いただきます!
「はあい、完成しました〜〜〜!」
クラブハウスサンドの最後の一つを仕上げたところで、アクアが得意そうにそう言い、スライム達が一斉に伸び上がって見せる。
俺には分かるぞ。今のはドヤ顔だ。
「いやあ、相変わらず何度見ても凄いですよねえ」
「本当に、スライム達にこんな事が出来るなんて考えてもいませんでしたよ」
若干わざとらしく、ランドルさんとボルヴィスさんがそう言ってうんうんと頷き合っている。
二人の間に挟まれたアルクスさんは、もう驚きすぎで表情が無くなってるよ。その無表情は見ていてちょっと怖いから、早く元に戻ってくれ。
「ご苦労さん。じゃああっちで遊んでいてくれていいぞ」
「はあい!」
一仕事終えたスライム達を順番に撫でたり揉んだりしながらそう言ってやると、嬉しそうに返事をしたソフトボールサイズのスライム達は、もふ塊になっている従魔達のところへ転がっていった。
マニ達が跳ね飛んできたスライム達と追いかけっこを始めるのを見てから、俺は机の上にぎっしりと並んだBLTサンドとクラブハウスサンドを振り返った。
「ううん、改めて見るとちょっと作りすぎたかも。でもまあ、残ったら収納しておけばいいよな」
小さく笑ってそう呟き、アルクスさんを振り返る。
「じゃあ食べましょうか。どうぞ好きなのを取ってください。ここでの決まりは、お皿に取った物は残さない事。それだけですよ」
素知らぬ顔でそう言い、飲み物やスープ、それからガッツリ食いたい人用に揚げ物なんかも一通りいつものように取り出していく。
もちろん、シャムエル様用に作り置きのタマゴサンド各種も取り出しておいたよ。
「よ、よろしいのですか?」
ようやく我に返ったらしいアルクスさんがそう言って俺を見る。
「ええ、せっかく同じ屋根の下にいるんですから、食事くらいご一緒しましょうよ」
なんでもない事のようにそう言い、俺は自分用とシャムエル様用に、一通りお皿に取っていく。
ランドルさんとボルヴィスさんにも何か言われたアルクスさんは、改めて俺を見て深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。では厚かましくもご一緒させていただきます。これを作ってくれたスライム達にも心からの感謝を」
スライムなんかが作った料理を食べられるか! なんて言われる可能性も考えていたんだけど、そこまででは無かったらしい。
ランドルさんと何か話しながらクラブハウスサンドを取るアルクスさんは、特に嫌がる様子もない。
成る程、確かに色々と思うところはあるが、根は悪い人ではないみたいだ。
どうやら改善の余地は充分にありそうで、密かに安堵した俺だったよ。
高速ステップを踏むシャムエル様には、いつものタマゴサンドとBLTサンドとクラブハウスサンドを半分ずつ渡してやり、コーンスープとホットオーレもそれぞれ出されたお椀と盃に入れてやる。
「うわあ、美味しそう! では、いっただっきま〜〜〜す!」
ご機嫌でそう叫んだシャムエル様は、まずはいつものタマゴサンドに頭から突撃していった。
「ううん、やっぱりタマゴサンドは最高だね!」
「どうして、その食べ方で後頭部にマヨタマゴが付くんだよ」
頭頂部から後頭部までベッタリとついたマヨタマゴを見て、笑いが止まらない俺だったよ。
「ふむ、これは美味しいですね」
クラブハウスサンドを半分ほど食べたアルクスさんが、しみじみとそう呟いて手に持ったそれを見つめる。
「それにしても、スライムにあんな事が出来たなんて自分の目で見てもまだ信じられません。一体、ケンさんはどうやってあれをスライム達に教えたんですか?」
顔を上げたアルクスさんは、俺を見て真顔でそう質問する。
「あれを見た全員が、アルクスさんと同じ質問をしますよ。でもね、実を言うと、俺が特に何か教えたわけじゃあないんですよ」
笑った俺の言葉に目を見開くアルクスさん。
「ええ、ご冗談を。ケンさんの従魔なのですから、貴方が教えずに誰が教えると言うんですか?」
慌てたようにそう言ってハスフェル達を振り返る。
当然、彼らやリナさん達は揃って顔の前で手を振る。もちろんランドルさんとボルヴィスさんもね。
「あれは旅を始めてから、俺が料理をしているのを見たアクアとサクラが俺を手伝おうと思って自主的に始めてくれた事なんですよ。確か最初に手伝ってくれたのは、ジャガイモの皮剥きだったよな」
足元に転がってきていたアクアを拾ってそっと撫でてやると、伸ばした触手を俺の腕に絡みつかせたアクアが得意げに伸び上がった。
「そうだったね。今はもっとたくさんお手伝い出来るもんね〜〜〜!」
「ああ、頼りにしてるよ」
両手でアクアを揉んでから床に落としてやるとそのまま転がっていき、集まっていた仲間達に当たって更に転がる。
当然ビリヤード状態で他の子達もあちこちに転がる。そしてそんなスライム達を見て、目を輝かせて追いかけるマニ達。
またしても始まった追いかけっこを見ながらBLTサンドを齧る。
「じ、自主的にあれを覚えた? スライムが?」
俺の言葉を聞いて呆然とそう呟き、マニ達に追いかけられて大はしゃぎで跳ね飛んで逃げるスライム達を見るアルクスさん。
「最初はそうでしたね。ちなみに新しい事は、まずは一度俺が実際にやって見せてやるんですよ。これくらいの分厚さに切るとか、混ぜ方はこうだとかね。そうすればもう次からはしっかり覚えてやってくれますよ」
「ええ、サンドイッチを作るだけでなく、混ぜたりもするんですか?」
「もちろん。揚げ物の下ごしらえなんて肉を切るところから全部やってくれますよ。ただし味付けは加減が分からないらしく出来ないので、それは全部俺がやっています。それから火はスライム達には厳禁なので、火を使う部分は俺がやっていますね。煮たり焼いたり揚げたりね」
「な、成る程。覚えようとしても出来る事と出来ない事があるのですか。それに確かに、スライムに火は厳禁ですね」
うんうんと頷いたアルクスさんは、自分の従魔であるスライムのキャンディを見た。
「えっと、あんなお料理は、キャンディには、ちょっと無理だと思います。ごめんなさい」
すっごく申し訳なさそうなキャンディの言葉を通訳してやると、小さく吹き出したアルクスさんは、手に持ったままだったクラブハウスサンドをお皿に戻してから、キャンディを両手でそっと捕まえた。
「そもそもあんな料理は俺にも無理だよ。じゃあ、キャンディでも出来る事を、これから一緒に探していこうか」
笑いながらの優しいその言葉に、キャンディが嬉しそうに伸び上がってから、アルクスさんの手に触手を伸ばして甘えるみたいに絡みつく。
一瞬驚いたように目を見開いたアルクスさんだったけど、さっきアクアが同じ事を俺にしていたのを思い出したらしく、にっこり笑って手の中のキャンディをそっと撫でた。
「改めてよろしくな。俺はその……色々不器用だから、嫌な思いをさせていたらすまない」
「嫌な事なんて全然無いよ〜〜!」
嬉しそうなその言葉も通訳してやると、なぜか照れたらしく真っ赤になっていたよ。
よし、まずは従魔達についてはかなり考えを改めてもらえたみたいだな。