アルクスさんの再出発!
「成る程ねえ。若い頃に聞いた話が彼を縛っていたわけか!」
俺の右肩に座って話を聞いていたシャムエル様が、何やら納得したようにそう言って手を打っている。
「ええと、もしかしてさっき言ってた、彼自身が能力に制限をかけているって話?」
一応、小さな声でシャムエル様にそう話しかける。
「そう! ほら、今の彼が連れている従魔を見てよ!」
改めてそう言われて、アルクスさんを見る。
今の彼は、ランドルさんとボルヴィスさんだけでなくハスフェルとギイも加わり、何やら顔を寄せて真剣に話をしている。
従魔達は少し離れたところに集まってもふ塊になったまま、そんな彼らの様子を窺っている。
ちなみに、ロッキー達は揃ってアルクスさんの側にいるよ。
「ああ、成る程。今の彼の従魔って、その昔世話になったテイマーの爺さんが連れていたのと同じか!」
改めて彼の従魔を見た俺は、その事に気づいて大きく頷いた。
「そう。無意識に彼はそのお爺さんに同調していたんだね。だから従魔の扱いもそれに倣っていた。そして、そんな彼を自分は越えられないと無意識に思い込んでいたみたいだね。だけどその彼が間違っていたと気づいた事でその思い込みから解放され、それと同時に彼自身が自分を縛っていた制限からも解放されたみたいだね。へえ、こんな場合もあるんだ。人って面白い」
最後だけはちょっと神様っぽい声でそう呟いたシャムエル様は、小さく笑ってうんうんと頷いた。
「ちなみに彼の能力自体は結構それなりにあるから、充分魔獣使いになれるし、まだまだテイム出来ると思うよ。もう制限は解除されているんだから、今なら郊外へ連れて行ってあげてもいいと思うね」
目を細めたシャムエル様の言葉に安心した俺は大きなため息を吐いた。
うん、良かった。どうなる事かと思ったけど、何とかこれも解決出来たみたいだ。
「ケン、彼もやる気になっているみたいだし、今から郊外へ出てみてもいいかもな? 何ならそのままどこかで野営して朝から狩りに行けばいいと思うんだが、どうだ?」
こっちを振り返ったハスフェルの言葉に、少し下がって控えていた新人コンビも笑顔で拍手をしている。
「ああ、いいね。じゃあそれで行こう。ええと、何かテイムするのに良さそうなのはいるか?」
「彼が俺達の従魔を見て、自分もサーバルが欲しいと言っているんだ。確かにソロで活動するのならもう少し強い従魔が欲しいところだからな。せっかくだから、もう一度あそこへ行くか」
「グリーングラスサーバルの出現場所か。うん、いいと思うぞ。じゃあ行くか!」
俺の言葉に、もふ塊になっていた従魔達が目を輝かせて一斉に起き上がる。
おお、全員揃ってやる気満々だよ。
「それなら今回は、私はここで帰らせていただきますね。狩りから戻ったらギルドに声をかけてください。残りの一人を連れて来ますので」
にっこり笑ったマーサさんの言葉に、問題の残り一人の事を思い出して、チベットスナギツネみたいになった俺だったよ。
でもまあ、味方も増えた事だし何とかなるだろう!
とりあえず、そっちはふん縛って明後日の方向へぶん投げておく。まあ後で拾いに行かないといけないんだけどさ。
「じゃあ行こうか」
「おう!」
尻尾扇風機状態のマックスを撫でてやり、手早く鞍と手綱をセットした俺がそう言って振り返ると、全員揃ってとってもいい返事をしてくれたよ。
顔を見合わせて笑顔で頷き合った俺達は、全員揃って従魔達を引き連れてまずは外へ出たのだった。
「じゃあ私は戻りますね。大丈夫だとは思いますが、怪我には気をつけていってらっしゃい」
まずはマーサさんも一緒に全員揃って講習会場の建物を後にして、城門近くの円形交差点でそう言って手を振ってくれた笑顔のマーサさんと別れた俺達は、一列に並んでいそいそと外へ出ていった。もちろん通ったのは貴族用の城門だよ。
出て来た俺達に気付いてはしゃぎ始めた街道にいた人達に誤魔化すように手を振り、早々に街道を離れて走り出した俺達だった。
うん、やっぱり俺にはモブその一くらいの扱いが似合ってるって。
「あの赤い花が咲いてる木まで競争!」
しばらく流して走っていたんだけど、マックスの頭の上に立ち上がったシャムエル様が唐突にそう宣言する。
「あの赤い花が咲いてる木まで競争だ!」
シャムエル様の声が聞こえない人達の為に、ハスフェルが笑いながら大声でそう叫ぶ。
一斉に加速する全員の口から歓声が上がる。
本当に見事なまでに横一列のまま走り続け、同時に目標の木を追い越して走る俺達。
「うわあ、なんて速さだ! こんなので五周も走ったらどうなるんだよ!」
笑ったアルクスさんの悲鳴のような叫びに、俺達から少し遅れてゴールした新人コンビも笑いながら揃って頷いている。
「何を言ってるんですかご主人! 五周くらい全力で走れますよ!」
ドヤ顔のロッキーの叫びを俺が通訳してやると、アルクスさんは驚いたように目を見開いてから嬉しそうにロッキーの首元を叩いた。
「そうか、さすがだな。じゃあ、頼りにしているから本番でもしっかり走ってくれよな」
嬉しそうなアルクスさんの言葉に、得意げに大きくワンと吠えてもっとドヤ顔になるロッキーだった。
ううん、冗談抜きで、俺の三連覇のハードルが爆上がりしている気がするんだけど、これは気のせいじゃあないよな。
割と本気で、新人講習は祭りの後にするべきだったかと考えた俺だったよ。