魔獣使いの遊び方?
「ううん、良い天気だ」
従魔達を全員引き連れて庭に出た俺は思わずそう呟いた。
何しろ見上げた空は、真っ青で雲一つない良いお天気だよ。よし、外で従魔達と一緒に遊ぶにはうってつけのお天気だね。
「ご主人、何して遊ぶにゃ?」
もう、キラッキラに目を輝かせたマニ達がそう言いながら俺の足にまとわりつく。
「さて、何をして遊ぶかねえ」
焦らすようにそう呟きながらにんまりと笑った俺は、以前にも遊んだ紐で作った巨大猫じゃらしもどきを取り出して見せた。
要するに、一メートルくらいの太めの紐の端の片方を大きく玉結びにして、反対の端には数十センチに切った細い紐を束にして結びつけてあるだけだ。
単なる紐の束だけど、これがもう従魔達的には最高に楽しいおもちゃになるみたいだ。
「一応言っておくけど、今回はアルクスさんとロッキー達を遊ばせるのが目的なんだから、お前らだけで遊んじゃあ駄目だからな」
今にも飛びかかりそうな猫族軍団に、一応そう言って釘を刺しておく。
「もちろん分かってるわ。ちなみにあの人間も一緒に遊ばせてあげたほうがいいのよね?」
アルクスさんをチラリと見たティグの質問に、驚きつつ頷く。
「おう、もちろん彼にはロッキー達と一緒に遊ばせてやりたいんだけど……出来るか?」
俺の質問にティグだけでなく、全員の従魔達が揃って大きく頷いたよ。マジか?
「じゃあご主人、そのおもちゃをまずは彼に渡して遠くへ投げるように言ってくれるかしら。最初はロッキーに取りに行かせるわ。それで戻ってきたら、後は私達にお任せって事でね」
自信満々にそう言われて、俺はもう吹き出しそうになるのを必死で堪えていたよ。
「了解、じゃあちょっと待ってくれよな」
腕を伸ばしてティグをそっと撫でた俺は、何をしたらいいのか分からず戸惑っているアルクスさんを振り返った。
「じゃあ、まずは第一投はアルクスさんにしてもらいましょうかね」
そう言って、手にしていた巨大猫じゃらしをアルクスさんに渡す。
「ええと、これをどうしろと?」
渡したそれを見ても意味が分からないみたいで、首を傾げながら俺を見てそう聞いてくる。
「思いっきり遠くまで投げてやってください。ロッキーが取ってきてくれますから」
俺の言葉に納得したように頷いたアルクスさんは、すぐ側で彼の手元をガン見しているロッキーを見た。
「じゃあ、投げるぞ」
一つ大きく深呼吸をしたアルクスさんは、そう言って言葉通りに本当にすごい勢いで猫じゃらしを放り投げた。
綺麗な弧を描いて投げられた猫じゃらしが遥か遠くまで飛んでいく。
おお、お見事。さすがは上位冒険者。なかなかの腕力ですねえ。
その瞬間、ロッキーは文字通り放たれた矢の如くすごい勢いで投げられた猫じゃらし目掛けて駆け出して行った。
そして、それを見てから一斉に走り出す従魔達。
「おお、速い!」
走っていく従魔達を見て、思わずと言った感じにアルクスさんがそう言って笑顔になる。
投げられた猫じゃらしに飛びつき、地面に落ちる前に見事に空中キャッチしたロッキーを見て拍手する俺達。
もちろん他の従魔達がそれを見てこっちへ走って戻ってくるロッキーを追いかけ始めるが、明らかに手加減しているのが分かる程度の速さだ。
「おお、見事だ。よしよし。ええと、もう一度投げればいいんですかね?」
巨大猫じゃらしを咥えて戻ってきたロッキーを見て嬉しそうに笑いながらそう言ったアルクスさんは、ロッキーを撫でてやりつつ俺を振り返る。
「そうですね。まあ頑張って投げてやってください」
この後の状況が容易に予想出来てしまい、もう笑いが我慢出来ない俺がプルプル震えながらそう言い、ロッキーが咥えていた巨大猫じゃらしをアルクスさんに渡す。
次の瞬間、アルクスさんの悲鳴が響き渡り俺達が全員揃って吹き出す。
何しろ、猫じゃらしを持ったアルクスさんに、彼の周りにいた従魔達全員が目を輝かせて一斉に飛びかかったのだから。
情けない悲鳴と共にもふもふの海に沈むアルクスさん。
当然、目を輝かせたロッキーと巨大化したセキセイインコのチッチ、そしてスライムのキャンディまでもが張り切って飛び込んでいったよ。
「うわあ、ちょっ、待て、何が、おい、やめてくれ、く、くすぐったい!」
もふもふの海の中から焦るようなアルクスさんの悲鳴が聞こえていたんだけど、途中からは笑いながらの言葉になっていたから誰も助けに行かない。ってか、俺達全員もう大爆笑状態だ。
「うわあ、ちょっと待ってくれって!」
その時、もふもふの海の中から、彼を背中に乗せたロッキーが飛び出してきてそのまま走って逃げ出すのを見てまた吹き出す俺達。しかも一応鞍無しとはいえロッキーの背中に跨ってはいるんだけど、完全に体が後ろに倒れていて仰向けでしかも万歳状態だ。
もちろん、そんな状態でも彼の体はスライムのキャンディがしっかり確保しているから落ちる心配なんてない。
だけどアルクスさんは、ロッキーの背中の上で仰向けになって万歳状態で空を見たまま情けない悲鳴を上げている。たまに、いきなり加速された時なんかに俺もなる状態だよな。あれ。
だけどそんな状況でも右手にはしっかりと猫じゃらしが握りしめられているのを見て、また俺達が揃って吹き出す。
当然、それを見た従魔達が一斉にロッキーを追いかけ始める。
とはいえ、もちろん普段の速さからすれば流して走っている程度の速さだよ。
そして先頭を走っているとはいえ、マニとカリーノとミニヨンまでが他の子達と同じくらいの速さで一緒になって流して走っている。
その様子を見た俺は、逆に子猫達の成長っぷりを見せられて密かに感動したよ。いやマジで、アルクスさんの事やロッキー達の事も全部分かった上で加減して遊んでるって事だもんな。
しばらく逃げていたロッキーに従魔達が追いつき、またしてももふもふの海に沈むアルクスさん。
だけどもう、途中からの彼はずっと笑っていたよ。
その様子を見て、もう笑いが止まらない俺達だった。
うん、皆グッジョブだぞ!