休憩タイム!
「ううん、今どの辺りなのかが全然分からないぞ」
ゴールドバタフライの出現場所を撤収した俺達は、それぞれの従魔に乗って街へ戻っている真っ最中だ。
かなりの速さで走っているマックス達に新人コンビの子達も遅れずについて来ているし、アルクスさんを乗せた真っ白なオオカミのロッキーなんて、余裕で流して走っている。
ううん、マジで俺の三連覇のハードルが爆上がりしてる気がするぞ。
「まだ街道までかなりあるよ。だが、この早さなら日が暮れる前には余裕で街へ戻れるさ」
振り返ったハスフェルに笑いながらそう言われて、乾いた笑いをこぼした俺だったよ。
途中猫族軍団が先に狩りに出かけ、戻って来た所で一旦止まって休憩タイムとなり、交代してマックス達犬族軍団が狩りに出かけて行った。
外に出ている時には、ストレス発散を兼ねて従魔達には出来るだけ狩りに行かせてやらないとな。
休憩場所になったのはそれは見事な花畑で、リナさんとアルデアさんは、嬉々として色とりどりの花を摘んで花冠を作り始めていた。
そしてそれを見て、横に座って花を摘んでは渡して花冠が出来上がるのを待つ草原エルフ三兄弟。
ううん、花畑の中で花冠を作る美男美女。見かけだけなら雑誌を飾れそうなレベルだよ。中身がどうかは、あえて突っ込まない事にしよう。
手持ちのお酒を取り出してのんびり一杯やり始めたハスフェル達を横目に、俺はシャムエル様に頼まれて、おやつタイム用のお菓子各種をせっせとテーブルの上に並べていたのだった。
「うわあ、これも頂いて良いんですか!」
一通り出したところで、駆け寄ってきたムジカ君とシェルタン君が、そう言いながら揃って目を輝かせている。
「もちろん、好きなだけどうぞ。ただし、お皿に取った分は残さない事」
「そんな事絶対にしません! ありがとうございます!」
「ありがとうございます! では、遠慮なくいただきます!」
空のお皿を渡してやると、そりゃあもう嬉々としてお菓子を取り始めた。
一応、シャムエル様に許可をもらって切り分けた全部巻きをはじめ、お店で色々買い込んでいた各種焼き菓子やカットケーキ、和菓子やお団子もあるよ。
「緑茶淹れるけど、欲しい人いる?」
ヤカンを手にそう尋ねると、見事に全員の手が上がった。
「あはは、それならもう一回り大きなヤカンがいるな。じゃあこれにたっぷり水を入れて沸かしますよ〜」
ここは近くに水場が無いので、そう言いながら手持ちの無限水筒からヤカンにたっぷり水を注いで火にかける。
急須が無いので、一番大きなポットにスプーンで緑茶の茶葉をすくって入れていく。
美味しく入れるコツは茶葉をケチらない事。これは緑茶も紅茶も基本的には同じだ。人数分プラス一杯。
ヤカンの底にぷつぷつと泡が出始めたくらいに軽く沸いたところで火を止める。緑茶はぬるめが良い。沸騰させると温度が上がりすぎるからね。
ポットにゆっくりとお湯を注ぎ、しばし待つ。
全員がマイカップを取り出して並べてくれたので、順番に注いでいく。
「はいどうぞ。おかわりが欲しい人は言ってくれよな」
この茶葉は二煎目のお茶も美味しいんだよな。
シャムエル様用に山盛りのお菓子を取り、自分用には、少し考えてみたらし団子と焼いた草餅を取った。
「一応、これもお供えしておくか」
山盛りの焼き菓子と自分のお団子、それから緑茶の入ったマイカップを敷布の上に並べる。
「無事にテイムとゴールドバタフライ狩りが終わりました。今街へ帰る途中の休憩タイムです。少しですがどうぞ」
目を閉じて手を合わせて小さくそう呟く。
いつもの収めの手が俺を何度も撫でてからお菓子を順番に撫で回してお皿を持ち上げるふりをして、最後にマイカップを持ち上げてから消えていった。
「喜んでたな」
「そうだね。手だけなのに間違いなく喜んでいたね」
俺の呟きに、笑ったシャムエル様もうんうんと頷いている。
「じゃあ、これはそのままどうぞ」
山盛りのお皿をシャムエル様の目の前に置いてやる。
「ええと、お茶でいいか? それともあっちのジュースがいい? 一応、一通りのドリンクも出してあるから、激うまジュースが良ければ取ってくるぞ」
最近、あまりジュースを取っていないのを思い出してそう言ってみる。
「ええと、じゃあここにいつもの激うまミックスジュースを少しもらえるかな」
そう言って、いつも使っているショットグラスを取り出した。
「了解、ちょっと待ってくれよな」
笑ってそう言い、自分も飲みたかったのでいつものグラスを取り出してそこに激うまジュースを混ぜて入れる。
「あれ? それは何のジュースですか?」
ムジカ君が不思議そうに俺が持っているグラスを見る。
彼らはいつも食事の時にはコーヒーかオーレを甘くして飲んでいたから、どうやらこのジュースに気付いていなかったみたいだ。
「ふふふ、これはめっっっっっちゃ美味しい特製ジュースだよ。リンゴとブドウがあるからお好きなのをどうぞ。俺はいつもリンゴ多めで両方を混ぜていただいてるよ」
「何ですかそれ! 緑茶をいただいた後に、ぜひやらせていただきます!」
「うわあ、ケンさんがめっっっっっちゃ美味しいって言うジュース! もちろん真似させていただきます!」
ムジカ君の叫びに、シェルタン君も満面の笑みでそう言いながら目を輝かせている。
「おう、美味しすぎて卒倒しないようにな」
笑った俺は、まずはシャムエル様のショットグラスに激うまジュースを入れてやってから、空いた場所にカットした激うまリンゴと激うまブドウをそっと追加で並べておいたのだった。
激うまジュースを飲み、カットフルーツを食べた新人コンビとボルヴィスさんとアルクスさんが、あまりの美味しさに揃って歓喜の叫びを上げるのはすぐ後の事だったよ。