今と昔の魔獣使いの違いとは?
「と、とにかく俺の従魔達を紹介します」
このままだと状況がどんどん険悪になりそうだったので、一旦話を無理やりぶった斬って、とにかく俺はそう言ってマックスの首輪を掴んで顔を寄せた。
「改めまして、この子が、早駆け祭りで俺と一緒に走ったヘルハウンドの亜種の魔獣のマックスです!」
グイって感じにマックスを引っ張り、ちょっと声に力を込めてあえて、この子、と言ってやる。
「はい、早駆け祭り二連覇おめでとうございます。前回の早駆け祭りは、私も見ていました。ゴール前の激闘は本当に凄かったですね。それにしても、こうして見ると本当に立派な従魔ですね。毛艶も素晴らしい」
マックスを見上げながら笑顔でそう言われて、やっと話が通じる部分があったと分かり密かに安堵したのは内緒だ。
そこから改めて俺の従魔達をアルクスさんに順番に紹介し、それが終わったところでハスフェル達の従魔を紹介した。
それからリナさん達も自己紹介をしながら自分達の従魔を紹介して、ランドルさん達も再会の挨拶をしながら従魔達を順番に紹介していった。
ランドルさんとボルヴィスさんの事はアルクスさんも覚えていたみたいで、彼らが魔獣使いになったのを知って驚いたと言って笑い合っていた。
皆、にっこり笑って、この子、って部分を強調しながら紹介していたのには、ちょっと笑ったね。
だけどアルクスさんはもう、この子、って言葉を聞いても特にさっきのように何か言う様子はなく、にこやかに挨拶をしたり従魔を見て感心したりしていた。
だけど、その様子を後ろから見ていて、それでもどうにも拭いきれない違和感を覚える俺だったよ。
「ううん、人としては確かに悪い人じゃあないみたいなんだけど、どうしたらこのモヤっと感を解消出来るんだろう」
ごく小さな声でそう呟いた時、シャムエル様が妙に優しい様子で俺の頬を撫でてくれた。
「ん? どうかしたか? あ、そろそろ腹が減ったかな?」
顔を上げた俺の言葉に、シャムエル様が吹き出す。
「もちろん、何か出してくれるなら喜んでいただくよ。そうじゃあなくて、ケンが多分感じているだろう違和感について解説してあげる」
最後は真顔になってそう言われて、思わずシャムエル様に向き直る俺。
「お願いします」
割と本気でそう言って座り直す俺を見て、シャムエル様はこれ以上ないくらいの大きなため息を吐いた。
「あのね、あのアルクスさん。彼は、昔の魔獣使いやテイマーの様子や価値観そのままなんだ。つまり、従魔を自分の所有物とみなし、自分の方が上の存在であると疑いもしない。従魔は主人に尽くすのが当たり前で、感情なんてない。くらいに考えていたね。まあ、あそこまで極端なのは私も久し振りに見たけどね」
「ああ、成る程。そういう事か」
シャムエル様のその言葉に、妙に納得してそう呟く。
確かにあのアルクスさんの価値観は、初めて会った時のボルヴィスさんよりも、もっと酷い価値観だと思えば納得も出来る。
「彼自身は、それが良くない事だなんて全く考えてもいないし、自分の価値観を疑いもしない。だけどまあ、少なくとも悪い人ではないみたいだから、価値観を矯正させる余地は充分にあると思うよ。とりあえず、ケンは嫌かもしれないけどしばらく一緒に過ごすのが良さそうだね。ケンも含めて、今の魔獣使い達の価値観や従魔達との接し方を身近で見せてやるのが一番効果があると思うよ。ちなみに、彼が魔獣使いになれないのは、さっきケンが言った通りで、魔獣使いになれるくらいの力は充分にあるのに、彼自身がそれを封じているって言うか塞いでいる感じだね。まあ、今後どうなるかは彼自身にかかっているよ」
苦笑いするシャムエル様の言葉に、俺も納得して大きく頷く。
「じゃあ、彼が魔獣使いになれるかどうかは、彼自身に頑張ってもらうしかないわけだな。まあ、ここは広いし部屋もいっぱいあるから良いんじゃないか。とりあえず、彼の対応はランドルさんとボルヴィスさんにしばらくは任せるよ。それが一番良さそうだ」
顔を寄せてにこやかに話をしているランドルさんとボルヴィスさんを見て、苦笑いしながらそう言って大きなため息を吐いた俺の言葉に、シャムエル様も苦笑いしながらうんうんと頷いてくれたよ。
その後、とりあえず改めて座り直して、俺はアルクスさんに、皆にも話した魔獣使いやテイマーとしての基本的に絶対知っておかなければならない事。つまり、一日のテイム数の上限や、主人に捨てられた従魔がその後どんな悲惨な末路を辿るかって事を、詳しく話して聞かせた。
アルクスさんは、時折うんうんと頷きつつ、意外なくらいに真面目に話を聞いてくれたよ。
最初はどうなる事かと心配だったんだけど、捨てられた従魔がどうなるかって話を聞いた時、膝の上にいたスライムのキャンディをそっと両手で抱きしめた彼を見て、これはなんとかなるんじゃあないかと密かに期待した俺だったよ。
「まあ、とりあえずはそんなところかな。ええと、ここまでで何か質問とかありますか?」
一通りの話を終えたところでそう尋ねると、真剣な顔で考え込んでいたアルクスさんは顔を上げて俺を見上げた。
「お話しいただきありがとうございます。成る程。魔獣使いと従魔の関係は、私が考えていたものとはかなり違うようですね。出来れば私も自分の従魔達と、皆様のように直接言葉を交わしたいです」
真剣な様子でそう話すアルクスさんを見て、俺は少し考える。
このまま彼を郊外へ連れていって、果たしてこれ以上の従魔をテイム出来るのだろうか?
シャムエル様は、彼自身がいわば自分の才能を塞いでいる状態だと言っていたから、今はまだ駄目だって事だよな。
「言葉を交わすには、魔獣使いにならなければいけませんからねえ。焦る気持ちは分かりますが、とりあえずしばらくは俺達と一緒にいて、従魔達との接し方を見てください。ええと、ランドルさんとボルヴィスさんに、しばらく彼の事を頼んでもいいかな?」
丸投げするみたいで悪いけど、ここは少なくとも彼と友好関係にある二人に任せるのが一番良い気がする。
「もちろん、俺達の方からそう提案するつもりでした。ここはお任せください」
にっこりと笑ったランドルさんに続き、ボルヴィスさんも笑顔で大きく頷いてくれた。
「良かった。じゃあよろしくお願いします。もちろん、何かあったらなんでも協力しますので、いつでも遠慮なく言ってください」
俺の言葉に、揃ってもう一度大きく頷いてくれた二人だったよ。
うん、頼もしい仲間がいて良かったと心の底から思った瞬間だったね。
「じゃあ、そろそろ腹が減ってきた事だし食事にしようか」
笑った俺の言葉に、アルクスさん以外の全員から拍手をいただき思わず吹き出したよ。
なんだよ、そんなに腹が減っていたのか。
よし! じゃあここはアルクスさんに、スライム達の有効性を見せてやるべき場面だよな!
サクラが入った鞄を手にした俺は、スライム達と一緒に何を作ろうか考えてちょっとワクワクしていたのだった。