スライム達と料理タイム!
「さて、何を作ろうかな」
サクラが一瞬で入ってくれた鞄を椅子に置いた俺は、小さくそう呟いて立ち上がったまま腕を組んで考える。
アルクスさん以外の全員が、満面の笑みでそんな俺を黙って見つめている。
「確かにそろそろ食事の時間ですね。食べに行くんですよね?」
部屋を見回して立ち上がりながらそう言ったアルクスさんだが、誰も返事をしない。
「どうかしましたか?」
無言で全員が俺を見つめているのに気が付き、不思議そうにしつつもアルクスさんも俺を見る。
「よし、じゃあクラブハウスサンドとBLTサンドにしよう。ええと、まずは材料と道具を出さないとな」
完全にアルクスさんを無視してそう呟き、俺はサクラが入った鞄から順番に材料を取り出し、携帯コンロと大きめのフライパンをはじめとするいつもの道具一式も取り出して並べた。それから簡易オーブンも二個取り出して並べておく。
「じゃあこのパン十本、全部いつものように切ってくれるか。それからこのトマトは輪切りに、ベーコンと鶏肉もいつも通りにカットよろしく〜」
「はあい、じゃあやりま〜す!」
俺の指示に従って、並べてあった一本につき三斤分の食パンをアクアとアルファとベータ、それからイプシロンが順番に飲み込み、鶏肉とベーコンも他のスライム達が適当に合体してから、まるっと飲み込んで一斉にモゴモゴし始める。
洗ったレタスとトマト、目玉焼きは作り置きがあるのでそれをまとめて取り出しておき、俺はオーロラソースの準備を始める。
「ええ、ケンさんは料理をなさるんですか。それにしてもスライム達は一体何を……?」
食パンや鶏肉、それからトマトやベーコンの塊を飲み込んでモゴモゴし始めたスライム達を見て、アルクスさんは思いっきり戸惑っている。
まあ、あれを知らない人が見たら勝手にスライム達が食材を食べていると思うだろう。
素知らぬ顔で俺が大量のオーロラソースを作ったところで、綺麗な八枚切りになった食パンをアクア達が用意してあったまな板の上に大量に吐き出していく。
それを見たハスフェルとギイとオンハルトの爺さんが、取り出しておいた簡易オーブンに切ったパンを入れて焼き始めてくれた。
いつも食べているので、それくらいの段取りは分かってくれたみたいだ。
「おう、ありがとうな。焼き上がったパンは、冷めないように収納しておいてくれるか」
「了解だ。任せろ」
笑ったハスフェルがそう言ってくれたのでパン焼きは彼らに任せておき、俺はもう一つ取り出したコンロにも大きなフライパンを取り出し軽く油を引いてから火をつけた。
「ご主人、切ったお肉はどこに出しますか?」
「おう、じゃあここに並べてくれ、塩胡椒をするからな」
ガンマとデルタが張り切ってそう聞いてきたので、取り出しておいた大きなバットを渡しておく。
「ケンさん、肉を焼くのなら俺も手伝います。これ、いつもみたいに焼けばいいんですよね?」
切った鶏肉にスパイスを振りかけているとアーケル君とギイが来てくれたので、鶏肉とベーコンを焼くのは彼らに任せておく。
スパイスを振りかけている時も手の空いた子達がさっと鶏肉を裏返してくれるので、俺は一切生肉には触っていないんだよな。楽ちん楽ちん。
アルクスさんは、手慣れた様子で当たり前のようにせっせと働くスライム達を見て、もう驚きすぎて完全に固まっている。
うん、とりあえず瞬きはしような。目が乾くよ。
「じゃあ、まずはBLTサンドからだな」
先に焼き上がったカリカリベーコンが山盛りになったお皿を見て笑った俺は、ハスフェルが取り出してくれた焼きたてのパンの山を見る。
「じゃあ後はよろしく!」
笑ってオーロラソースの入った大きなお椀を置き、レタスと輪切りにしたトマトとカリカリベーコン、それから目玉焼きを並べる。
「は〜〜い! じゃあ作りま〜〜す!」
張り切ったアクアとアルファの声に、手の空いている子達がソフトボールサイズになってテーブルの上に並んで一斉に作業を始めた。サクラはまだ鞄の中だから作業には参加していない。
焼いたパンにオーロラソースを軽く塗る子を始め、流れ作業で進んでいく。
オーロラソースを塗ったパンにレタスを並べ、カリカリベーコンを絶妙な量でぎっしりと並べる、その上にもう一回レタスを並べる、その上に輪切りのトマトを並べ、最後に目玉焼きをのせてもう一枚のパンで挟めば完成だ。
半分に切ってお皿に並べたBLTサンドが、スライム達の手によって量産されていく。
「じゃあ次はクラブハウスサンドだな。こっちで使うのはベーコンエッグだな」
これも作り置きがあるのでそれを取り出し、ギイとアーケル君が焼いてくれた鶏肉の並んだお皿の横に、追加で取り出したレタスとトマトを並べる。
それから、こっちで使うのはケチャップとマヨネーズなのでそれぞれ大きな瓶も取り出して並べたところで、BLTサンドを作り終えたスライム達が一斉に移動してくる。
それを見て、ハスフェルが残り半分の焼いたパンを大量に取り出してくれた。
「じゃあこっちはクラブハウスサンドでよろしく。まだもうちょっと鶏肉を焼いてくれているから、ゆっくり作業してくれていいぞ」
近くにいたアルファをそっと揉みながらそう言ってやると、にょろんと出て来た触手が一瞬だけ俺の手に絡まってすぐに引っ込んだ。
この控えめな甘え方もたまらないよ。
「はあい、じゃあちょっとゆっくりしま〜す!」
嬉しそうにスライム達がそう答えて、さっきよりも少しゆっくりとクラブハウスサンドを作る作業を始めた。
焼いたパンにマヨネーズとケチャップを塗る子を筆頭に、ベーコンエッグをのせてここにもケチャップ少々、マヨを塗ったパンを一枚のせて反対側にもマヨを塗る、そこへレタスを並べ輪切りのトマトも並べ、ここへ焼きたての鶏肉をオン! 最後にマスタードをたっぷりと塗った焼いたパンで挟めばクラブハウスサンドの完成だ。
「おお、さっきよりゆっくりだから、スライム達が何をしているかがよく分かるぞ」
笑って小さくそう呟いた俺は、横目でこっそりアルクスさんを見る。
彼はもう、瞬きすら忘れて目の前の光景を見て完全に固まっていたよ。
彼の左右にはランドルさんとボルヴィスさんが並んでいて、小さな声で彼に何か話しかけている。どうやら、スライム達がしている事を詳しく解説してくれているみたいだ。
「な、な、な……」
さっきよりはちょっと落ち着いたみたいだけど、やっぱり驚きすぎてアルクスさんは言葉も出ないみたいだ。
その様子に何故かドヤ顔になっているランドルさん達を見て、ちょっと本気で笑い出しそうになるのを必死で堪えた俺だったよ。
待ってくれよ。そこは俺がドヤるところだよな?