食事の重要性と収納袋の事
「うああ、めっちゃ美味しい!」
「もう俺、ケンさん達と別れた後の食事を考えただけで、泣きそうになってるんですけど!」
「そうですよ。俺達みたいな貧乏人に、こんな贅沢覚えさせないでください!」
新人コンビが、グラスランドブラウンブルの熟成肉を一口食べるなり口を揃えて叫び美味しさのあまり悶絶している。
「確かにそうだな。これはちょっと今後考えるべき重要事項だな。携帯食と干し肉が当たり前だと思っていたが、もうあんな不味いものは緊急時以外は食いたくないぞ」
こちらは半分ほど食べたハイランドチキンを見つめた真顔のアルクスさんが、二人の叫びを聞いてそう呟きながら何やら真剣に考え込んでいる。
それを見てにんまりと笑ったランドルさんとボルヴィスさんが、左右から顔を寄せてアルクスさんに何か言っていたから、おそらく郊外での美味しい食事の重要性について力説しているものと思われる。
しばらくして、顔を上げたアルクスさんも凄い勢いでうんうんと頷いた後、三人で、じゃあ収納袋にどんな料理を入れるか、なんて話を楽しそうに始めていた。
まあ、アルクスさんは元々上位冒険者なので収納袋はかなりいいのを複数持っているみたいだから、確かにかなりの高性能な収納袋でも簡単に用意出来そうだ。
だけど、新人コンビはそもそも収納袋自体、俺があげたあの五十倍収納で時間遅延も五十分の一のが初めてだって言っていたんだから、あれを食料入れにするのはさすがに無理だ。郊外へ出てジェムを確保したら、そっちを収納するのがやっぱり優先だよな。となると……。
『なあ、あの子達にこれ以上時間遅延の収納袋を譲るのは駄目なんだよな?』
まだまだ収納袋は大量にあるんだから俺的には百倍収納で時間遅延百分の一とか、同じく二百倍収納で時間遅延が二百分の一くらいの収納袋なら譲ってあげても全然構わないんだけど、彼らはそれはやめたほうがいいって言っていた。
だから、今、彼らが使っているジェムを入れてある収納袋は、俺が貸してあげてるって事になってるんだよ。
『そうだな。これ以上は過剰な施しになるから彼らの為にならない。真面目に頑張っている彼らだからこそ、安易な施しはするべきではない』
トークルーム全開の念話で聞いてみたところ、ハスフェルにキッパリとそう言われた。
『やっぱりそうか。でも、力になってやりたい気もするんだよな』
確かにその通りなんだろう。だけど、せっかく知り合えたんだし、何とかしてあげたい気もする。
『それなら、明日サーバルをアルクスにテイムさせた後に、また、ジェムモンスター狩りに行くか。自力でとにかくジェムを調達させて資金を作らせるのが一番簡単だ。そうすれば、俺達が持っている高性能の時間遅延の収納袋をギルドマスターのエルに確認してもらって、ギルドの評価価格、つまり原価で彼らに売ってやればいい』
『ああ、それが良いと思うぞ。仲間内での原価での売買はたまに俺達でもやるからな』
『確かに、高額なものを自力で買えたと思わせるのも必要な経験だ』
ハスフェルの提案に、ギイとオンハルトの爺さんも同意してくれた。
『成る程、そんなやり方もあるのか。じゃあそれで行こう。ええと、ちなみに金になりそうなジェムモンスターってピルバグと芋虫以外に何か近くにあるか?』
『そうだな……今の彼らはスライムを複数テイムしているから素材の回収も出来るな。それならゴールドバタフライの成虫のところへ行くか。あれなら危険度は少ないし、素材をしっかり確保出来れば確実に金になるぞ』
『ああ、それはいいな。じゃあ明日はその予定でお願いします!』
『おう、任せろ! がっつり稼がせてやるとするか』
頑張る新人コンビにはハスフェル達も色々と思うところがあるみたいで、俺の言葉に笑って請け負ってくれた。
食事の後はアルクスさんも加わり、お酒を片手に新人コンビにこの近辺でのジェムモンスターの湧く場所や、危険な魔獣がいる範囲などを詳しく話し聞かせていた。もちろん、ここは俺も一緒に聞かせてもらったよ。
「よし、これもあとで忘れないうちに地図に書いておこう」
そう考えていると、当たり前のように二人は手持ちの地図を取り出し、携帯用の小さなつけペンとインクの小瓶まで取り出して、それはそれは真剣に聞いた事を地図に書き込み始めた。
彼らが持っているのは当然ギルド発行のあの雑な地図で、しかもこの街周辺のみの地図の方だ。
それを見て苦笑いした俺も、遠慮なく手持ちの地図を取り出して今聞いた情報をせっせと地図に書き込んでいった。
「この祭りが終われば、二人で旅に出て世界中を回るんだろう? それならこの近隣だけでなくこっちの世界地図も持っておかないとな」
様々な情報がびっしりと書き込まれた自分の手持ちの世界地図を見せたハスフェルの優しい言葉に、二人が揃って満面の笑みで頷く。
「はい、この地図を買った時ってまだまだ本当に貧乏で、日々の食事もギリギリなくらいだったんです。でも地図は絶対に欲しかったから、何とか無理して一番使う近隣の地図だけ買ったんです」
「俺も同じです。でも、皆様のおかげで分不相応なくらいにジェムを大量に確保出来たから、旅に出る前に世界地図もギルドで買っていきます。本当にしばらくお金の心配はしなくてよさそうで嬉しいです。街へ戻ったらギルドで換金してもらいますね」
「本当にありがとうございます。借金を返せるどころか、装備も一新出来そうなくらいに大量のジェムを確保する事が出来ました!」
嬉しそうに目を輝かせる二人の言葉に、またしても保護者気分全開になる俺達だったよ。
ああ、新人コンビが良い子達すぎて、マジでどうしたら良いんだろう。
よし、ゴールドバタフライのジェムと素材も、またいくらか多めに彼らに押し付けておこう!