アルクスさん登場!
「はあ、良かった〜〜〜勝手に使うなって怒られたらどうしようかと思って、描いたはいいけどずっと不安だったんです。許可いただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!」
少し恥ずかしそうに赤い顔をしたシェルタン君は、俺が返した自分の紋章を描いた紙を抱きしめるようにしながら嬉しそうにそう言って笑っている。
「怒ったりなんかしないよ。それどころか、また俺の紋章を引き継いでくれる人が出来て俺も嬉しいって。従魔達と仲良くするんだぞ。これから先、もっともっといろんな従魔をテイムして仲間を増やさないとな」
「はい、頑張ります!」
目を輝かせるシェルタン君の言葉に、皆も笑顔になる。
「ああ、こうなると早く紋章を貰いたい! あとちょっとの辛抱〜〜!」
紋章を描いた紙を抱きしめながら、何度もそう言っては嬉しそうに体を揺らしている。
ああ、本当に可愛すぎるぞ!
「でも、テイムする際には一日の上限数は絶対に守るようにな。俺は冗談抜きで、うっかりやらかして心臓が止まりかけたんだからな」
二杯目のコーヒーを飲みながらそう言うと、クッキーを食べていた二人が驚いたように目を見開いて揃って俺を振り返った。
「ええ、マジですか?」
「心臓が止まりかけるって、冗談抜きで駄目ですよ!」
「うん、俺は倒れて意識が無かったからその辺の事は後からハスフェル達から聞いたんだけど、マジでやばかったみたいだ。だから、それは絶対に守ってくれよな」
「分かりました!」
「絶対に気をつけます!」
最後は一応真面目な顔でしっかり言い聞かせるように言うと、二人は揃って背筋を伸ばしてそう言ってくれた。
まあ、これだけ言っておけば大丈夫だろう。
そのあとは、のんびりとコーヒーを飲みながらハスフェルとギイが今までに行った地下洞窟の話や、彼らでも行けそうな地脈の吹き出し口の場所をいくつか教えてやっていて、彼らはもうそれはそれは真剣な様子で話を聞き、手持ちのまだほぼ真っ白なギルド発行の地図を取り出し、教えてもらった箇所に印を入れていたよ。
途中からは、俺も横でこっそり一緒に聞きながらギルド発行の真っ白な地図の方に聞いた箇所を追加で書き込んでおいたよ。
「まあ、そんなところかな。あとはもう自分で頑張って地図を埋めて行くといい。これも経験だ。さて、そろそろ時間的に来るんじゃあないかな?」
苦笑いするハスフェルの言葉に、同じくギイも苦笑いしている。オンハルトの爺さんは、もちろんアルクスさんの事は知らないので、困ったようにそんな二人を見ているだけだ。
「ええと、皆さんはそのアルクスさんをご存知ないんですか?」
ハスフェルとギイが当てにならない以上、ここは同じ上位冒険者であるランドルさんやボルヴィスさん、それからリナさん一家を頼るべきだよな。
そう考えて素直にそう尋ねると、リナさん一家は困ったように揃って首を振っているので、どうやらアルクスさんとの接点は無かったみたいだ。
「ああ、俺は彼と臨時のパーティーを組んだ事があるよ、確か郊外の農場に野生のオオカミの群れが出た時だったな。腕は立つし咄嗟の判断も早い、ちょっと堅苦しいところはあるがなかなか良い奴だった覚えがあるぞ」
ボルヴィスさんが、少し考えてそう教えてくれる。
「俺もバッカスと一緒にアルクスさんと臨時でパーティーを組んだ事があるな。確か郊外の農地にオオカミの魔獣が複数出現して、毎回牛を取られて困っているとの依頼だったな。確かに腕は立つし咄嗟の判断も早い、信頼出来る良い人だったよ」
ボルヴィスさんに続き、ランドルさんもうんうんと頷きながらそう教えてくれたので、どうやら本人に問題ありと言うよりは、ハスフェルとギイが苦手なタイプって感じみたいだ。
不安になりかけた気分が少し浮上する。
「そっか、じゃあまずは午前中は座学からだな。応援よろしく」
笑いながらそう言ってコーヒーを飲み干す。
その時、タイミングよくチャイムの音が聞こえて全員揃って部屋の扉を振り返った。
「お越しになったみたいだな」
「まあ、頑張るとするか」
苦笑いしたハスフェルとギイが揃って立ち上がり、俺達もそれに続いた。
従魔達まで総出で出迎えのために玄関へ向かう。
新人コンビも従魔達全員を引き連れて興味津々で後ろからついて来ている。
「はあい、今開けます」
閉まったままの扉に向かって大きな声でそう言い、鍵を開けてやる。
マーサさんはここの鍵を全部持っているんだから、勝手に開けて入ってきてもらっても全然構わないんだけど、中から俺が開けるのを待ってくれている。
急いで鍵を開けて扉を開けると、笑顔のマーサさんとその後ろに小柄な男性が真顔でこっちを見ていた。
「はじめまして、アルクスと申します。最強の魔獣使い殿にお会い出来て光栄です」
「あ、ああ。ケンです。どうぞよろしく。さあ、入ってください。詳しい話は中でしましょう。もちろん従魔達も一緒に入ってください」
小柄とはいえさすがは上位冒険者。身につけている装備はかなり良いもののようだ。
そして彼の背後には大型犬サイズになった真っ白なオオカミと、右肩には黄色のセキセイインコ、そして左肩にはクリアのスライムがいて思わず笑顔になった俺は、そう言って二人を招き入れた。
「では、お邪魔いたします」
深々と頭を下げながらそう言い、真っ白なオオカミを振り返った。
「キャンディ、俺とロッキーの足を急いで綺麗にしてくれ。人の家に入るのに汚れたまま入るのは駄目だからな」
「はあい、すぐに綺麗にしま〜す」
大真面目なアルクスさんの言葉に、肩に乗っていたスライムがポーンと跳ねて床に下り、すぐにオオカミとアルクスさんの足を綺麗にするのを黙って見つめる。
うん。様子を見る限り従魔達は彼にしっかりと懐いているようだが、これで魔獣使いになれないって、逆にどうしてなんだ?
廊下を歩きながら、密かに首を傾げる俺だったよ。