朝食と撤収!
「ありがとうございます!」
「今日も、遠慮なくご一緒させていただきます!」
いつもの朝食メニューがずらりと並んだテーブルの上を見て、目を輝かせたムジカ君とシェルタン君が嬉しそうにそう言って俺に向かって深々と頭を下げてくれた。
「おう、遠慮なくしっかり食ってくれ。俺達と違って君らはまだまだ育ち盛りなんだからさ」
聞けば、二人とも十六歳。マジで高校生だよ。
自分のその頃を思い出して、ちょっと涙が出そうになったのをグッと飲み込む。
優しくしてくれた親戚のおばさん一家には今でも感謝しかないけど、それでも優しくして貰えばしてもらうほどに、やっぱり父さん母さんとは違うんだって思いと共にこれ以上ないくらいの孤独を感じてしまって、どうしても無邪気には食事をいただけなかったんだよな。
うん、あの時の俺の分まで彼らにはしっかり食ってもらおう。
嬉しそうに岩豚カツサンドの取り合いっこをする二人を見て、もう一回出そうになった涙を飲み込んだ俺だったよ。
右肩に座っていたシャムエル様が、いつの間にか俺の頭の上に移動していて、よしよしって感じに優しく撫でてくれて、また出そうになった涙を飲み込む羽目になったのだった。
「よし、食うぞ!」
俺の様子が少しおかしい事に目ざとく気付いたらしいハスフェル達までが、心配そうにこっそりこっちを窺っていたので、気分を切り替えるように少し大きめの声でそう言ってから、俺も自分の分とシャムエル様の分を選び始めた。
「ええと、シャムエル様はいつものタマゴサンドと、後は何がいる?」
「そっちの岩豚のトンカツを一切れください! 後はコーンスープね。飲み物は何にするの?」
一瞬でテーブルに移動して、いつものスープ用のお椀とドリンク用の盃を取り出すのを見て少し考える。
「今朝はちょっと冷えているみたいだから、ホットオーレにしようかと思うけどそれでいいか? おおい、オーレ用のミルク温めるけど欲しい人いるか?」
片手鍋と、半分ほど入ったほぼ一リットルサイズの大きな牛乳瓶を取り出して見せながらそう言ってやると、ハスフェルとギイとアルクスさんが笑顔で手を上げた。遅れて新人コンビも遠慮がちに手を上げる。
「了解。じゃあ俺の分と合わせて六人分だな」
もう一本大きな牛乳瓶を取り出し、マイカップで計って少し多めに入れて火にかける。
沸き立つ少し前で火を止めてからコーヒーを半分ほど入れておいたマイカップにゆっくりと注ぎ、テーブルに並べられていた彼らのカップにもミルクを入れていった。
「ちょっと余ったな。追加が欲しい人は、早い者順だけど少しあるから言ってくれよな」
冷めないように収納しながらそう言ってやると、新人コンビの嬉しそうな返事が返ってきた。
うん、構わないから遠慮なくしっかり食ってくれ。
保護者気分全開で笑って頷き、とりあえずいつものようにスライム達が用意してくれた簡易祭壇に俺の分を並べた。
「ええと、いつもの作り置きですが、タマゴサンドと岩豚カツサンド、それから鶏ハムと野菜サンドと岩豚トンカツ。コーンスープとホットオーレと一緒にどうぞ。今日はアルクスさんにサーバルをテイムさせて、そのあとは新人コンビの資金集めの為ゴールドバタフライのところへ行きます。どうぞお守りください」
目を閉じていつものように小さな声でそう呟く。
いつもの収めの手が俺を何度も撫でてくれた後、嬉々としてサンドイッチを撫でスープとホットオーレの入ったカップも撫でてから順番に持ち上げる振りをしていく。
それが終われば収めの手は、新人コンビやアルクスさん、それから彼らの従魔達を順番に撫でてから消えていった。
「ありがとうな」
ごく小さな声でそう呟き、待っていてくれた皆にお礼を言って急いで席についたよ。
「ふああ、今日も最高に美味しかったです!」
「本当だよな。もうどれを食べても美味しいしか出てこないです!」
ホットオーレのおかわりも二人で仲良く分け、取ったサンドイッチの山をかけらも残さず綺麗に食べてくれた二人のお礼の言葉に俺も笑顔になる。
「はい、お粗末。まあ、一緒にいる間くらい遠慮なくしっかり食べてくれよな。まだまだ作り置きはたくさんあるからさ」
笑った俺の言葉に、もう一回嬉しい声をあげた二人だったよ。
『そうそう、アルクスが世話になっている礼だと言って、万能薬の材料になる青銀草を沢山分けてくれたぞ』
食後のコーヒーをのんびりと飲んでいると、
トークルーム全開のハスフェルから念話が届いて驚いて彼らを振り返る。
『何でもここへ来る前に引き受けた仕事の際に薬草採取専門の冒険者と知り合ったらしく、その時に世話になった礼だと言って、その冒険者から干した青銀草をたくさん分けてもらったらしい』
『だが、彼は自分では薬は作れないから、後でギルドへ売るつもりだったらしいんだが、俺達が万能薬の材料を欲しがっているのをリナさん達から聞いたらしく、飯の礼だと言って手持ちの分を分けてくれたんだ』
『手持ちの万能薬はかなり回復はしたが、まだまだ安心するには程遠い量しか確保出来ていないからな。ありがたく分けてもらったよ』
交互にハスフェルとギイが説明してくれた内容を聞いて、思わず俺もアルクスさんにお礼を言ったよ。
世界の平和を文字通り裏から守ってくれている彼らには、万一の際には万能薬を遠慮なく使ってもらいたいからな。
大した事ではないと恐縮するアルクスさんと俺とで御礼合戦になってしまい、見ていたハスフェル達に笑われたよ。
でもまあ、それで遠慮なく食ってくれるなら安心だな。何だか嬉しくなって残っていたコーヒーを一気に飲み干した俺だったよ。
食事を終えて少し休憩した俺達は、一旦テントと水場を撤収してから出発した。
もちろん、スライム達をはじめ水遊び大好き従魔達が、気が済むまで水遊びを終えてから出発したのは言うまでもない。
撤収後に水が消えてしまった泉の跡を前に揃ってしょんぼりするマックス達を見て、いやマジで、誰か水の術を使えるようになってくれないかな。なんて割と本気で考えた俺だったよ。
ちなみに、ギイが一応水の術も少しは使えるらしいんだが、どちらかというと霧を出す方が得意らしく、あんな大量の水がまとめて出るような術は使えないんだって。残念!