街への到着と冒険者ギルドの支部
「今までこれを飲まなかった自分をぶん殴ってやりたい!」
「俺もだ! 何だよこのジュース! 美味いにも程があるだろうが!」
新人コンビが激うまジュースの美味しさに揃って悶絶する横で、これは一体何だと真顔でハスフェル達に詰め寄るボルヴィスさんとアルクスさん。
そういえば彼らも食事の時にジュースを取っていたのを見た覚えは無いね。
笑ったハスフェル達から飛び地の存在を聞かされて、またしても揃って悲鳴をあげた四人だったよ。
結局お菓子を食べつつ、取り出した地図を見ながらハスフェルとギイが例の飛び地の詳しい説明をしていた。
そして、バイゼンの職人達が飛び地攻略の為の道具を開発した事や、俺達が入った時には恐竜達が巨大化して固いイバラを踏み超えてくれたのだと説明していた。
まあ、嘘はついていない。確かに俺達が入った時には恐竜が硬いイバラを踏み越えてくれた。あれはギイだったけどね。
「ヘラクレスオオカブトの剣でも切れぬほどに固いイバラが守る飛び地か。それは攻略のし甲斐がありそうだ」
何故か嬉しそうにそう言って頷くアルクスさん。
「確かに。攻略のし甲斐がありそうだな。となると、ここは彼らに倣って飛び地攻略の為に恐竜をテイムするべきだな」
そして、同じくらいに嬉しそうにそう言って笑うボルヴィスさん。
ちなみに、新人コンビは最初に飛び地の場所を地図に記入した後は、もう完全に見学モードになってお菓子を齧りつつ激うまジュースのおかわりを飲んでいたよ。
うん、足りなさそうだからもうちょっと激うまジュースの追加を出しておいてやろう。
「よし、早駆け祭りが終われば一緒に地下洞窟へ行かないか。二人で協力すればラプトルならば確保出来よう」
笑顔のアルクスさんの言葉に、こちらも満面の笑みのボルヴィスさんが大きく頷く。
「こちらからお願いしようと思っていました。是非行きましょう!」
地下洞窟と聞いて無言で顔を見合わせた後、首をもげそうな勢いで揃って振る新人コンビの二人。
そうだな。さすがにまだ二人を地下洞窟へ入れるのは俺も無理だと思う。
トライロバイトくらいなら従魔達がいるから何とかなるかもしれないが、乱戦での危険度も地上とは桁違いだからな。
「よし! 今は無理だけど、メタルスライムの場所と同じで今後の目標が出来たな。地下洞窟へ行って恐竜をテイムして、飛び地へ自力で行けるくらいの冒険者を目指そう!」
「そうだな。じゃあそれも目標にしようぜ!」
笑顔で手を叩き合う二人を、俺達はもう完全なる保護者目線で見つめていたのだった。
その後、しばらくしてマックス達が戻ってきたところでその場を撤収した俺達は、それぞれの騎獣に乗って一気に街を目指して走っていった。
途中目立つ木があれば駆けっこも楽しみつつ、日が傾き始めた頃に街道に到着した。
そのまま街道沿いを走り、城壁のすぐ近くで街道に入って貴族用の城門から街へ入った。
おかげで街道にいる時にちょっと注目を集めたくらいで、何とか無事に街へ入る事が出来たよ。ううん、もっと早くこの城門を知りたかった。まあ、説明を聞き逃していたのは俺なんだけどね。
「どうする? このまま先に冒険者ギルドの支部へ行くか?」
「そうですね。お借りしている収納袋もお返ししないといけませんし」
「出来たら早く行きたいです」
ハスフェルの問いに、顔を見合わせたムジカ君とシェルタン君が揃ってそう答える。
「了解だ。じゃあこっちだな」
ハスフェル達は場所を知っているみたいなので、お任せして素直に後をついていく。
しばらく進んで到着したのは、なかなかに立派な金属製の見上げるくらいに背の高い柵で取り囲まれた広い庭とデカい門。そしてその奥に聳える巨大な石造りの建物だった。ううん貴族のお屋敷と並んでも遜色ないって凄えぞ冒険者ギルド。
しかも閉じた門の横には何故か警備の人らしい制服を着た男性が左右に二人立っていて、俺達に気付くと笑顔で一礼した。
「確認の為、身分証明書をお願いいたします」
慌てて冒険者ギルドのカードを取り出して渡すと、ちらっと見ただけですぐに返してくれた。
全員のギルドカードを確認してから門を開けてくれたので、お礼を言って中に入る。
冒険者ギルドに、いつものようにジェムと素材を買い取ってもらいに来ただけのはずなのに、何故かアウェー感が半端ないぞ。
恐らく俺と同じ気分なのだろう。ギクシャクとした不自然な動きで右手右足を同時に出して歩く新人コンビに妙な親近感を覚えた俺だったよ。
「お待ちしておりました。当支部の支部長を勤めておりますグラフィーと申します。ジェムと素材の買い取りとの事ですが、それでよろしいでしょうか?」
どこから見ても貴族にしか見えない超男前で高身長な初老の男性が、俺達を見て笑顔でそう言いながら優雅に一礼する。だけど服の上からでもしっかりと鍛えているのが分かる。いわゆる細マッチョって感じだ。
「ああ、久しぶりだなグラフィー。最近顔を見ないと思っていたら、こっちにいたのか」
ドン引きする俺と新人コンビを置いて、平然とそう言って笑顔で頷くハスフェル。ギイもその隣で平然としているから、彼らはグラフィー支部長と顔見知りみたいだ。
「おう、四年前からここで留守番だ。おかげで見かけだけは優雅になったとエルに会うたびにからかわれているよ」
急に言葉が砕けたものになり、その瞬間、何というかまとっていた雰囲気が貴族から冒険者のそれになった。
ううん、見事な切り替えだね。
密かに感心していると、振り返ったハスフェルが新人コンビを手招きした。
「ほら、こっちへ来て座れ。この二人のジェムと素材の買い取りを頼む。二人とも、口座への入金で良いんだよな?」
「はい、それでお願いします。それから、借金の清算をお願いしたいです」
「俺もそれでお願いします!」
ムジカ君の言葉に、慌てたようにシェルタン君もそう言ってギルドカードを取り出した。
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
言われた椅子に座った二人の前に、それぞれ別の人が座る。
嬉々として収納袋からジェムを取り出し始めた二人を、俺達はまたしても保護者気分で見つめていたのだった。