スライムをテイムするぞ!
「なあ、このまま野営地へ行くのもいいけど、出来ればアルクスさんにいきなりサーバルをテイムさせる前に、どこか近くで一度、何かもう少し簡単そうなのをテイムさせてみた方がいい気がするけど、どうだ?」
何となく集まったまま止まっていたので、ふと思いついてそう言ってみる。
一応シャムエル様は大丈夫だと言ってくれているけど、テイムは精神的な部分が大きいから、自分自身が実体験を経てもう大丈夫、自分はやれるんだと納得するのは重要な気がする。
「ああ、確かにそうだな。ううん、何か欲しい従魔はいるか?」
振り返ったハスフェルの言葉に、アルクスさんが無言で考える。
「確かにそうですね。それならスライムの巣へ行きたいです。キャンディも、スライム仲間が欲しいでしょうからね」
俺達全員が複数のスライムを連れているのを見て、苦笑いしたアルクスさんがそう言って自分の従魔のキャンディを見る。
「ああ、確かに。じゃあそんなアルクスさんに、一つ良い事を教えましょう!」
にんまりと笑った俺の言葉に、ロッキーに乗ったままのアルクスさんが驚いたように俺を振り返る。
「ええと、出て来てくれるか」
俺の言葉に、鞄の中に入っていたスライム達が次々に飛び出してくる。もちろん、飛び出して来たのはアクアとサクラとレインボースライム達だ。
「このクリアーとピンクは、何処にでもいる定番の子です」
そう言って、アルクスさんの方へアクアとサクラを手の上に乗せて差し出して見せる。
「ああ、確かにその色のスライムは世界中何処にでもいますね」
アルクスさんがうんうんと納得したように何度も頷く。
「それで、こっちの色の子達を俺はレインボースライムって呼んでいます」
次に、側まで来て整列してくれたアルファを先頭にしたレインボーカラーの子達を示してみせる。
「ああ、先ほど料理を手伝っていたスライムですね。改めて見ると何とも華やかですね。あ、これは雨上がりに空にかかる虹と同じ色ですね!」
思いついた! って感じに手を打ったアルクスさんの言葉に俺も笑顔で頷く。
「ええ、そうです。俺はこの子達をまとめてレインボースライムって呼んでいますよ。もしもスライムを多くテイムするつもりがあるなら、この子達は絶対に集めるべきですよ」
俺のおすすめの言葉に、アルクスさんが不思議そうに首を傾げる。
「ううん、そこまでのスライムを集めるつもりは……ええ? 集めた方がいいんですか?」
そこまで集めるつもりはないと言うアルクスさんに、ランドルさんとボルヴィスさんが従魔に乗ったまま駆け寄り鞍上で何やら話をしている。
「ええ、絶対やった方がいい? 一ヶ所ではそんなに沢山の色は集まりませんよねえ。まあ、そこまで言われたら……分かりました。では、やってみます」
「ええ、是非やってください。スライム達は、郊外では大きくなってベッドにもなってくれますからね。絶対に集めるべきですよ」
力一杯力説する俺の言葉に、苦笑いしつつ頷くアルクスさんだった。
そのまましばらく移動して、見覚えのある茂みに到着する。
確かここは、黄色のスライムが出たんだよな。
そんな事を考えつつ、地面に落ちた小石を引き寄せて拾う。
さりげない俺のその仕草を見て、また驚いているアルクスさん。それを見て密かにドヤ顔になった俺だったよ。
「じゃあ行きますよ〜〜」
小石を皆に見せてから、俺は力一杯小石を茂みに向かって投げ込んだ。
一瞬静まり返った茂みから、もの凄い数のスライム達が、凄い勢いで跳ね飛んで来る。
「黄色見っけ!」
「ピンク発見!」
ここでは俺達はテイムするつもりはなかったので、狩りは従魔達に任せるつもりだったんだけど、地面に降りたアルクスさんがピンククリアーを持っていた槍の柄で吹っ飛ばした直後に、同じく地面に降りたムジカ君とシェルタン君が、嬉しそうな声を上げて鞘ごとの短剣で見事にそれぞれのスライムを吹っ飛ばした。
おお、これまた三人揃ってホームラン級の当たりだぞ。
かなり遠くまで飛んで木にぶち当たって落ちていったスライム。当然のようにムジカ君の従魔であるマメルリハのポポちゃんが、パタパタと羽ばたいて飛んで行き、すぐにスライムを足で掴んで連れて来てくれた。
同じくアルクスさんの黄色のインコのチッチも、慌てたように羽ばたいてアルクスさんが吹っ飛ばしたスライムを掴んで戻ってきた。
そして、シェルタン君の従魔であるオオワシのアセロも、その大きな翼を一度大きく羽ばたいて一旦空へ舞い上がり、そのまますぐにスライムを確保して戻って来てくれた。
「おお! 翼のある子は、どの子もさすがの機動力だね」
その様子を見て感心して見ていると、ムジカ君とシェルタン君はもう簡単に二人ともスライムをテイムしていたよ。
そして、チッチから渡されたスライムを掴んだアルクスさんは、真顔でまじまじと手にしたスライムを見た。
「お前をテイムしたいのだが、良いだろうか?」
真顔のアルクスさんの言葉に、吹き出しそうになるのを必死で堪えたよ。
成る程。最初にセキセイインコのチッチにお前をテイムしたいがどうしたらいいかって聞いたおかげで、彼のテイムはそんな言い方になっているんだ。
まあ、テイムする相手に言いたい事は通じているみたいだから別にいいよな。
一緒に見ているシャムエル様も何も言わないし、ここは個性って事にしておこう
「はあい、よろしくです〜〜!」
ピカっと光ったスライムの元気な返事に、アルクスさんが安堵のため息を吐く。
「ああ、よろしくな。お前の名前はピーチだよ」
「わあい、名前貰った〜〜〜!」
ビヨンと伸びたピーチが嬉しそうにそう言ってアルクスさんの手にちょっとだけ甘えるみたいに絡みつく。
「やった。上手くいった。よし!」
ピーチを撫でてやりながらの小さなその呟きを聞いて、俺達は揃って笑顔で拍手をしたのだった。