋であっても相当価格が暴落していますからね」
「ああ、それは良いんです。あの子達に持たせてやりたくて」
笑顔でそう言うと、グラフィーさんはそれはそれは良い笑顔で頷いた。
「ケンさんの優しきお心に心からの尊敬を捧げます。これならば、この辺りでしょうかね」
胸元から小さな手帳を取り出したグラフィーさんは、そう言いながらサラサラと倍率ごとの買い取り価格を書き出してくれた。
「ええと、これって払える?」
まだ俺の感覚では鞄に出す金額じゃあないんだけど、一応新人コンビにそう尋ねてみる。
「幾らなんですか?」
ムジカ君がそう言ってグラフィーさんが見せた手帳を覗き込む。シェルタン君も、その横から一緒に手帳を覗き込んだ。
「うええ! その金額は有り得ないでしょう!」
「そんなの絶対駄目ですって!」
やっぱり高すぎると納得しかけた時、二人は血相変えながら揃って叫んだ。
「こんなの、絶対安すぎでしょうが!」
「そうですよ! 桁一つ間違ってますよ!」
「いえ、今の買い取り価格ならこれで間違っておりませんが」
にっこりと笑ったグラフィーさんの言葉に、口を開けたまま固まる新人コンビ。
「……本当に、この金額で買い取らせていただけるんですか?」
ようやく固まっていたのから解放された二人は、その後に顔を寄せて何やら真剣に相談していたんだけど、しばらくして揃って俺を見ながらそう尋ねてきた。
「おう、ちなみにもっと高性能のもあるぞ」
笑いながらそう言ってやると、困ったように笑った二人はもう一回顔を見合わせてから俺を見た。
「では、お言葉に甘えてこの五百倍の収納袋を三つずつと、二百倍に時間遅延も二百分の一になっているこっちの収納袋も一つずつ買わせてください」
「よろしくお願いします!」
予想よりも少ない数に驚いてハスフェル達を見ると、笑って頷いてくれたのでこれくらいの数でも大丈夫みたいだ。
「了解。じゃあここで渡していいかな」
「では、支払い手続きを行いますのでこちらへどうぞ。ギルドカードの提示をお願いします」
黙って俺達のやりとりを見ていたグラフィーさんが笑顔でそう言ってくれたので、それぞれギルドカードを渡して支払い手続きをとってもらった。
ハスフェルによると、仲間内での売買でも出来れば支払いはギルドの口座を介してやった方がいいらしい。
まあ、その辺りは確かにそうかもしれない。
この世界に詳しい彼らの言う事を聞いておくのが間違いないので、ここは俺も素直に従っておくよ。
手続き完了の明細をそれぞれに受け取り実物も渡してやると、そりゃあもう大喜びの二人だったよ。
ちなみにハスフェル達とランドルさんは、ボルヴィスさんとアルクスさんに頼まれてそれぞれ手持ちの収納袋のかなりの高性能なやつを、同じように身内価格で渡していた。
無事に全員、全部の手続きが終わり、満面の笑みで手を叩き合った俺達だったよ。
お疲れ様でした〜〜〜!