サーバルのテイムだ!
「それじゃあ行こうか」
水場の撤収も済んで綺麗に片付いたところで顔を見合わせた俺達は、それぞれの騎獣に飛び乗りハスフェル達を先頭に一気に駆け出して行った。
よく晴れた空の下、俺はマックスの背の上で吹きつけてくる気持ちの良い春の風に目を細めて思わず深呼吸をしたよ。
今日は、まずはアルクスさんにサーバルをテイムさせて、それが無事に終われば新人コンビの資金集めの為にゴールドバタフライのところへ行く予定だ。
『では、まずはサーバルの確保ですね。少し遠くですが良さそうなのがいますので確保してきます。またニニちゃん達にお手伝いをお願い出来ますか』
目的の草原へ向かう途中、何やら張り切った声でベリーの念話が届き、吹き出しそうになるのを必死で堪えた俺達だったよ。
まあ、ベリーも俺達との旅を楽しんでくれているみたいだから別にいいんだけどさ。
「じゃあ、私達がサーバルを探してきてあげるね」
ベリーに何か言われたらしく笑ったニニがそう言い、俺達全員の猫科の従魔達を引き連れて離れて行った。
一応、団体行動は苦手と言われている猫科の従魔達だけど、俺の従魔達はとても仲が良いし連携を取った狩りをしているみたいだ。それに他の人が連れている猫科の子達も、従魔同士とても協力的で仲が良い。
なのでこんな風に全員で狩りをする時は、俺の従魔達だけでなく他の人達が連れている子達も猫族軍団に臨時加入している。
ちなみに、猫族軍団の指揮官は基本的にニニがしているみたいだ。
今回は、セーブルと犬族軍団が俺達の護衛役で残ってくれている。
「良いのが見つかるといいですね」
「そうですね。こんな時にも従魔達の有り難みを思い知ります」
笑った俺の言葉に、少し離れたところを走っていたアルクスさんがそう言って笑顔で頷く。
彼が乗っている真っ白なオオカミのロッキーは、こうして見るとテンペストやファイン達より一回り大きい。
「ううん、早駆け祭りの俺の三連覇のハードルが爆上がりしている気がするんだけど、絶対気のせいじゃあないよな」
俺の視線を感じたのかこっちを見てドヤ顔になるロッキーと目が合い、思わず笑ってしまう。
まあ、勝負は時の運。今から心配しても何もならないよな。
そう考えて、若干遠い目になる俺だったよ。
到着した草原の隅で、マックスに乗ったまましばらく待つ。
「ううん、この待ち時間が地味に退屈だなあ」
安全確保の為もあってマックスの背から迂闊に降りる事も出来ない。
どうにも間が持たなくて、密かにため息を吐く。
「ご主人、お暇だったらアクアを揉んでもいいですよ〜」
その時、ベルトの小物入れからするりとアクアが出てきた。そしてそのままそう言って、俺の手の中へ収まる。
「あはは、成る程。そりゃあいい考えだ」
笑ってそう言い、アクアをおにぎりにする。
「ご主人、私達も揉んでいいですよ」
すると、それを見たウサギトリオがマックスの首輪に取り付けたカゴから出てきて、そう言いながら俺の膝の上やお腹のところにくっついてきて何だか幸せ空間になったよ。
「おお、これはなかなかに良きもふもふですなあ」
左手でアクアをにぎにぎしながら右手でウサギ達を交互に撫でてやる。笑った声に振り返ると、他の人も皆退屈していたみたいでそれぞれに従魔達と触れ合って和んでいたよ。
ただし、アルクスさんだけは緊張しているのかふれあいタイムはせず、背筋を伸ばしたままロッキーの背の上で近くの林を見つめたまま微動だにしない。
そのまま何となくのんびりした空気が流れていたんだけど、不意に寛いでいたウサギトリオが一斉に地面に飛び降りて巨大化し、少し離れた林を見た。
他の従魔達も一斉に巨大化して一気に緊張するのが分かり、俺は慌ててアクアを小物入れに戻して背筋を伸ばした。
しばしの沈黙の後、従魔達が見ていた林からニニ達が絡まり合うようにしながら飛び出してきた。
一瞬で最大サイズにまで巨大化したセーブルが俺の前に立ちはだかる。
「ええ、サーバルだよな? あの従魔達が苦労するっておかしくないか?」
何やら嫌な予感にそう言ってよく見ると、やや黄色味がかった毛の大きなサーバルが見えて思わず目を見開く。
「うええ、何だよあのデカいの!」
アーケル君の叫びに誰も応えない。
何しろ、ティグと遜色ないくらいのデカさのサーバルがそこにいたんだからさ。あれは間違いなくサーバルの雄の亜種だろう。
『私も久し振りに見るくらいに大きな個体ですね。確認しましたがジェムは特に古いものというわけではなさそうなので、単に偶然出た大きな個体のようです。一応、それなりに叩きのめして弱らせましたが大丈夫ですか? もう少し弱らせた方が良いでしょうかね?』
若干興奮気味のベリーの念話が届き、もう俺達は笑うしかない。
「こ、これは予想以上の大きさですが……大丈夫でしょうか?」
若干戸惑うようなアルクスさんの言葉に彼を振り返る。
しかし、困ってはいるようだが怯えていたりしている様子が無いのはさすがは上位冒険者だ。
「いけますか?」
目の前では、猫族軍団総出でサーバルを押さえつけて確保している。
苦労しているように見えたのは、無駄な傷をつけないようにしていた為だろう。
「やってみます」
一つ息をのみ、そう言ったアルクスさんがロッキーをゆっくりと進ませる。
「あ、従魔達がもう確保してくれているので、戦う必要はありませんよ!」
剣を抜こうとしているのを見て慌てて止める。
「そうですか。ですが……」
唸り声を上げて自分を睨みつけている大きなサーバルを見たアルクスさんは、困ったように自分の剣を見てからもう一度サーバルを見た。
「では、こっちでやってみます」
そう言って取り出したのは、やや柄の部分が短めのY字になった刺股だ。
驚いて見ていると、ゆっくりと進んで従魔達が確保して押さえ込んでいるサーバルの近くへ行ったアルクスさんは、手にした刺股でぐいっとサーバルの首元を上から押さえ込んで首が動かないように確保して、そのまま右手で大きな頭を押さえつけた。
「俺の仲間になれ!」
力のこもった大きな声が響く。しかし、押さえつけられたサーバルは唸り声を上げるだけで返事をしない。
「もう一度言うぞ! 俺の仲間になれ!」
全体重をかけるようにして、更に大きな頭を押さえつける。
しばし無言の睨み合いの後、目を逸らしたサーバルが小さく喉を鳴らし始めた。
それを見て、従魔達がゆっくりと押さえていた脚を外し、噛み付いていた子達もゆっくりと離していく。
「はい、貴方に従います!」
妙に可愛い声でそう応えたサーバルは、ゆっくりと座り直してからピカッと光った。
「うおお、まだデカくなるのかよ。凄え!」
今の俺の気持ちを見事にアーケル君が言ってくれたよ。
「お前の名前はベッルス。確か古い言葉で美しいって意味だ。よろしくなベッルス」
額をそっと撫でながらのアルクスさんの言葉に、息を殺して見つめていた俺達は、一斉に拍手をしたのだった。
いやあお見事。いざとなったら手伝うつもりだったけど、全然そんな出番は無かったね。
ベッルスを嬉しそうに撫でているアルクスさんを見て、密かに安堵のため息を吐いた俺だったよ。