BLTサンドとマーサさんの家へ行く
ぺしぺしぺし……。
「うん、はいはい……」
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
「うん。おきるよ……」
無意識に寝ぼけて返事をしていると、頬と額に来ました!
ジョリジョリジョリ。
ザリザリザリ。
「うわあ! 起きます! 起きますって!」
猫族二匹の攻撃にあっけなく白旗を上げた俺は、飛び起きて顔を上げた。
「ご主人起きたー!」
「やっぱり私達が最強よねー」
モーニングコールチームが、飛び起きた俺を見て大喜びしている。
「あはは、毎朝スリル満点のモーニングコールをありがとうな。おかげで起きられるよ」
得意げなソレイユとフォール、それからタロンとプティラを順番に両手で顔をもみくちゃにする、題しておにぎりの刑にしてやり、それからニニとマックス達も順番に撫でてやる。
うん、よしよし。今日も皆元気だな。
水場で顔を洗い、サクラに綺麗にしてもらって、いつもの身支度を整える。
タロンに鶏肉を出してやり、ベリー達にも果物を出しておいてやる。
肉食チームは、明日あたりには一度狩りに行かせてやらないとな。
「さてと、じゃあ今朝は気合を入れてBLTサンドにするか」
サクラに、道具と材料を取り出してもらっていて思い出した。
「あ、目玉焼きの作り置きがあるからあれを使えばいいな。トマトとレタスはそのままで良いからすぐに出来る。じゃあ先ずはオーロラソースを作って、それからベーコンを焼けば良いな」
手順を確認して、まずはマヨネーズとケチャップを混ぜてオーロラソースをたっぷりと作っておく。
「あいつらは二人前ずつくらいは軽く食いそうだな。じゃあ、まとめて作っておくか。余ったら置いておけばいいしな」
って事で、まずはベーコンの塊を取り出して5ミリぐらいの分厚さに一枚だけ切る。
「これ、全部こんな感じに切ってくれるか」
足元にいたサクラに頼むと、あっという間に厚切りベーコンが大量に出来上がる。
「ありがとうな」
笑って肉球マークを撫でてやると、得意げに伸び上がっている。
あれは絶対ドヤ顔だぞ。
フライパンにベーコンを並べて、両面をカリカリに焼いていく。
「ああ、もうこれだけで美味そうじゃん」
ベーコンの焼ける香ばしい香りが部屋中に充満している。
大きなお皿に焼けたベーコンを並べておき、有るだけベーコンを焼いていく。
それから食パンを八枚切りくらいの厚さに切り、簡易オーブンで軽くトーストしていく。
その間にトマトを取り出して厚めの輪切りにしておく。
「サクラ、目玉焼きって何個ある?」
確か、かなり作った覚えがあるぞ。
「ええと、全部で40個あるよ。どうする? 全部出す?」
「そんなに作ってたんだ。じゃあとりあえず10個出してくれるか」
大きめの皿に、2個ずつ並んだ目玉焼きが取り出されて並べられた。
「お、そろそろパンが焼けるな」
焼けたパンをトングで掴んで板の上に取り出し、次のパンを放り込む。
『おはようケン、起きてるか?』
丁度その時、ハスフェルの声が念話で聞こえた。
『おはようさん。今BLTサンドを作ってるところだよ。適当に来てくれるか』
『了解。じゃあ行かせてもらうよ』
嬉しそうな声が聞こえて、すぐに気配が消える。
「あ、コーヒーもセットしないとな。いや、作り置きがまだあったはずだぞ」
そう呟きながら、焼いたパンにオーロラソースを軽く塗り、レタスを並べてその上にベーコンをギッシリと乗せる。もう一回レタスを乗せてその上にトマトを並べる。それからその上に目玉焼きを乗せて、もう一枚のパンで挟めば完成だ。
手早くまずは人数分を作り、追加の分も、目玉焼きがあるだけ作っておく。
「後はコーヒーだな」
作り置きがあったので、ピッチャーとミルクを並べて置いておく。
人数分の食器とカトラリーを取り出したところでノックの音がした。
「アクア、開けてやってくれるか」
「はーい」
可愛い返事が聞こえて、アクアが鍵を開けてくれる。
いや、本当にスライムって便利だな。
「ありがとうな」
得意げに足元に戻って来たアクアもさっきのサクラみたいに撫でてやると、これまた嬉しそうに伸び上がっているので笑って指先で突っついてやる。
