昼食とゴールドバタフライ狩りの始まり
「すっげえ!」
「あのデカいサーバルを臆せずテイムするって……」
「俺には絶対無理」
「俺も絶対に無理。アルクスさんすっげえ。さすが上位冒険者ですね!」
小さな猫サイズになったベッルスを抱き上げて嬉しそうに撫でているアルクスさんを見て、新人コンビはもう大興奮状態だ。
「お見事、確かに凄かったな」
笑った俺の言葉に、新人コンビが凄い勢いで頷いている。
「無事にサーバルをテイム出来ました。確保してくれた従魔達にも心からの感謝を。本当にありがとうございました」
ベッルスを抱き上げたまま、もふ塊になっているニニ達に向かって満面の笑みでそう言って一礼するアルクスさん。
ニニ達猫族軍団も、嬉しそうに声のないニャーをしたり、得意げに喉を鳴らしたりしていたよ。
無事にサーバルをテイム出来たところで、一旦場所を変えて次の目的地であるゴールドバタフライの成虫が出るのだという場所へ向かった。
しかし、到着した花畑にはゴールドバタフライの姿はなく、ハスフェル達によると午前中の出現はどうやら少し前に終わったところだったみたいだ。ううん、タイミングが悪かったみたいだ。
「じゃあ、ちょっと早いけど先に昼飯にするか。出現が始まったらしばらく止まらないんだろう?」
一応、ハスフェル達の事前情報によると、ここは出現する回数は午前と午後で決まっているらしいんだが、その一度に出現する数が、地脈の回復以降は相当な数になっているらしいから、かなりの良い狩場なんだとか。
だけど、俺達の従魔達なら簡単に来られたけど、ここは馬や徒歩で来るには街からも遠い上にとんでもなく大変な場所にあるらしい。何でも、この周囲の草地に見えた場所は地面の下が泥の沼だったり、穴ボコだらけだったりするらしく、相当に危険な場所なんだとか。
しかも、そのゴールドバタフライ達の出現場所である近くの森は、相当に危険な魔獣やジェムモンスターがいるらしく、相当上位の冒険者であっても、出来れば近寄りたくないような場所らしい。
「いやいや、それって俺達もめっちゃ危険だって事だよな!」
簡単にそんな所へ連れて来ないで欲しい。
割と本気でそう思ったんだけど、巨大化したセーブルや俺の従魔達がいれば、向こうが警戒して絶対に近寄ってこないと笑われたよ。
その言葉、信じて良いんだよな?
楽しくゴールドバタフライを狩っている真っ最中に、背後からいきなり襲われるのとか絶対嫌だからな!
割と本気でそう思った俺だったよ。
とりあえず、先に食事にする為に森から少し離れて花畑の奥へ向かう。
ちなみにここに咲いているゴールドバタフライが蜜を吸いにくる花は、2メートルくらいの高さがあり茎も太い上にかなり密集して生えている。なので、ここでランチタイムするにはちょっと無理があるよ。
とりあえず、普通のサイズの花が咲いている場所まで移動してからいつものテーブルセットを取り出して作り置きを色々と取り出して並べた。
それを見て他の皆も色々買い置きを取り出してくれたから、何だか豪華なランチタイムになったよ。
「いつもありがとうございます!」
「では、また厚かましくもご一緒させていただきます!」
「おう、午後からはしっかり働かないといけないんだから、遠慮なく食ってくれよな」
満面の笑みでお礼を言ってくれた新人コンビに俺も笑顔でそう返した。
育ち盛りなんだから、しっかり食わないとな!
ご機嫌で味見ダンスを踊るシャムエル様にはいつものタマゴサンドを二種類渡してやり、俺は午後からしっかり働くつもりでおにぎり盛り合わせと岩豚トンカツ、野菜サラダとポテトサラダに味噌汁という定食パターンで美味しくいただいたよ。
うん、やっぱり岩豚トンカツは美味しいねえ。だけどそろそろ在庫が減ってきているので、祭りが終わったら、まとめて料理タイムを取ってもいいかもしれない。
ご機嫌でタマゴサンドを平らげるシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、そんな事を考えながらしっかりと食べた俺だったよ。
「そろそろ出てきそうだな。移動するぞ」
食事を終え、テーブルや椅子は撤収してまったり寛ぎタイムになっていた俺は、ハスフェルにそう言われて寝転がっていたニニの腹の上から慌てて起き上がった。
「ええと……あの花畑で戦うなら、マックスに乗ったままの方がいいかな?」
移動のためマックスの背中に飛び乗りながらそう聞いてみる。
「マックスの背の上にいたら、花畑から完全に体が出てしまうぞ。そうなったらゴールドバタフライは警戒して降りてこないから、従魔には乗らずに自力で頑張れ。花畑の北側はそれほど花が密集していないから、そっちで俺達は戦うよ」
花畑を指差してそう教えてくれたので、納得してマックスに乗ったままハスフェルの後ろをついていく。
ここの花畑は、高さが2メートルクラスのヒマワリみたいに平らな花で、その花が縦向きに咲いているから下から見たらちょっと妙な形の花になっている。
だけど、花がよく見えるのでちょうど蜜を吸いにきたところを狙って狩れるのは有り難いよな。
背の低い草原エルフ達は、物理で戦う俺達からは少し離れて、交代で術を使って一気に駆逐する作戦らしい。
従魔達は皆、やる気満々で巨大化して花畑全体に散らばっていった。
何でも、これくらいの茎の密集具合なら問題なく中に潜めるんだって。それはそれで怖いぞおい。
そして素材集め担当のスライム達も、それはそれは張り切って花畑全体に散らばっていった。
太い茎の隙間から見える少し離れた森から、噴き出すみたいに出てきたゴールドバタフライ達がこっちへ向かって飛んでくるのが見えて、俺はヘラクレスオオカブトの剣を抜いてぐっと握りしめた。
さあ、ゴールドバタフライ駆逐作戦開始だ!