従魔の役割とは?
「一体何が問題だと言うのですか?」
本当にムジカ君とシェルタン君が怒っている理由が分からないらしく、平然とそう言って二人を見るアルクスさん。
「では一つ質問です。貴方にとって従魔とはどんな存在ですか?」
真顔のムジカ君が発したその真正面からの質問に、アルクスさんは不思議そうに首を傾げた。
「どんな存在? 私の戦いを助けてくれる存在ですよ。冒険者が連れている従魔の役割なんてそれしかないでしょう」
ある意味予想通りの答えに、俺は思わず彼の連れている真っ白なオオカミを見た。
その答えを聞いてごく小さく鼻で鳴いたその子は、何か言いたげにアルクスさんを見てからしょんぼりと俯いてしまった。
くるんと丸まったふかふかな尻尾は、今は完全に垂れ下がって足の間に隠れるかのように挟まっている。
犬族の子の尻尾は本当に嘘をつかない。
「従魔の役割が、それしかない?」
完全に怒った口調でそう呟いて、眉間にこれ以上ないくらいの皺を刻んだムジカ君がグッと拳を握るのを見て、俺は彼に合図をしてからゆっくりと進み出た。
せっかくなのでまずは新人コンビに任せようかと思ったけど、このままだと掴み合いの喧嘩に発展しそうだったからさ。
ちなみに俺は、アルクスさんではなくその真っ白なオオカミの横へ行った。
そして、項垂れている真っ白なオオカミの首元をそっと叩いてから撫でてやり、当たり前のように話しかけた。
「はじめまして、魔獣使いのケンだよ。真っ白で綺麗な毛並みだね。君の名前を聞いてもいいかい?」
人の従魔に直接話しかける俺を見て、アルクスさんの目が見開かれる。
「はじめまして。魔獣使いのケン様。私の名前はロッキーです」
この子は雄だったらしく、顔を上げた真っ白なオオカミはやや低めの声でそう答えてくれた。
「ロッキーか。いい名前だな。ええと、君達の名前も聞いていいかい?」
彼の両肩に留まっている黄色のインコとスライムにも話しかけてやると、二匹はそれぞれ嬉しそうに羽ばたきビヨンと伸び上がった。
「私はチッチと申します」
軽く翼を広げた黄色のインコは、可愛い声でそう答えてくれた。このこは雌みたいだ。
「キャンディだよ〜〜」
そして、同じく嬉しそうに伸び上がった幼い声のスライムの言葉に思わず吹き出す俺。
「そっか、チッチとキャンディか。おいおい、クリアースライムのキャンディがまた現れたぞ」
笑った俺の言葉を聞いて、同じく吹き出すランドルさんとボルヴィスさん。
そして二人は、同時にそれぞれ自分のクリアーのスライムを右手に乗せて差し出してくれた。
「キャンディだよ〜〜!」
「キャンディです〜!」
「一緒だね。よろしく〜〜! キャンディです!」
嬉しそうにそう言ったスライム達は、ぴょんと跳ね飛んでアルクスさんの肩の上に集まり、スライム流挨拶であるおしくらまんじゅうを始めた。
「な、何故……何故ケンさんは人の従魔と、人の従魔と話が出来るんですか?」
そんなスライム達を呆然と見ていたアルクスさんは、しばらくしてからようやく我に返って俺を見てそう尋ねてきた。予想通りのその質問に、俺は笑って肩をすくめて見せる。
「俺は仲間内限定ですが、念話の能力持ちなんですよね。その能力のおかげで、テイムされた子なら自分の従魔じゃあなくても話が出来るんです。まあ、魔獣使いとしては有り難い能力ですよ」
自分の頭を指で軽く突っつきながらそう言うと、アルクスさんはまた目を見開く。
「そ、それは……さすがは史上最強と名高い魔獣使い殿ですね。素晴らしい」
驚きつつも平静を装ってそう言うアルクスさんを見てから、俺は改めて真っ白なオオカミであるロッキーに向き直った。
「なあロッキー、ちょっと質問なんだけど、夜寝る時にはどうしているんだ?」
答えはわかっていたけど敢えてそう聞いてやりながら首元をそっと撫でてやる。おお、これはマックスに負けないくらいのなかなかに良きむくむくの毛並みだぞ。
「どうって……野営の時は、私は警戒を兼ねてテントの外で寝ています。あの子達はご主人と一緒にテントに入っていますよ」
「じゃあ、街の宿に泊まった時は?」
「街の中の宿に泊まった時は、私は警戒を兼ねて庭で休んでいます」
これまた予想通りの答えに、俺はわざと大きなため息を吐いてやる。
「そうか。アルクスさんはせっかくテイマーになったのに、従魔達との一番幸せな時間を過ごしていないんだ。ええと、チッチとキャンディは、彼と一緒にテントの中に入ってどうしているんだ?」
アルクスさんを無視して従魔達に話しかける俺を見て、もうアルクスさんは口をパクパクさせているだけで声もない。
「どうって、私はご主人の荷物の上に留まって休んでいますよ」
黄色のセキセイインコのチッチが戸惑うようにそう言って首を傾げている。
「キャンディは、そこら辺に転がっているよ?」
そして、こちらも意味が分からないと言わんばかりに伸び上がって答えてくれるクリアースライムのキャンディ。
「じゃあ、正しい魔獣使いの従魔との過ごし方を教えてやるよ。ほら、皆おいで」
振り返ってもふ塊になっている従魔達にそう言ってやると、心得ている従魔達が起き上がって一斉にこっちへ走ってきた。
「では、ベッドを作りま〜〜す!」
スライム達がそう言って、いつものように大きなスライムベッドを作ってくれる。
それを見て、その上に飛び込んで行って並んで横になるニニとマックス。
「よろしく〜〜〜!」
当然、俺はそう言ってニニとマックスの間に飛び込んでいき、最高にふかふかなニニの腹毛の海の中へ潜り込んで横になった。
そそくさとカッツェとビアンカが俺の足元に来てくっついて横になり、大型犬サイズになったウサギトリオが俺の背中側にくっついておさまる。
そしてマニとタロンが二匹並んで、俺の胸元に潜り込んで来る。
「ほら、これが正しい従魔達との夜の過ごし方ですよ」
ドヤ顔でそう言ってアルクスさんを見ると、彼はもうこれ以上ないくらいに目を見開いてもふもふとむくむくの中に収まる俺を見ていた。
ああ、駄目だ……寝心地良すぎて意識が遠くなるよ……。
もうちょっと自慢してやろうと思っていたんだけど、残念ながらあまりの寝心地の良さに負けた俺は、そのまま眠りの海へ落っこちていったのだった。ぼちゃん。