入って来て、並んだBLTサンドを見て目を輝かせる三人に、顔を上げた俺は思わず吹き出したよ。
「はい、どうぞ。コーヒーは勝手に入れてくれよな」
真ん中で半分に切ったBLTサンドを、それぞれのお皿に乗せて渡してやる。
「足りなかったら、ここのをどうぞ」
とりあえず、大皿に半分に切った残りのBLTサンドを並べておき、自分の分のコーヒーを入れる。うん、今日はオーレにしよう。
「美味いなこれ」
ハスフェルとギイが声を揃えてそう言い、もう残り半分に突入している。食うの早いなおい。
まあ、喜んで食べてくれているので、好きにしてくれ。
予想通りで、ハスフェル達は二人前平らげていたよ。
デザートの果物を少し出してやり、片付けて一休みしたら、そのマーサさんの家へ行く事にした。
「だけど、いきなりこいつら全員連れて行くのはちょっと無茶じゃないか?」
従魔達を連れて行くとしても、クーヘンの従魔だけで良いんじゃないかと思ったんだが、俺の提案にクーヘンは笑って首を振った。
「もし、この子達を連れて行かなかったら、マーサさんは後で俺に絶対言いますよ。どうして全員連れて来なかったのよ! 私だっていろんな従魔を見たかったのに!ってね。だからどうぞ遠慮なく全員連れて行ってやってください。それに、彼女の家も広いですから大丈夫ですよ」
「そっか、じゃあ遠慮なく全員連れて行こう」
顔を見合わせた俺達は笑って頷き合って立ち上がった。
「じゃあ、また大注目になるだろうけど、頼むから大人しくしていてくれよな」
マックスの首に抱きついてそう言うと、皆揃って元気に返事をしてくれた。
「まかせてよ!良い子にしてるからね!」
そんな訳で、全員揃ってすっかり明るくなった外へ出たんだが、やっぱり大注目を集めてしまい、新市街の中にあるそのマーサさんの家へ行くのに、思っていた以上の時間を使ってしまった。
「ギルドからここまで、こんなにかかるなんてね」
すっかり高くなった太陽を見て苦笑いしているクーヘンに、俺達も乾いた笑いしか出ない。
もうとにかく大注目で、しかもどんどん人が集まるもんだから、完全に昨日に続いて見世物状態。
正直言ってちょっと泣きそうだったね。
中央広場を何とか通り抜けて街路樹の綺麗な道を通り、角を曲がると閑静な住宅地が広がっていた。
さすがにここまで来ると、後をついて来ていた見物人も一気に減り、ようやく一息つくことが出来た。
「いやあ、毎回これならちょっと勘弁してくれって感じだな」
「全くだな。いざとなったら、従魔達は宿舎で留守番だな」
ハスフェルとギイの言葉に、俺達も笑って頷くしかない。
「そう言えばレースの時って、エルさんは、連れて来てくれても良いって言っていたけど、本当に大丈夫かね?」
「まあ、まだしばらくあるから、毎日連れ歩いて慣れてもらうしかないだろうさ」
「俺はダメな予感しかしないよ」
大きなため息を吐いてそう言った俺の言葉に、三人とも揃って苦笑いして頷いていた。
「ああ、見えて来ましたね。あそこですよ」
大きな広葉樹が枝を広げる庭の奥に、大きな石造りの建物が見える、うん、確かにデカい。
簡単な柵と開けたままの門があり、その広い庭の奥に見える建物は、ちょっとしたビルくらいはありそうだ。
しかし、平然と門を潜り庭を通って扉の前に立ったクーヘンは、大きな音で扉をノックした。
「マーサさん。俺です。クーヘンです」
扉に向かって話しかけると、しばらくしてパタパタと足音が聞こえて来た。
「クーヘンだって! お帰り!戻って来たんだね!」
次の瞬間、いきなりものすごい勢いで扉が開いた。
少し離れて立っていたにも関わらず、思い切り開いた外開きの扉にまともにぶち当たって吹っ飛ぶクーヘン。
笑ったギイが咄嗟に受け止めてくれたおかげで、クーヘンはどうやら地面を転がらずに済んだみたいだ。
「マーサさん! 扉を開くときは静かにって、いつもディーに言われてたでしょうが!」
鼻を押さえたクーヘンの叫びに、俺達は揃って吹き出したのだった。
「あはは、ごめんよクーヘン、あんまり嬉しくて慌てちゃったよ」
悪びれないその答えに、クーヘンも吹き出す。
扉を全開にしたそこに立っていたのは、綺麗な白髪頭の、確かにかなりご高齢であろう小柄なクライン族の女性だった。